第39話 中央銀行の論理
招待状は、予想より早く届いた。
【王都中央銀行総裁 ダミアン・ロストフより】
【為替政策に関する協議要請】
「……来ましたね」
ユーリが、小さく呟く。
「ええ」
私は、封を閉じた。
「ようやく、通貨の責任者が出てきました」
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王都中央銀行。
装飾は少ない。
だが重厚だ。
ダミアン・ロストフは、立ったまま迎えた。
「初めまして、レティシア殿」
声は穏やか。
視線は冷静。
「為替封鎖は、効きませんでしたね」
私は、率直に言う。
彼は、わずかに口角を上げる。
「効いています」
「陸路には」
「それで十分です」
沈黙。
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「信用証書は、通貨ではない」
ダミアンは、机上の資料を示す。
「だからこそ、脆い」
「なぜです」
「発行主体が、国家ではない」
「国家が、信用の保証ですか?」
「少なくとも、最後の責任は負う」
私は、静かに返す。
「最後に負うのは、税です」
ダミアンの視線が、わずかに鋭くなる。
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「通貨は、強制力で守られる」
彼は続ける。
「信用は、選択で守られる」
「ええ」
私は、頷く。
「どちらが長く続くと思いますか」
「国家は、百年単位で存在する」
「信用は、千年残ります」
沈黙。
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「理想論だ」
ダミアンは言う。
「不況が来たらどうする」
「資源が枯渇したら」
「戦争が起きたら」
私は、答える。
「国家は、印刷します」
彼は目を細める。
「信用圏は?」
「縮小します」
「それで耐えられるか」
「崩れません」
私は、淡々と続ける。
「無理に拡張しないからです」
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ダミアンは、初めて椅子に座った。
「あなたは、国家を否定していない」
「必要な単位です」
「だが、中心ではないと?」
「ええ」
沈黙。
「……厄介だ」
彼は、小さく笑った。
「反逆者なら、潰せた」
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「総裁」
私は、まっすぐ見る。
「あなたは、王都通貨を守りたいのですか」
「それとも、王都を守りたいのですか」
彼は、答えない。
数秒。
そして、低く言う。
「両方だ」
「なら」
私は、静かに告げる。
「信用を回復してください」
「どうやって」
「約束を守ることです」
沈黙。
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帰路。
ユーリが、小さく尋ねる。
「……勝ちましたか」
「いいえ」
私は、首を横に振る。
「彼は理解しています」
「では」
「本気で来ます」
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王都中央銀行。
ダミアンは、窓の外を見ていた。
「資源連動か……」
彼は、机に手を置く。
「ならば、資源を揺らす」
彼の目は、静かに決意していた。
為替戦は、次の段階へ進む。
通貨ではない。
――資源だ。
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