序曲 2(1)
いつものように、時計の針がてっぺんを指すと鐘が鳴って、箱に詰まった生き物たちが一斉に動き出した。
購買に向かって走り出す者、部活動の練習のために急いで弁当をかき込む者など、皆が多種多様に動き出す。
僕はというと、ユダガワの机に弁当を広げ、彼が来るのを待っていた。
こいつの席は窓際だったので、開けた窓から吹き付ける風と、外で騒ぐ女子の声が印象的だった。
穏やかで刺激の無い、退屈な昼だ。
平和の定義を言うならば、きっとこういう情景のことなのだと思う。
いつでも些細なきっかけで壊せてしまうような、突然破裂して飛び散っても意外性を感じないような、甘ったるい状態。
ここの空気を吸って生きている人たちは、すっかり慣れてしまって、こんなことを考えることが無い。
思い出すことも、当然無い。
僕は元々違かったから、この空気に馴染めなくて、この時間には時々、走り出したい衝動に駆られる。
髪を撫でる風の中に飛び込んで、思いっきり駆け回って、あのライトを全身に浴びたい。
そして、あの振動を感じたい。
決して僕を祝福していないくせに、まるで僕のことを手放せないみたいに感じる、あの暗闇。
あちらに充満する重だるい空気を吸って、骨の髄まで染み込ませて、そのまま奈落の底へ堕ちていきたい。
いつ破裂したって、構わないから。
「やーすまんすまん。顧問の説教思ったより長めのやつでさあ。サバ読んじった」
彼が来たので、外を眺めるのをやめた。
「てかなんで呼び出されたんだっけ」
よっこらしょと言って、彼が席に着く。
「タナカがまた体育館の電気消し忘れたんだよ。もう3回目だぜ?うちの顧問2回までは許すけど3回目はガチギレだからダルいんよなー」
ユダガワは購買名物の唐揚げ丼を取り出すと、付属のマヨネーズをふんだんにかけ始めた。
僕も弁当を開けて卵焼きをつまむ。
「タナカだけ説教ってわけじゃないのか」
「1人のミスは全員の責任だってよ。ったく俺らはなんもしてないのにさー。これが言いたいだけだって」
ユダガワは割り箸を手に取るとこちらに向けて、眉間にシワを寄せ、口をすぼめた。
「チーム競技というのは、1人欠けたら成り立たない」
顧問の真似をしたらしい。
「代打でもゲームは成り立つだろ」
そう言うと、ユダガワは首を振った。
「あいつは俺たちにイッチダンケツして欲しいんだよ。そういうことされなくても仲良いっつーの。とことん古い考え方なわけよ」
彼は歯に割り箸を挟んで、思いっきり引っ張った。
頭を動かすと同時に射し込んだ光が跳ね返って、一瞬目の前に閃光が走った。
そういえばユダガワの入っている部活は奇抜な奴が多い。髪と耳が派手なだけで、教師は敏感になるのかもしれない。
それらが健全な証だということを忘れて。
きっと彼らは、今この一瞬も自分のしたいままに生きて、普通の大人になるだろう。
僕は将来どうなるか、分からない。
今この瞬間。空気が破裂したら、
普通の大人になれるかもしれない。




