序曲 1(3)
家に帰ってくると、すぐシャワーを浴びて、制服に着替えた。テーブルには家族が揃っていたが、席につかず適当につまんでドアへ向かうと、後ろから抗議の声が飛んできた。気にせずいってきますとだけ言って、家を出る。
壁に立て掛けた自転車を起こしてストッパを外し、目的地の方向へペダルを踏み込んだ。
自転車をこいでいる間、走っている時に感じるものは、決して感じない。地面と接していないし、体に直接響く痛みみたいなものが無いからかもしれない。それとも、自転車という機関と僕自身は、これまでどんなに巡っても交わってこなかったのかもしれない。
これまでって、いつからだ?
そんな簡単なことも分からない。僕は、僕たちは、本当に馬鹿馬鹿しい思い込みばかりしている。
目的地に近づくにつれて、見知った顔が増えてきた。
歩いている者、自転車をこいでいる者、沢山の人間たちが同じ方向に向かっていた。
毎朝、この空間を進む中で、自分が違う生き物になる予感がする。否、本当になっているのかもしれない。みんな、ここで生まれ直しているのだ。
踏切のところで、見知った金髪頭を見つけた。
「ユダガワ」
後ろから声をかけると、彼はすぐこちらを振り返った。耳のピアスと相まって、フラッシュを焚いたみたいだった。
「今日早くね?どしたん」
ユダガワはちょっと首を傾げる。
いつも通りの時間だと思っていたけれど、普段通学路でユダガワと会うことは無い。
無意識に、早い時間に家を出たみたいだ。




