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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第一話:yuni

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3/21

マップ上の戦闘


 奴らがやってくる。奴らがそこまで、やってきている。


「――っ!?」


 海で高く聳え立つ水柱と、どう考えても無関係ではないタブレットのパスワードが、”yuni”だった。

 ユニ。不可思議なメッセージの送り主。

 奇妙で眉唾だったそれらの、信憑性が増してくる。「奴ら」の正体は判然としないけれど、しかし確かに、人間ではない化け物を目撃したのだ。鮫人間。バクバクと心臓が鳴る。自らの喉元をギュッと握った。私は一体、どういう存在から伝言を受け取っていたのだろう。


「は、はは」


 現実逃避気味に、開いたタブレットの操作を始める。お従姉ちゃんと、来る途中で見かけた少女とを心配する気持ちはあれど、鮫の化け物が闊歩する真夜中の倉庫群で生き残れる気はしなかった。私は死にに来たのではない。


 お父さんとお母さんを殺したテロリストどもへの復讐も、まだ済んでいないのに。


 見慣れたSNSアプリがあった。”WorkHorse”だ。タブレット持ち主のアカウント名は”ζ-01”。名前として使うには、ちょっと記号的過ぎるように思える。けれど、ζ-01が属しているグループについては、他のメンバー名も似たり寄ったりだった。例えば、直近三件の差出人は”β-14,” “θ-02”そして”α-06”だ。

 内容は『フグと遭遇、交戦に入る』『敵の突出者を掃討、ブレード不足。一時後退』『上陸可能推定時限まであと四十分』。


「多人数型シミュレーションゲームのチャットみたい……?」


 α-06のメッセージが上がった。新しいのが来たのだ。緊張状態にあったからか慌ててしまい、新規メッセージを誤ってタップする。

 画面が変わる。WorkHorseが左に寄り、右に地図が表れた。

 倉庫群周辺のマップだ。あちこちに赤い丸と緑色の丸が点々とする中、一つだけ青い丸がある。メッセージに関連するらしき丸たちには、少し黄色がかっていた。立って移動してみると、青丸が少し動く。このタブレットを表しているらしい。赤い丸は海側、緑色の丸は陸側に多い。数は緑色の方が上。しかし静止したままのものが目立つ。赤い丸は、水柱の位置にいるもの以外は、ほぼすべて活発な動きを見せている。

 というか……地図の縮尺が正しければ、赤丸たちは人間ではあり得ない速度で動いているように思える。

 赤い方が敵。つまり、あの鮫人間の仲間? あんなのがウヨウヨいるの? 背筋に怖気が走る。

 お従姉ちゃん。

 プライベートルームがアクティブになった。タップする。『生きてらっしゃるのですか』というメッセージが、”opr-05”から届いていた。「オペレーター」のoprだろうか。焼死体を思い出す。このタブレットの持ち主は、すでに亡くなっている。伝えるべきなのかしら。いや。私はタブレットのパスワードを、一発で当ててしまっている。それを問い詰められれば、面倒なことになりかねない。

 入力する。


『サメと遭遇。交戦時に気絶、しかし生存。現在サメは見当たらず。負傷したため、近くの倉庫に避難している』

『手入力ですか』


 WorkHorseの機能を思い出す。オーディオ入力が可能だし、なんなら、入力されたメッセージを読み上げてくれる。私は使ってなかったけれど。


『戦闘時、マイクとイヤホン破損』

『承知しました。しばらくその倉庫で待機していてください』


 怪しまれずに済んだかな? 共有スペースのログを上に辿ると、マップのプライベートリンクが貼ってあった。タップして、お従姉ちゃんのホテルを確認する。十を超える赤い丸たちで囲まれていたが、ホテル敷地内部に緑色の丸が多数あり、どうにか敵の侵入を防いでいることが確認出来る。お従姉ちゃんが無事かは分からないけれど、希望は持てる。

 唇を噛む。弱ったな。隙がない。勢いでここまでやってきてしまったが、つい冷静になる。現実は甘くない。ホテルまで行くルートを見定めようと考えていたけれど、秘密の地下通路でもない限り、ほとんど不可能だ。命を賭けて、ミイラ取りがミイラになる顛末は死んでもごめんだし。緑丸の人たちに期待するしか。

 疑問が鎌首をもたげる。ナチュラルに赤い丸を敵として見ているけれど、そもそもどうやって敵の位置を把捉し、マップに表示しているのだろう。鮫の怪物みたいなのが他にいたとして、GPSの発信機を備えているとはとても思えないし。

 コメカミを押さえる。鮫とマップと、WorkHorseのメッセージのみが私の持ち得る情報のすべてだ。赤い丸で捉えきれていない敵がいるかもなんて、考えても仕方がない。

 出来るのは、祈ることだけ。でも。マップを眺める。緑丸の陣形は、酷く脆く感じられる。動かなくなった丸がやられたものと仮定すると、この消耗ペースでは、恐らく一時間も保たないだろう。全滅し、ホテルに怪物が流れ込む。ここも安全じゃない。私も巻き込まれる。

 共有スペースのログが、どんどん更新されていく。新しいメッセージが来た。


『上陸可能推定時限まであと三十分』


 ハッと気づく。上陸可能推定時限とは、鮫の化け物たちが上陸していられる残り時間のことか。魚の顔をしているのだ、陸地じゃ長く生きられなくても別段不思議ではない。あと三十分保てばいいというのであれば、まだ勝機はある。

 お従姉ちゃんも私も、助かるはずだ。

 助かる、はず。


「ん……?」


 緑丸の展開と赤丸の配置に違和感を覚え、首を捻る。

 キュッと心臓が締まり、背筋が凍った。目を見開く。

 これは罠だ。


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