序曲 1(1)
ふと、目を開けると、見慣れた景色が視界に侵入してきた。
何度か瞬きを繰り返して、さっきまでいた場所は夢で、いまいる場所が現実だということを、自分に思い出させる。思い出すことが、僕たちが神様からかけられた呪い。みんなが等しく享受した、ゴミの日にまとめて捨てたくなる才能。
納得してしまった後、夢の中のことは思い出せない。ただ、いつもと同じ夢だ、と最初に感じたことを憶えているだけ。
現実でもそれは同じだ。言葉はすっかり死んでしまうのに、感覚というものはしっかり体に刻まれる。目に見えないものの方が、いかなる局面において、結局は重要な役割を果たすのかもしれない。
僕はいつも同じ場所に行って、同じ場所に戻ってくる。そしてどちらかにいるとき、向こう側を意識出来る時もあれば、出来ない時もある。
そんな不都合さが、本当にあって良かったと思う才能のひとつだ。
掛け布団から足を出すと、思いのほか外気が冷たかった。ベッドに寝たまま、床に放っておいた靴下を探す。子供の頃は裸足で家中を駆け回っていたくせに、日中靴下を履かないと落ち着かないようになった。下から来る怖いものから守ってくれる感じがするからかもしれない。
洗面台に行くために、目覚まし時計のタイマーを解除して、時間を確認した。いつも通り、起きる予定の1時間前に目覚めたみたいだ。
僕は2度寝が出来ない。この不都合さはたまに厄介なので、僕は気に入っていない。




