第42話 静かな取り付け
最初は、小さな違和感だった。
「……王都通貨の両替量が、増えています」
ユーリの報告は淡々としている。
だが、その内容は重い。
「信用証書への交換が、通常の三倍」
「理由は?」
「理由は、ありません」
私は、ゆっくりと頷いた。
(理由がないのが、理由だ)
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王都中央銀行。
「預金引き出しが増加」
「どの程度だ」
ダミアンは、数字を見る。
「全体の五%」
「まだ正常範囲だ」
彼は冷静だった。
「市場は不安に反応する」
「信用圏の資源契約が報じられています」
「当然だ」
彼は静かに答える。
「資源が裏付けられたと見れば、資金は動く」
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市場。
商人たちは、声を荒げない。
「王都通貨、減らしておくか」
「資源連動証書、増やす」
誰も叫ばない。
だが、手は動く。
両替商は、ひっそりと掲示を変える。
【王都通貨 買値 微減】
それは小さな調整。
だが、心理は揺れる。
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辺境伯領。
「取り付けでは、ありません」
ユーリが言う。
「計画的な移動です」
「ええ」
私は、帳簿を見る。
信用証書の流通量は増加。
準備高は維持。
「こちらは何もしません」
「買い支えも?」
「しません」
私は、即答する。
「王都通貨は、王都が守るべきです」
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王都中央銀行。
「七%に拡大」
側近が告げる。
ダミアンは、静かに机を叩く。
「まだ、耐えられる」
「金準備を放出しますか」
「まだだ」
彼は、ゆっくりと言う。
「市場は理性を持つ」
だが、理性はいつも遅い。
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ヴァルハイム港。
「王都通貨の受け取り、減らすか?」
「様子見だ」
海運業者たちは、冷静だ。
だが保険料率が、わずかに上がる。
それは、無言の評価だった。
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夜。
私は、窓辺に立つ。
「……崩れますか」
ユーリが小さく問う。
「崩れません」
私は答える。
「王都は強い」
「では」
「選ばれなくなります」
沈黙。
通貨は、信じられている限り強い。
だが疑われた瞬間、重くなる。
今起きているのは暴落ではない。
静かな移動だ。
叫びも、暴動もない。
だが――
王都通貨は、初めて“避けられている”。
私は、帳簿を閉じた。
「まだ序盤です」
本当の試練は、これからだ。
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