第41話 資源は誰のものか
北方同盟の使節は、雪の匂いを連れてきた。
「ヘンリク・アールヴァルト」
長身の男は、無駄のない動きで名乗る。
「我々の資源価格が、王都で動いている」
「承知しています」
私は、正面から応じる。
「先物契約による価格操作です」
ヘンリクは、わずかに口角を上げた。
「あなたは買い支えなかった」
「現物を持っています」
「市場は?」
「市場は市場です」
沈黙。
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会議は率直だった。
「王都は価格を揺らし、あなたの信用を揺らしたい」
ヘンリクは、地図を指で叩く。
「だが、我々の鉱山は止まっていない」
「供給は?」
「安定している」
私は、頷いた。
「ならば、価格に振り回される理由はありません」
ヘンリクは、じっとこちらを見る。
「提案は?」
「長期固定契約です」
ユーリが、資料を広げる。
「価格は市場平均ではなく、生産原価基準」
「一定幅のみ変動」
ヘンリクは、目を細めた。
「市場を無視するのか」
「市場を、限定します」
私は、静かに答える。
「信用圏内の取引は、原価基準」
「外部市場は、自由」
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「王都は怒る」
「怒らせます」
私は、淡々と続ける。
「価格操作の余地を減らす」
沈黙。
「我々に何の得がある」
「安定です」
私は、はっきり言う。
「価格が二割上がれば、需要が減る」
「価格が二割下がれば、採算が崩れる」
ヘンリクは、腕を組んだ。
「……安定は、退屈だ」
「崩壊よりは」
わずかに、空気が緩む。
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王都中央銀行。
「北方同盟が、長期契約に傾いています」
側近の報告に、ダミアンは目を閉じた。
「価格操作の効力が、限定されるな」
「供給遮断を?」
「できない」
彼は即答する。
「止めれば、王都が先に困る」
沈黙。
「……資源が、信用側についたか」
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辺境伯領。
会議は終盤に入る。
「条件は二つ」
ヘンリクが言う。
「一つ、契約は公開しない」
「二つ、資源担保率は四割に上げる」
ユーリが、息を呑む。
私は、数秒考えた。
「三・五」
「四」
「三・五」
沈黙。
そして、ヘンリクは笑った。
「いいだろう」
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契約は成立した。
【北方同盟・信用圏 長期資源契約】
価格は、安定。
供給は、保証。
信用証書の担保率は、上昇。
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夜。
私は、新しい準備高を記録する。
数字は増えている。
だが、それ以上に意味がある。
「資源が、選択した」
ユーリが、静かに言う。
「ええ」
私は、頷いた。
「価格ではなく、安定を」
王都は価格を揺らした。
だが供給は揺れなかった。
通貨戦は、資源戦へ。
資源戦は、契約戦へ。
そして今――
国家の外に、経済の軸がもう一本できた。




