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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第一話:yuni

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ポリマー


 夜空に星がチカチカ光る。

「水龍」起動実験、二十二回目。そのすべてに携わってきた歴戦の兵士リュディチェは、水柱立つ海の方角を静かに眺めていた。あの塔が出す「(しょう)」が、自分たちに流れる古の血とリンクし、陸上生活が可能となるよう、体の霊的組成を一時的に変化させる。しかし、比較的大きな陸地近くでは起動可能時間は一時間強余りと、実用化するにはまだまだ課題が多い。

 実験の目的は、「水龍」の運用データを持ち帰ること。

 兵士たちを少しずつ、陸上戦闘に慣れさせること。


「地上を我々の楽園とする」


 それが、神の思し召しならば。陸上人の肉体機能は脆弱。残虐で野蛮な武器を振り回して我らに抵抗はするものの、「水龍」が完成すれば敵ではない。

 計画通り地面が揺れた。地上人の作った「特別倉庫群」が役割を発揮する。津波防止用の遮蔽壁が素早く展開された。高さは七メートル。彼らには飛び越えられまい。分断し撃滅する。

 地上人を欺き陥れるための試験的な作戦。あとは前後の柵に閉じ込められた奴らを十分間ぶち殺し、気分良く帰還するだけだ。


「む?」


 壁の作動と同時に、倉庫の屋根下部が開いた。

 ジャラ、ジャラ、ジャラと、小さな白い粒が大量に散布される。それらは直接向かってきて、あるいは壁で跳ね返ってきて、リュディチェの体に纏わりついた。

 白い粒の正体などまったく分からぬまま、最期の言葉も残せぬままに、彼は絶命した。


◇◇◇


「あっはっはっは! ロストロストロストロストぉッ!」


 次々と赤丸が消えていく。まさかこれほど効果があるとは。負傷させ動きを止められれば御の字と思っていたけれど、実に運が良い。

 白い粒の正体は、高性能吸水ポリマー。「特別倉庫群」の沿岸設置が決定された際、新聞やニュースでこのポリマーの配備がちょっぴり紹介されたものの、世間ではまったく話題にならなかった。が、その実ヤバい代物で、自重の五百万倍の水量を吸い込み、教室ほどの広さの空間なら、一分もあればサハラ砂漠ど真ん中並みに乾燥させられる。人が直接触れば、十秒も経たずに皮膚が爛れるだろう。

 大地震が発生し、危険度の高い津波が予測された、と信号が届いた場合にのみ射出される設定になっていたが、私が書き換えた。

 水を吸い込むとブクブクに膨れ上がりゼリー状になる。通称「キン◯スライム」。この状態ならば、触っても害はない。大きな津波がやってきても、遮蔽壁とともに良い足止めになってくれるはず。

 まさか、こういう風に使われるとは想定されてなかったに違いないけれど。

 思えば鮫の化け物は、倉庫屋根に仕込まれた白い粒が漏れ出ている様子はなかったにもかかわらず、火に当てられてしばらく硬直していた。乾燥に対して極度に弱いのかもしれない。熱に弱い可能性もあるが。

 倉庫に避難させた緑丸たちへと、『備蓄水を探して水分補給するように』と通達を出す。すでに空気は大分乾燥してきている。私も水を飲んだ。

 特別倉庫群付近にいた赤丸たちは消えた。ホテルを包囲していた奴らも、水柱に向かって逃げていく。よし。『倉庫内でしばらく待機』と命じる。

 私はトンズラこかせてもらおう。お従姉ちゃんのホテルに向かう。感動の再会が待ってるはずだわ。ちゃんと涙を流せるように、もっと水分を摂らないと。


「……ん?」


 指紋を拭き取り、放り投げようとした端末をもう一度眺める。

 水柱から、赤丸が一つ飛び出した。猛スピードで陸に接近してくる。

 鼻で笑った。


「バカな奴。自殺しに来るようなものじゃない」


 仲間をやられて怒り狂い、正常な判断が出来なくなってしまったのだろう。かわいそうに。もう私の勝ちと決まった。こんな奴どうでもいい、さっさとお従姉ちゃんの元に――。


「へ?」


 緑丸の一群が、散り散りになった。

 端末の画面を食い入るように見つめる。確かこいつらはδ隊ワン。海側の倉庫に避難させたグループ。

 急いで文字を打ち込む。


『δ隊ワン、何があった!? 応答せよ!』


 水柱から出てきた赤丸が、異常のあった倉庫上を通過していた。だから、こいつに何かされたのは分かる。でも、一体何を? 怪物たちは乾燥に弱いんじゃなかったの? どうして大量の高性能吸水ポリマーがある地帯を移動出来る? 乾燥に弱いと言っても、短期間なら耐えられるの?

 情報が不足している。

 β隊が崩壊した。


『β隊どうした!? 返事をしろ!』『あいつです』


 あいつ?


『ホホジロザメです』


 脳裏にフラッシュバックする、鏡越しに見た怪物の頭。

 ホホジロザメ。端末の持ち主ζ-01を殺したあれか。

 α隊ワン、δ隊ツー、γ隊ツーとやられていく。正直、緑丸の生死など興味がない。最悪なのは、

 どんどん私に近づいてきていることだ。


「来るな、来るなよ! ねえ! 私じゃなくて、ほら、そっちにη隊が――っ」


 声が詰まる。喉に強烈な激痛が走ったからだ。

 まただ。さっきもあった。どうして、こんな時に。

 喉を押さえる、掻きむしる。

 目と鼻の先の赤丸。

 この。この、このっ。


「ぐ、ァ、あっち、行ってよォっッっっ!!」


 グッ、と瞼を閉じた。

 静寂。いつまで経っても衝撃が来ない。恐る恐ると瞼を開く。


「あれ?」


 キョロキョロと辺りを見回し、端末に目を止める。マップからは忽然と、すべての赤丸が消えていた。

 上陸可能推定時限(タイムリミット)はまだのはず。

 深呼吸し、息を整える。フラフラながらも立ち上がった。


「……お従姉ちゃんのホテルに、行かないと」


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