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ベーガデスで足止めを食らうこと1週間。
町の外が動いているのかわからない状況に不安になり、町全体がギスギスし始める。
食料不足の問題から、軽犯罪が多発するようになってしまった。
私とガイランクさんは安全性を求め、ほぼ部屋に引きこもっていた。
「いやー。アズサがいて助かったわ。食べ物の心配しなくていいからな」
「わけれたらいいんですけど、異世界のご飯なんで流石に……」
「それが正解だ。際限なくつけ込まれて行く未来しか見えねぇ」
日々の食事は私の召喚でどうにかなる。
お風呂やトイレも部屋についているため、本当に部屋から出なかったら女将さんにのたれ死んでると思われて乗り込まれたこともあった。
図鑑を眺める以外することがない毎日で、ストレスが溜まって行くのを感じる。
太陽の光を浴びないのも体に悪いということを思い出した。
「おっ」
ガイランクさんが突然声を上げると、懐から通話イルカを取り出した。
取り出されたイルカはかすかに震えていた。
「待ってたぜ」
そのイルカを空中に放り投げる。
「遅くなってすまないね。王国にも報告に行ったりして大変だったんだ」
ヤンクルさんはこの1週間の出来事を簡潔に説明してくれた。
王国ではやはり勇者登録制度は機能していないため、勇者を見つけるところから始めなければならないらしい。
聖女に関しては王都の教会に1人いたため、その方と現在ベーガデスの門前に到着したそうだ。
しかし、聖女の祈りを行っても結界の解除が出来なかったそうだ。
予想でしかないが、4人の聖女で同時に祈る必要があるかもしれないと、他の聖女の派遣をお願いしたそうだ。
「というわけで、聖女が集まるまでまだかかりそうなんだ」
「まじか。町の中はひどい状況だぞ」
「どうにか物資の供給ができればいいのだが……」
また進展があれば連絡するとのことでヤンクルさんとの通話は終わった。
「にしても、聖女1人で対処できない結界とは随分と規模が大きいんだな」
「でもその割には魔物がやってくる気配もないですけどね」
私はまだこの生活が続くのかと思うとげんなりしてしまった。
ガイランクさんも同じらしく、ベッドにうつ伏せに寝て現実逃避をしていた。
それから数日たったが、なんの音沙汰もなかった。
最近は生存確認されないためにも、宿にある談話室にたまに顔を出すようにしている。
女将さんは常時そこにおり、町の状況を聞くことができた。
町は荒れ果てていき、元の活気が全然なくなっており、行き倒れる人も出てきそうだ。
町長の屋敷は不満を持った市民が集まり暴動を起こしているため、町長は屋敷に閉じこもり出てこなくなっているらしい。
「うちも食材がなくなってね。宿泊者から苦情が殺到してるんだ」
今日も談話室に行くと、やつれた顔の女将さんがいた。
日にちが経つにつれ問題は増えていくばかりである。
女将さんの深いため息が漏れたと思うと、地震が起こった。
「アズサ!」
私はガイランクさんに引っ張られ、机の下へと引き込まれる。
地震はすぐに収まり、談話室への被害もなかった。
しかし、宿の外から悲鳴が聞こえてきたのである。
救助を必要としているかもと、私とガイランクさんは悲鳴が聞こえた方へ走って向かう。
しばらく走ると人混みができており、中央には黒いローブをまとった10歳くらいの女の子が立っていた。
「皆の者よく聞くがいい。とうとう我らの王、魔王様が復活された。貴様らには魔王様復活の褒美として、このマリン様の配下にしてしんぜよう」
女の子はマントを翻し片手を上げると、声高らかに宣言したのである。
集まってきていた人々からどよめきが起こる。
「魔王の子分の方ですかね」
「まあ十中八九そうだろうな」
私は小声でガイランクさんと会話をする。
なおもマリンという女の子の演説は続いていた。
自ら配下として立候補すれば、身分を優遇してくれるとのことだ。
しかし逆らうのであれば奴隷として家畜以下の扱いになるらしい。
周りでこそこそと話す声が聞こえるが、誰も立候補はしなかった。
それどころか、冒険者と思われるメンバーが女の子に対して切りつけたのだ。
真っ二つになりそうなほど大きな剣を振り下ろした先には、すでに女の子はおらず剣士の真後ろに立っていた。
「うむ、逆らうのか。見せしめだ」
女の子が剣士を指差すと、指からビームが出て、剣士の顔を吹き飛ばしたのである。
首から上がなくなり、血を吹き出し倒れる。
その瞬間、周りの人々が恐怖に陥り、悲鳴をあげながら逃げ出したのである。
私もガイランクさんに手を引かれ、走り出した。
女の子は慌てることもなく、逃げる人々を指差し、次々とビームを当てていた。
周りの人がどうなったのか見届ける余裕もなく、私たちは宿へ逃げ込んだ。
女将さんにドアを封鎖するよう頼み、籠城することにした。
とまどいながらドアを閉めた女将に先ほどの情報を伝えると、恐怖で腰が抜けたのかその場に座り込んでしまった。
マリンと名乗った女の子の行動が読めないため、この籠城も正解とは限らない。
「あのビームが飛んでくれば、ひとたまりもないからな」
なんとか打開策を考えようと、2人で作戦会議を行うがいい案など思い浮かばない。
宿の外ではいまだに悲鳴が聞こえ続けるのだ。
とりあえず緊急事態を町の外へ伝えるため、ヤンクルさんへ連絡を取った。
「それは大変だ。まだ3人だが、もう一度聖女の祈りをやってもらうようお願いするよ。どうか無事で」
慌てたヤンクルさんお慌ただしい声を最後に通話が切れる。
「あのビーム、エイムがいいんだ。つまり、狙われたら最後だ。見つからないこと、これが最優先事項だ」
ガイランクさんから言葉を受け、物音を立てないようにすることだけに全神経を使う。
たまに光る雷みたいな明るさが、ビームのせいだと思うと、体が震えてきてどうしようもなかった。
震える体を自分で抑え込むより早く、ガイランクさんが包み込んでくれた。
「大丈夫。アズサは俺が守るから」
頼もしい胸に包まれたことにより、私の震えは止まっていた。
そして、暗闇が弾けて光が入ってきたのである。
「結界が壊れた?」
「……みたいだな」
無意識に立ち上がり空を見上げる。
いつの間にかビームの音は聞こえなくなっていた。




