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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第二話:マサコ

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マサコ

※この作品はフィクションです。実在する人物、団体、およびウイルスとは一切無関係です。


 目が覚めた。隣にお従姉ちゃんがいる。ホテルで会ったらホントに感極まって、それで一緒に寝ちゃったのだ。昨日のあれは、まったく非現実的であったけれど、でも夢じゃない。

 とりあえず、海には人類の敵がいるようだ。私には関係ないが。

 時刻は五時半。お従姉ちゃんを起こさぬよう、そっと彼女のベッドを出る。

 寝起きはあまりいい方じゃないけれど、今日はシャッキリしていた。洗面台に向かい、顔を洗う。鏡をよく見て、保湿クリームを塗ろうとした時だった。


「は?」

 鏡を乱暴に叩きつける。髪の毛が、喩えるならば、青いプリンになっていた。正確には、生え際おおよそ六センチ強は黒色なのに、そこから先は青銀色になっていた。

 嘘でしょ。前まで、十六センチくらいまで伸ばしても大丈夫だったじゃない。

 驚き過ぎて、玄関から鳴った音に気づかなかった。洗面台のある着替え場に、友人宅から帰ってきた弟が入ってくる。


「あれ。キリ姉ちゃん、おはよ。今日は随分と早起き……ぷふっ」

「弟よ。こんな時間に朝帰りとは随分といいご身分だこと。貴様笑いやがったな。おはよう」

「だって……モテを勘違いしたDQNみたいで」「このっ」

「そ、染めたんじゃないってのはもちろん分かってるから! 病院に行ってみたら?」「昔何度か検査して、すべて異状なしだったわ」


 今だって、身体機能に問題はない。むしろ調子がいいくらい。


「あと、喉仏あたりに変な模様ついてるよ。シール?」

「喉仏あたりって言われてもね。シールとか、幼稚園児じゃあるまいし……」


 喉のど真ん中に、青い二重丸マークが浮かび上がっていた。

 どうかシールであってください。そう願ったものの、取れなかった。


◇◇◇


 どうにも奇妙な変化を遂げてしまったようだ、私の体は。

 染髪料、及び喉のマークを隠すための化粧用品はお従姉ちゃんに用意してもらうとして、一先ず、今日の授業はリモートで受けることにした。

 十一年前、ムーンウイルスによる世界的なパンデミックが起きてから、人々の外出を抑制するための抜本的な措置が取られた。発見から直ちにマスクの生産機能が増強され、一月と経たずに「社会的距離」を保ったままコミュニケーションを取るためのネットワークが整備され、二ヶ月後にはワクチン開発、的確な配分アルゴリズムにより速やかな接種行動が為された。発見八ヶ月後には経口薬も作られる。それは、ムーンウイルスの最も恐ろしい点、思考力の低下や脱毛を引き起こす、「老化」という後遺症を防ぐ効果すら持っていた。

 まるで、予言でもされていた(・・・・・・・・・)かのような対応の速さだった。当時可愛いだけの五歳だった私は特に違和感など抱かなかったけれど、あの時の日本政府は異様に有能だった。

 まあ、かくしてムーンウイルスは封じ込められたわけだが、リモートコミュニケーションは有用だと社会に受け入れられ、今に至るまで残っている。

 教育の場でも。授業はリモートと対面のハイブリッドで、生徒はどちらでも好きに選べる。良い時代になったものだわ。稀にある、生理のキツい時に家を出なくて済むんだもの。

 ウチの高校では、「やつれ顔を見られたくない」などとテキトーな理由をつければ、カメラをオフにしてても怒られない。


『キリちゃんいないの寂しいなぁ』


 教室後ろにあるマイクから、みこちゃんが話しかけてくる。


「ごめんね」

『ううん。風邪なんでしょ? リモートでも参加しようとしてエラい!』

「ありがと。でも微熱だから」『お大事に〜』


 もちろん仮病だ。この程度の嘘で罪悪感が湧くような惰弱な精神は持ち合わせていない。みこちゃんに会えないのは私も寂しいけれど。ミュートしてあくびする。学校の授業は簡単過ぎて、受けても大した意味はない。

 自習しとこ。

 昼休みの時間になった。リビングでカップ麺を作り、自室に戻る。

 猫も一緒に入ってきた。


「あら、マサコ。帰ってきてたのね」


 あんたのせいで昨日酷い目にあったんだから。結果的にお従姉ちゃんを助けられたとはいえ。

 ベッドの上に飛び乗り、グイーとノビをするマサコ。ズルズル麺を頬張りつつ、ネット購読している統計学理論系のジャーナルに目を通す。


「ニュースはチェックしないで良いのかな?」


 ふと、誰かに話しかけられた。

 みこちゃん? 違う。マイク越しの声じゃない。部屋を見回す。マサコしかいない。

 幻聴かしら。論文に意識を戻す。


「聞こえてないのかい?」


 勢いよく振り向いた。マサコと目が合う。マサコしかいない。

 え? まさか。いやいやいやいや。ちょっと待って。あり得ない。でも。


「猫が可愛いのは、言葉を喋らないからなんだけれど?」

「なるほど。黙ってれば天使な君と同じなわけだ」


 皮肉に皮肉で返された。割り箸を床に落とす。

 私の優秀な頭脳が、驚くべきことにパンクしかかっていた。


「……はあ?」「そういう反応は少し傷つくね」

「ロマンチストじゃあるまいし。猫が喋ってたらこういう反応するわよ。どうしちゃったのよマサコ。声帯潰すわよ?」

「怖いねえ」


 恐怖している様子はない。ピョンとベッドから飛び降り、トテトテトテと部屋の出入り口に向かう。


「ついてきてくれないかな?」

「まだ今日のカリキュラムは終わってないのだけれど」

「どうせ君には必要ないだろう。会って欲しいお方がいる」


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