超能力。海底人。救世主。
「首元にナイフを突きつけたのち、聞きたいことだけ聞いて、最後にスタンガンを当てて別れた、じゃと?」
緑髪ののじゃロリが、目を丸くする。
コーヒーを飲む。此度は私にも用意されていた。さりげない気遣いを感じる。
「悪い? 仲間を呼ばれたら面倒だったし。私だとバレるようなヘマは犯してないはずよ。ナイフは家にあったものを使ったけれど、普通の市販品であることは確認しているわ。あと能木陽菜のバッグには、極小のGPSチップを仕込んだ」
「悪いとは言うとらん。むしろ感心した。思い切りが良く実行力もある」
ニヤリと笑うのじゃロリ。こいつはこいつで海底人を追っているようだ。いいコマが手に入ったとか考えているのだとしたら、癪に障る。逆だ。私がお前というコマを手に入れたのだ。
疑わしき害悪どもを殲滅するための。
掌で促される。なんでも遠慮なく聞けという合図。
「じゃあ」「うむ」
「髪の変化と喉の模様は、ユニの関係者として正式に認められたサイン?」
「それ以上の意味を持つ。体の霊的組成が変化した証じゃ」
「随分とスピリチュアルな言葉が出てきたものね。霊的組成?」
「現実世界にある肉体と、精神世界にある魂との連結部位の構造を表す」
「へえ。漫画やアニメの設定じゃあるまいし。眉唾、以上の語句を探さなければいけない気がしてきたわ。で? それが再構築されたらどうなるわけ?」
「精神世界から直接、現実世界の事象にアクセスする権利を得る」
「はあ?」
眩暈がした。コーヒーを飲み干す。
「ファンタジー作家の編集者にでもなった気分よ」
「物理という制約がなくなる。精神世界からのアクセスは自由度が高い。ゆえに、ユニによって霊的組成を変えられた人間は、いわゆる超能力が発現するのじゃ」「冗談はやめなさい。縊り殺すわよ」
こちらは真面目に聞いているのに。
のじゃロリは頬杖を突き、嘲るように微笑んだ。
「ほう? さしものお前も怖いのかの? 自らの培ってきた常識が、突飛な理論で軽くぶち壊されるのは」
「はっ。ただの屁理屈よ。あんたの嘘を、強引に成り立たせるためのね。理論じゃない。仮定が成り立つ下、理論は嘘をつかない。怠惰も悪意もないからね。嘘をつくのはいつだって、怠惰と悪意に呑まれた人間と、そういう人間が作った数字なのよ」
「仮定を弄れるのならば、人は理論を通じても嘘を吐けるじゃろうが」
「それは、そうだけれど」
「お前の色眼鏡に過ぎんのよ。仮定はな。人は、世界の構造は、お前が思うほどに整然とはしておらん。もっとカオスじゃ。狂騒じゃ」
「でも。だからって。精神世界とか魂とか、超能力とか言われても」
「受け入れ難いのは分かる。事実として、十一年前までは、精神世界と現実世界は完全に分たれていたからの」「え?」
「突如として綻びが生まれた。理由は知らん。そこに結果があるだけじゃ。ユニの媒介により、超能力を持つ人間が現れ始めたというな」
信じられない。私の体に起きた奇天烈な変化が、超能力発現の証だって?
ζ-01によるお告げの話を思い出す。AUFOの司令官は、その力をいたく信頼していた。喉元、二重丸のマークがある辺りを押さえる。超常現象を操るオカルティックな存在になるなら、まだ「モテを勘違いしたDQN」と思われる方がマシだ。
「ユニって」
「さあの。神か悪魔か。超能力を保有する人間の一人か、集団か。今のところは人の味方であるようじゃ。少なくとも海底人とは敵対しておる」
「海底人とは何者なの?」
「海の底で暮らす知的生命体。地上人たる我々に攻撃的、どころか憎悪を燃やしておるように見える」「なぜ?」
「さあての。人類による海洋汚染に対し怒りを覚えておるのではないか?」
体の変化に関する事項以外は、私の推測からほとんど情報が増えていない。要するに、ユニは多分味方で海底人は敵ということしか分かっていないのだ。
一概には謗れない。両者とも、調査が難しいのは理解出来る。AUFOなら、もうちょっと詳しい情報を持っていたりしないだろうか。能木に仕込んだGPSチップから、組織の拠点を探り当てられればいいのだけれど。
「AUFOとあんたはどういう関係?」
「協力者を潜り込ませておる。冬林以外にもな」
「なるほど。とりあえず最後の質問ね。あなたはどうしてこの街に?」
「ユニにより発現した力を、妾たちは『ブロック』と呼んでおる。妾のブロックは『回収』。死んだ他者のブロックを、自らのモノとすることが出来る」
戦慄しかける。仮に超能力の話が本当だとするならば、こいつは他のブロック保持者を殺す動機を常に持っているということだ。
「この街には、ブロックを回収しに来たのじゃ。一昨日夜に冬林が死ぬことは知っていた。他ならぬ本人のお告げによっての」
「っ! 死ぬと分かっていたのなら、回避することは出来たのではないの?」
「冬林は回避を選ばんかった。奴のお告げはこうじゃ。自らの死と引き換えに、世に新たな救世主を生む」「救世、主」
「それがお前じゃと。妾は考えている」
指を差された。頬が引き攣る。喉が渇く。
心臓がキュッと締まる。救世主? 柄じゃない。自分で言うのもなんだけれど、私は悪魔とか魔女とか、そういう類の存在だ。
「……ブロックの回収は、あなたの意思? それとも」
「頼まれた。引き継いで欲しいと」「そう」
背もたれに寄りかかり、項垂れる。
超能力。海底人。救世主。私の人生を激動の道へと誘うターニングポイントが、刻々と迫って来ている心地がする。
嗤った。面白い。心が弾む。ワルツを踊る。
「ん?」
スマホからアラート音が鳴った。マップを映す。
目を見開いた。
「なっ」
能木陽菜が真っ直ぐと、私のマンションに向かっていた。馬鹿な。私に繋がりそうなモノは、昨晩の接触で何一つ見せていないはずだ。




