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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第二話:マサコ

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9/21

天久保・1


「おはようみこちゃん」

「おはよーキリちゃん。風邪はもう大丈夫なの?」

「平気よ。心配ありがとう」


 本当は風邪なんて引いてなかったけれど、白々しく感謝の言葉を返す。昨日リモート参加だったのは別の理由だ。ユニとやらのせいで、髪の色が青プリンになり、また喉に変なマークが浮かんできたから。

 今はもう、お従姉ちゃんに買ってもらった染髪料と化粧具で誤魔化している。不自然さもなく、ちょっとやそっと濡れた程度では落ちない優れ物。


「一昨日の海柱、みこちゃんも見た?」

「ええ。夜空にそそり立っていたわね。なんなのかしらあれ」

「みこちゃんに分からないのに、私に分かるわけないじゃんはは〜」

「そうね」「肯定されたっ!?」


 海底人による侵攻、AUFOによる対抗の話など、この子にしても笑われるだけだろう。下手すれば麻薬摂取を疑われるかも。私だって知らなければ、鼻で嗤ったに違いない。


「海底火山が噴火したって感じでもないしねぇ」

「海底火山というには沿岸に近すぎるでしょう。あと、巨大な水柱が立つほどに噴火すれば、被害もゼロというわけにはいかなかったでしょうね。それより、そもそもみこちゃんが『海底火山』って言葉を知っているのに驚きよ」

「どれだけ馬鹿だと思われてるのさ。『海月火山』ってペンネームの有名な漫画家さんがいるの。それ関連で覚えた。『無気神』めっちゃ面白いよ〜」

「へえ」

「あんまり興味なさそうだねぇ。主人公めっちゃかっこいいよ。黒い一面もあるけど、賢くて頑張り屋さんで、裏に秘めた優しさがあって。超タイプ。キリちゃんのタイプってどんな人?」

「踏みやすそうな頭蓋骨をしたショタ」

「踏みやすそうな頭蓋骨をしたショタっ!?」


 大声で連呼された。周りがざわつく。私でなく、転校してきてわずか十日弱の女子高生の方に、謂れなき特殊性癖が付与された瞬間だった。

 先生が入ってくる。端末とタブレットペンシルを取ろうとして、しかしペンシルを落としてしまった。隣の席にコロコロ向かう。


「水晴さん。はい」「あ、ありがとう」


 彼の名は天久保(こう)。私に対しても優しい。

 自分が周りにどう扱われているのかは知っているつもりだ。賢しき悪魔。奇異の目で見られたり、陰口を叩かれたりして、いつもいつもいつの間にか、精神的な壁が立つ。

 にもかかわらず、天久保だけは自然体で接してくれる。二年連続でクラスが同じ、かつ席も近いことが多く、私が孤立せず、孤独で踏みとどまれているのは彼のおかげと言っていい。

 タイプ、ね。強いて言うなら、本当に強いて言うならだけれど、彼みたいな人なら、まあ考えてやらなくもないかな。


「? どうかした?」「別に」


 やばい。慌てて視線を逸らす。ついボーッと眺めてしまっていた。変な奴だと思われてないかな。さりげなく髪を整える。

 一限二限と終わり、三限の体育が始まる。今学期前半は、毎授業サッカーと卓球のどちらかを自由に選んで良い。私は後者を選ぶ。最初はサッカーでゴールキーパー兼指令役を買って出たのだけれど、皆あまりにも言うことを聞いてくれないのでやめた。上位者の命令を聞けないとは、バカどもめ。

 ああその点、一昨日の緑丸たちはすごく良かったな。素直に命令を聞いてくれて。

 卓球は個人競技だ。命令違反や裏切りの心配は不要だけれど、代わりに組んでくれる相手を探さなくてはならない。天久保か、みこちゃんか、徒党を作れない内気女子か。

 天久保は気分で競技を変えるけれど、幸いみこちゃんは卓球一途派のようだった。安心して組める。みこちゃんは中学校で卓球部だったらしく、なかなか上手い。

 対する私の取り柄は反射神経と読みだけ。体力は女子平均未満。十五分間必死で食らいつくも、ヘロヘロのバテバテになってしまった。汗でびちょびちょだ。


「はあ。はあ。休んでくる」

「お疲れさま〜。経験者でもないのによく頑張るよね。負けず嫌いなところ、昔から全然変わってないなあ」「うるさいわ」

「キリちゃんいない間、ヒマだなあ。天久保くんと組もうかなあ」

「べ、別にいいんじゃないの」「えー。いいの? ホントーに?」

「何よその顔。ニマニマするな」


 みこちゃんには、どうも思い込みの激しい傾向がある。あんたが天久保と組もうが誰と付き合おうが、私にとっては些細なことなのだ。いや、本当。

 自分の勘違いを真実と誤解する、厄介な性質。人間関係を把握するための脳領域に異常があるのかもしれない。

 まったく。天久保から告白してくるならともかく。

 体育館の外に出た。水道の蛇口を捻り、頭から水を被る。お従姉ちゃんが買ってきた染髪料は、水で流す程度では落ちない。専用のシャンプーが必要だ。逆に、専用のシャンプーを使えば完璧に落ちる。


「学校は楽しいかい?」


 突然話しかけられ、ビビる。

 横を見たら猫がいた。マサコだ。


「能木陽菜との接触は済んだかい?」「ええ。もちろん」

「じゃあよし。放課後、昨日の喫茶店に来てね」


 水道の縁から飛び降りるマサコ。


「あの方がお待ちだ」


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