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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第一話:yuni

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ζ-01

ζはギリシャ文字のゼータです。


「頼む。あと二十分、持ち堪えてくれ」


 管制室の中心で、男は呟く。正面スクリーンに映るマップを睨みつつ。

 ζ-01こと冬林の予言通り、ここが奴らとの戦場になった。やはり彼は神に愛されているのか。我らが敗北すれば、日本は瞬く間に蹂躙される。今回を除いてもすでに二件の戦闘があったというに、政府は対策に及び腰だ。不十分な物資、限られた人員で対処せねばならない。

 此度乗り越えられたとしても、襲撃頻度が多くなれば、今のままでは。


「隊長。ζ-01からメッセージが」「何? 私にも共有しろ」

『こちらζ-01。現在の配置展開に問題を発見。説明の猶予なし』


 打ち込まれた文字を、WorkHorseの機能が音読する。


『私に指揮を任されよ』


◇◇◇


「私に指揮を任されよ、と」


 罠に気づいた。しかし、新しい作戦まで含めて一から教える時間はない。私が直接、マップの緑丸たちを動かした方が早い。そう判断した。乱れていた精神は、完全に治ったようだ。元の自分に戻れた気がする。水柱を見てからの自分は、本当にどこかおかしかった。

 倉庫内で見つけたキーボードを端末に繋げて、WorkHorseにメッセージとして打ち込む。偉そうな物言いだけれど、WorkHorse含む各種SNSを覗く限り、端末持ち主の書く文章は終始こんな感じだった。

 すぐに返信が来る。opr-05ではなく、CMDというアカウントから。


『お告げが来たのか?』


 予想斜め上の返事。笑ってしまいそうになった。端末の持ち主は、占い師か何かだったのか。普段からお告げなるものを仲間に吹聴していた。滑稽だけれど、少なくとも返信者は、その眉唾な言葉を信じていたらしい。向こうは音声入力のはず。茶化す言葉もなく、ノータイムで確認を入れてきた。

 お告げが虚言とは言い切れないか。ユニとやらに関係あるのかも。笑いを堪えて乗っかる。


『ああその通りだ』『なら、君に指揮権を譲ろう』


 驚く。もう少しゴタつくと思っていた。現場の人間から急に指揮権を寄越せと言われて反感を覚えない人間は珍しい。せっかく考えていた会話プランが無駄になってしまった。というか、こういう判断をすぐに下せるとは、CMDはcommander、つまり指揮官だったのか。ζ-01に対する信頼の篤さも感じる。

 利用させてもらおう。お従姉ちゃんを助けるため、そして私が生き残るため。

 WorkHorseの共有スペースで『これより指揮はζ-01が取る』という通達がなされた。混乱なく受け入れられる。ありがたい。

 生憎マイクは見つからなかったけれど、キーボードは二つあり、どちらも端末に繋げてある。一度にメッセージを二つ打ち込むことが可能。

 マップを眺める。戦闘後に消えた赤丸が、これまでにいくつかあった。恐らく殺したのだろう。鮫の化け物たちも死ぬ。そして、動かなくなった緑丸の数はその倍あるものの、怪物たちと敵対しているらしきこの組織は、何らかの対抗手段を持っていると考えられる。

 気になるけれど、根掘り葉掘り質問して怪しまれたら終わりだ。そういうものとして捉えておこう。特別倉庫の位置に応じて、碁盤みたく区画分けした地図を共有スペースに送った。


『隊ごとに表示が異なっている。現在地点は青塗り。次に行くべき区画は黄色く塗られている。黄色いコマが二つ以上ある部隊は、私の指示に従って隊を分けてもらう。まずα隊はα-01とα-03をそれぞれ小隊長とする二つの組に――』


 ○-△の○に当たるギリシャ文字は、分かりやすくも部隊名だった。だから端末持ち主であるζ-01はζ隊の隊長かと思いきや、アカウントにζを冠する者は一人だけ。単独行動だったよう。

 結果として焼死体になるのなら、仲間を引き連れとけば良かったのに。

 盾として。


『δ隊ツー、そのまま敵を引き連れておけ。η隊はマップで示した通りに回り込め。音は立てるな。α隊ワンはβ隊が牽制している怪物に奇襲をかけろ。どうやら背後がお留守になっておられるらしい』


 休みなく指示を出す。損害は減り、討伐数は増えた。が、たとえ私が介入しなかったとしても、大まかには同じ動きを取ったはず。罠に気づいた上での最善手は選んでいない。

 気づいたと気づかれてはならない。


『η隊が相手している赤丸は鈍足だ。マップの矢印通りに進んで翻弄しろ。白塗り区画で足を止めるはず。予測通りならそのまま待機。外れたら追加の指示を出す。γ隊スリーは先ほど設置したリモート空砲を起動しろ。δ隊ワン、ツー。付近の光源を破壊しつつ、赤丸二つを白塗り区画に追い込み同士討ちさせよ』


 怪物どもの残り時間はあと十一分二十二秒。そろそろか。もし、私の読みが外れていたら。ないだろうけれど、別にそれでもいい。緑丸の輩をコマに、十分強を凌ぎ切るだけ。

 十分五十、四十九……。


『γ隊ワン、今夜は焼き魚のソテーかな?』


 小さな異変でも察知出来るよう、瞬きすら許さない。血眼になってマップを眺める。

 あえてヒマにさせていた怪物たちがちらほら、海の方に足を向け始めた。

 やはり。算数するまでもない。

 今だ。


『各隊、最も近い倉庫内に退避!』


 戸惑いの声が共有スペースに続くも、皆素直に従ってくれた。マップを横目に、すでに侵入していた統括デバイス上の、とあるプログラムを書き換える。

 作業が終わった直後、地面が揺れた。水柱出現時とは異なる、もっと根本的な揺れだ。

 海棲生物如きが、妙な技術を持ってやがるものじゃあないか。

 過ぎた力は身を滅ぼすというに。


「あはっ。陸の支配者が誰かを、小さな小さなお魚脳にブチ教えてやるわ」


 弄ったプログラムの正常アクティベートを確認。嗤う。


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