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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第三話:黒スーツ

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11/21

能木・2


「ごめんなさい、緊急事態が発生したわ」


 急いで喫茶店を出る。自宅へ向かって走りつつ、スマホのマップを睨みつけた。走りスマホは歩きスマホより数段危険だけれど、マナーをどうこう言ってられる余裕はない。

 考える。なぜ能木陽菜が私のマンションに辿り着ける。口調も声も変えた。厚底の靴で身長も変えた。他者から目撃されぬよう細心の注意を払った。街の防犯カメラにも映ってないはずだ。そもそも能木という女に、聞き込みの能力や防犯カメラ情報にアクセスする権限があるとは思えない。

 AUFOにもだ。世間的には、彼らは一介のNPO法人であるはず。

 発信機を仕込まれた? 帰宅のち、衣服は念入りに調べた。何より能木は、私に仕込まれたGPSチップをそのままにしている。彼女にはそもそも発信機を仕込む仕込まないという発想がないように見える。

 しかし現に、私の住むマンションへとまっすぐ向かっている。何か見落としがあったのか? 分からない。ひょっとすると能木も、ユニによって発現した超能力、ブロックとやらの所有者なのかもしれない。

 今の時間、家には私の弟小太郎がいる。彼は、警察でもない見知らぬ人間を、私の(・・)部屋に勝手にあげたりするような不調法者ではない。ガサ入れされて、ナイフとスタンガンが見つかるようなことはないはず。

 息を切らす、疲れた。一旦足を止める。ちょうど、能木がマンションに入った。マップを鳥瞰図に切り替える。入り口でしばらく待ってから、ロビーを通ってエレベータに乗る。小太郎が招き入れたのだろう。あの子、警戒心は薄いから。

 エレベータは三階で止まった。やはり、能木は水晴家に向かっている。連絡はしない。

 小太郎は、何も知らない方がいい。

 待て。もし人質にでもされたら。舌打ちする。


「もうっ」


 疲れた体に鞭打って、頑張って走る。こういう暑苦しいのは、私の役目じゃないというに。私がマンションに到着した時には、能木が314号室に入って十分も経過していた。とりあえず、暴れ回っている様子はなさそうだけれど。

 深呼吸。息を整え、自宅に入る。

 リビングにて、二人は向かい合っていた。楽しそうに、笑って。

 拍子抜けする。


「…………」「あ、姉ちゃん。おかえり」

「た、ただいま。そちらの方は?」

「能木さん。昔、母さんにお世話になったんだって」

「こんにちは。水晴許歌(もとか)さんの娘さん、だよね?」

「はい。水晴桐歌と申します」

「姉ちゃん汗だくじゃん。ジョギングでもしてきたの? 洗ってきたら?」


 言われた通りシャワーを浴びる。私服に着替えて戻ってきた。もう遅いかもしれないけれど、一先ず一介の女子高生らしく振る舞って、能木の出方を探ることにする。

 さりげなく、小太郎を守れそうな位置に陣取った。

 能木に尋ねかける。


「お母さんの知り合いだったのですか?」

「んーん。知り合いなんて者じゃないよ。許歌さんは私の師匠だったんだ」

「師匠?」「正確には指導教官かな。海洋生物学の専攻で」


 確かにお母さんは、海洋生物学者としてアメリカの大学で教授を務めていた。だというに、月に二日以上は日本に帰って来てくれた。

 本当に優しい人だった。


「今働いてる会社も、あの人とのコネで入ったようなもので」

「へえ。どのような会社で働いておられるので?」

「えっと。それは。ひ、秘密ということで」「非合法なんか〜?」

「違うよ!」


 小太郎の茶々を笑いながら否定する能木。彼とはとっくに打ち解けたようだ。私の弟は世界一可愛いからな。

 しかし。能木の勤務先はAUFOだ。NPO法人を会社と呼ぶのは違和感がある。とはいえ、その辺りの区別は曖昧な人も多い。昨晩の問答で、こいつはコネでAUFOに入ったと言っていた。

 お母さんとのコネなのか? つまりお母さんは、AUFOとなんらかの関係を持っていた? 海洋生物学者と海底人の組み合わせ。相性は悪くない。洋画の世界ならの話だけれど。


「なるほど。水晴家とは深くご縁のある方のようです。さて、此度はどうしてここに寄られたので? 近くで用事でもありましたか?」

「ま、まあそうなんだけど……君のお姉ちゃん、すごく落ち着いてるね」

「姉ちゃんはすごく賢いんだ。頼りになる、自慢の姉だよ」


 小太郎はそう、照れ臭そうに答える。心の中で嬉し号泣した。後で欲しがってたゲームを買ってあげよう。


「えっと。用事についてはあまり詮索しないで欲しいかなあ」

「はは。分かりました」


 詮索せずとも知っている。能木はこう続けた。


「本来は、その用事が済んだら帰るつもりだったんですけど」

「けれど?」

「昨晩会った人が持っていたナイ……物が、許歌さんが使っていたものととてもよく似ていて。それで、あの人の家族が近辺に住んでいると思い出して、顔を出そうと思ったの。寄らないなんて、恩知らずみたいでダメじゃない」


 なるほどね。心の中で頷く。脅しに使ったナイフは物置奥にあったものだった。お母さんの形見なのかもしれない。

 バレたわけではないようだ。いや、安心するのはまだ早い。能木の素性は後で確かめるとして。たとえこいつの話が嘘でなくとも、ナイフの件から水晴家に疑惑を抱き、探りを入れにやってきた可能性はある。

 すでにAUFOにも報告されているだろうし。脅迫に用いた物品は、早めに処理しなければ……でも、お母さんのナイフを捨ててしまうのは、嫌だなあ。


「だから、言ってないのよ。昨日のあの人のこと。警察にも、会社にも」


 能木はボソリと呟いた。

 反応しそうになるのを堪える。言ってない?

 報告、していない?


次回から不定期更新とします。

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