序曲 1(4)
頭の中で返答を組み立てる。
「朝食い忘れたから購買行きたくて」
踏切が上がると、ユダガワの後ろについて発進した。
「うわ朝抜くのは確かにキツいわー。ちゃんと食ってても2限でしぬもんな」
彼は僕に聞こえるように大声を出した。その声には不快な色が混ざっていない。むしろ、上機嫌で誰が聞いても好印象を受ける、そんな声だ。
この声を素で出せる奴は限られるだろう。
例えば同じように、機嫌の良い声を出してごらんと言われたら、僕はきっと出すことが出来ない。
でも、ユダガワはいつでもどこでも、こういう声で話すことが出来る。
こいつのそういう所を、僕は尊敬していて、同時に、羨ましいと思う。
「朝体育だし余計腹減るよなー」
「うっわ忘れてた今日シャトランじゃん。絶対食った方がいいわー」
横断歩道で止まる。
「朝イチで突るんだから、人気なやつ狙えよ!どーせなら完売させてこい」
ユダガワがこちらを一瞬振り返って、左側の口角を上げた。
こちらも同じ表情で返す。
「できるかアホ」
前から吹きつける頬を撫でる風に、暖かみを感じる。
朝の寒さで夏は過ぎ去ったと思ったけれど、まだ残っているみたいだ。
さっきよりも高くなった日が、僕たちの自転車の影を一層濃くして、スポークが放つ大輪の花が印象に残った。
こんな時、僕は、これがずっと続けばいいのにと思うことがあって、そんな自分を不思議だと思う。
1人の時には絶対考えないことだ。
やっぱり、この道を通る最中に、生まれ直したのかもしれない。




