ベーガデス
「キリもいいし1度宿で休むか」
半月ほど野宿を繰り返してついたとある町で私達は1度休息を取る事にした。
ベーガデスという名前の小さな町だった。
野宿では川浴びくらいしか出来なかったので、温かいお湯は最高だった。
⋯⋯部屋が1つしかない点を覗いては。
「なぁ、いい加減機嫌戻せよ。部屋がないんだから仕方ないだろ」
風呂上がり、恥ずかしさでそっぽを向いている私を、まだ拗ねてると勘違いしたガイランクさんがベッドに座る私の隣に腰掛けてご機嫌取りをする。
それにまた意識してしまい絶対に目が合わせられない。
部屋の隅にはウーガとマフィンがいるので、完全なる二人きりではないのだが、意識しないのは無理があるのだ。
「別に、そういうんじゃないんで。大丈夫です。自分のベッドに行ってください」
素っ気ない言い方になってしまうがドキドキするのでそれどころではないのである。
お付き合い(仮)してるという現実がさらに自分を追い詰めている気がする。
「まぁ、いいけどよ」
ガイランクさんは気にした様子もなく、自分のベッドへ行く。
私はこれ以上、失態を犯さないように早々に寝ることにした。
「ゆっくり休めよ。明日また長旅再開だからな」
ガイランクさんが布団にこもった私に優しく語りかけてくれる。
ドギマギしてあまり寝つきは良くなかったのだが、いつの間にか寝ていたらしく、ふと目が覚めた。
私のベッドにはいつの間にかウーガとマフィンが潜り込んでいた。
「今何時なんだろ」
この世界には時計なんてものがないため、正確な時間を知ることができない。
しかし外も暗いし、夜なんだろうと思うのだが、それにしては外が騒々しかった。
窓を開けて外を見ると、数人の町人が困惑した表情で空を見上げていた。
私も同じように見上げ、町全体がドームのような幕に覆われ薄暗くなっていることがわかった。
「ガイランクさん!起きて、大変」
私は昨日のドキドキなど忘れ、隣のベッドでグースカ寝ているガイランクさんを叩き起こした。
「なんだよ。まだ外暗いじゃないか」
「夜じゃないの、なんか幕みたいなのが張ってるの」
私はまだ寝ようとするガイランクさんを窓際に追いやって、上空を見るよう促す。
寝ぼけ眼だったガイランクさんの目が上空を見た瞬間に見開いた。
「なんの冗談だよ」
私とガイランクさんは部屋からでて、とりあえず宿の女将さんに事情を聞くが女将さんもよくわからないそうだ。
町の外に出ることも、町の中に入ることもできない結界で覆われているらしく、対処方法もわからないと八方塞がりで町長も困っているらしい。
腕利きの冒険者が結界に向かって攻撃をするが、吸収されるのみで、なにも変わらないそうだ。
私たちはとりあえず結界の近くに行き、情報を集めて見ることにした。
いかつい冒険者が代わる代わる攻撃を繰り出しているが、結界に吸収されるように衝撃がいなされている。
「なんか情報あっか?」
ガイランクさんが近くにいた男性に話しかけるが、ここでも目ぼしい情報はなかった。
「とりあえず私たちも攻撃に参加してみます?」
やる気に満ち溢れるマフィンを指差してガイランクさんに提案してみる。
ガイランクさんも試して見たかったらしく、マフィンと一緒に攻撃チームへと加わった。
私とウーガは攻撃が当たらない範囲まで遠ざかり、結界を間近で見て見ることにした。
「かすかだが、魔王の気配がするな」
「魔王?」
「550年前に討伐されてから復活していなかったのだが、これは復活したのかもしれんな」
ウーガの説明では魔王の全盛期にはこのような結界で町を覆い、魔物に支配させて人間を奴隷としてこき使っていたそうだ。
そんな魔王がいる時代には世界のどこかで、勇者のジョブを持つ人間が生まれるそうだ。
長い間魔王不在であったため、昔はあった勇者登録制度も機能していないく、勇者がいるかどうかもわからない。
「このことが王国にまで伝われば、勇者探しを率先して行うだろうな」
「結局、魔王が退治されるまでこのままなの?」
「結界を解く方法があったのだと思うが、長い年月で記録がないのかもしれんな」
私は慌ててガイランクさんにこの情報を伝えた。
ちょうどその時、町の方から一人の男性がなにか叫びながら、攻撃チームの方へと駆け寄っていた。
「おーい! 教会で古い文献が発見されたってよ!」
その言葉に、周りにいたメンバーが続々とその男性に近づいて行く。
「聖女の祈りでこの結界が解けるらしいぞ」
男性の言葉に、解決策が見つかり周りのメンバーも歓喜の声をあげる。
「でもよ。聖女なんて聞いたことないけど、いるのか? 少なくともこの町にはいないし」
「確かに、町の外からでも効果あるならいいけど。……町の外にその情報を伝えることも出来ないし」
一人の疑問点により、さらなる疑問点が生まれ、歓喜が一瞬で消える。
お通夜状態の中、ガイランクさんが胸元からイルカの紙切れを取り出した。
「試しにこれ使ってみるか」
それは以前ヤンクルさんと通信した時に使っていたやつである。
「あれ?一回こっきりじゃありませんでした?」
「5組持ち合わせているんだなぁ。これが」
そう言いながらガイランクさんはイルカの紙を空中に放り投げる。
イルカがブルブルと震えだし、震えが止まるのを見守る。
「やぁ。随分と早い連絡だね。もう着いたのかい?」
震えの止まったイルカからヤンクルさんの声が聞こえると、周りから再度歓喜の声があがる。
「いや、問題が起こってな」
ガイランクさんがヤンクルさんにあらかた説明し、聖女の派遣や結界の解除方法などの調査を依頼する。
「随分と大変な目にあってるね。こちらとしてもできる限りの事はするよ」
ヤンクルさんとの通話が終わり、イルカが地面に落ちる。
「それなんだよ。見たことないやつだな」
周りのメンバーが興味深そうに地面に落ちたイルカを眺める。
「ソリーガ名物、通話イルカ。2つのイルカを通して会話ができる」
ガイランクさんはイルカを拾いながら説明をしていた。
「珍しいものなんですか?」
「ソリーガでしか買えないからな。……ちなみに俺の母ちゃんのオリジナルだ」
「え? ガイランクさんのお母さんなにもの?」
「呪符師」
呪符師とはお札に効果を持たせる職業で、報告鳥もこの呪符師が作っているそうだ。
この通話イルカはガイランクさんのお母さんが開発した新しい呪符で、ほぼ市場には出回っていないそうだ。
お母様すごい!




