旅立ち
「お久しぶりですね。アズサ。お元気そうでなりよりです」
この世界に来た時ぶりの女神様は相変わらず後光が差して輝いていた。
「女神様ぁ!」
「樹木のダンジョンの攻略おめでとうございます。攻略者のお二人には褒美を授けます。なにがよいですか?」
「私、ウーガの魔術を解く方法が知りたいです」
「俺は、……ジョブチェンジがしたいな」
私とガイランクさんの願いを聞いた女神様は、微笑みながら教えをくれた。
ウーガのかかっている魔術に関しては、北の大地にある雪ブロックで造られたイグルーに行ってみるといいとのことだった。
ジョブチェンジは三連真珠を見つけるといいそうだ。
話を終え女神様が片手を上げると、周りが光り女神様は忽然と消えたのであった。
その後は大変であった。
129階に設置した帰還石を130階に移した後、1階へ戻りギルドへと攻略完了の報告を行った。
ギルドからの報奨金やギルドポイントの付与により、7日目が終わってしまったのである。
8日目はダンジョン完遂を知った町人によるお祭り騒ぎでてんやわんやだった。
私とガイランクさんは主役ともあり、常に周りに人が溢れていた。
辟易して宿に引きこもると、ガイランクさんが部屋を訪れた。
「災難だな」
「クリアしたのは嬉しいけど、こういうのは性格じゃないのよね」
「そうだな」
ガイランクさんもごった返す人混みにめまいがしたようである。
「相談があるんだが」
「どうしたんです?」
「三連真珠は、北の大地へ行く途中にあるんだ。だから、……一緒に旅にでないか?」
真剣にこちらを見て話すガイランクさんに、私も居住まいを正す。
ガイランクさんは護衛団の仕事を辞め、三連真珠を求めて旅にでるそうだ。
私もウーガのために北の大地へ行く予定なので、よければ一緒にいかないかということである。
ガイランクさんがいればありがたいことなので、私は二つ返事をする。
「そういえば、ガイランクさんのジョブってなんなんですか?」
私はガイランクさんの今のジョブを聞いたことがなかった。
わざわざ女神様に願うくらいだから、よほど気に入っていないのだろう。
私は自分のジョブを選ぶことができたが、この世界では生まれた時にジョブが決まっているので、合わないジョブの人も多くいるそうだ。
「……ぃ」
「え?」
「裁縫師!」
裁縫師ってあの、服を作る人?
随分とガイランクさんとかけ離れたジョブに、一瞬耳を疑った。
「手先なんて器用じゃないし、服も作ったことないが、一応裁縫師」
まじまじとガイランクさんを見つめていたため、ガイランクさんが照れてそっぽをむいてしまった。
基本的に仕事は自分のジョブを考慮して決めるのだが、裁縫師として縫製工場で働くのも女性の多い職場のため嫌だったそうだ。
ジョブを選ばない冒険者か護衛団かの選択で両方を選んで今にいたるらしい。
「せっかくなら、ジョブ変更する前に一着でも衣装作って見たらどうです?マフィンやウーガの衣装とか」
「魔物が服を着るかよ! まあ考えとく」
にしても外は主役不在なのに随分と盛り上がっている。
「一度ソリーガに戻って、早いうちに出発しよう。俺ははやくジョブ変更したいんだ」
そんなガイランクさんの勢いに負け、丸々3日かけて10日目の夕方にはソリーガに到着した。
久々の我が家で睡眠をとり、明日には知り合いに挨拶回りに行くことになる。
この家もせっかく借りたが、旅に出るなら退去しないといけない。
……こんなことならマンスリーを借りればよかった。
ソリーガに戻り、3日目には私とガイランクさんは出発することになった。
アークシィ家の人たちやリリィさんが見送りに来てくれた。
旅が終わったら戻ってくる約束をして、ソリーガを後にしたのだった。
旅では、辻馬車を使い続けるのもお金もかかるし、時間もかかるので、独自の移動方法を考案した。
そう、馬を2匹召喚したのである。
「アズサ、一人で乗れるのか?」
「の、のれません」
「このサイズなら二人乗りできるが、スピードは出ないからな。……練習するか」
三連真珠はアルガイガを通り越し、かなり先にある湖にあるそうだ。
馬の乗り方をガイランクさんに教えてもらい、どうにかこうにか馬に乗って進むことができている。
「そういや」
しばらく進んだところで、ガイランクさんが懐から紙を取り出した。
ダンジョンで使った報告鳥に似ているが、形が鳥ではなく、イルカだった。
「これでヤンクルと会話できるんだよ。どうせなら合流しようぜ」
そう言ったガイランクさんがイルカの紙を空中に放り投げると、イルカがブルブルと震えだした。
一定時間震えた後止まり、ヤンクルさんの声が聞こえて来た。
「随分とはやく連絡がくるんだね」
「いろいろあってな。……目的を持って旅をしてるんだが、どうだ?一緒に」
「面白そうだね。どこに行くんだい?」
「コーツネイ湖」
しばらくガイランクさんとヤンクルさんが会話をし、数分後にはイルカが地面に落ちた。
「一度きりなんだよな」
そう言いながらガイランクさんは落ちたイルカを拾う。
ヤンクルさんとの話し合いで、コーツネイ湖で集合することになったそうだ。
コーツネイ湖まではここから1ヶ月ほどかかる予定なので、それまではガイランクさんと二人旅である。
……私の乗馬技術次第で遅くなる可能性は十分にあるが。
「まぁ、ゆっくりでいいから進んでいけばいいんじゃねぇ? 歩くよりは早いさ」
ガイランクさんに慰められながらも、私は馬を低速で進めさせるのである。
「俺が元の姿になれれば、アズサなど背中に乗せて、半月で行けたんだがな」
肩から提げたショルダーバッグに入り込んだウーガがぼそりと呟いた。
もともとが大きな狼であるフェンリルなので、移動速度も速いそうだ。
「それいいな。俺も乗せてくれよ」
「まあ、お主もよく働いているからな。お情けで乗せてやらんこともない」
ちなみにマフィンはガイランクさんのショルダーバッグに潜り込んでいる。
サイズがウーガより大きいので、ほぼ隠れておらず、膝の間で抱え込むように馬に乗せられている。
「とりあえず、アズサの能力頼りの旅だからな。疲れないようにだけ注意してくれよ。敵が来ても俺とマフィンでどうにかなるし」
頼もしいガイランクさんは、たまに小脇に逸れて近づいてくる魔物を狩って戻ってくる。
そのスピードより私の方が遅いってどういうこと?




