表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第四話:花屋地下修練場

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/21

波音・1


「ちょっと。暴走事故って何よっ!」


 軽く放たれたその言葉は、あまりにも衝撃的で、到底聞き捨てられるものではなかった。田峰の肩を引っ掴み、未調整のジェットコースターが如く激しく揺さぶる。


「やめてやめて気持ち悪いうぷっ」「吐いたら殺す」

「どうもユニ力は稀に暴発するようでーす☆ 言ってなかったっけ?」

「聞いてねえわ死ね」

「本物の殺意だこわぁ。胸ぐら掴まないでよっ服が伸びちゃう! ほら、さっき言ったブロック所有者ちゃんがあなたの後ろにいるから!」

「もーなんで言っちゃうの! 驚かす予定だったのに!」


 田峰の痩身を投げ捨て、振り向く。チビがいた。煌めくオレンジ色の髪を、ツインテールの形に縛っている。喉元の模様は正六角形。早速のお出ましだ。

 左手に白い手袋をはめている。何故だろう。いつでも決闘を申し込めるという意思表示だろうか。手袋を投げつけて。警戒感が強まる。


「わあははー! 聞きなさい。あたしの名前は波音(ゆう)! ブロックの力は『具現化』! よろしく」

「水晴桐歌。よろしく」


 元気だ。うるさい。キンキンする。音量はどこで調節出来るのかしら。


「ミハルキリカ! んーどっちが名前?」「桐歌」

「じゃあミハルで!」


 なら苗字聞けよ。


「タミネから聞いたけど、ミハルもブロック所有者なんでしょ? 染めてて分かんないけど! 能力は?」「分からないから検証しに来たの」

「ふーん。じゃあ喉の模様は? 髪の色は?」

「喉の模様は二重丸。髪は青色。少しシルバーが掛かっているけれど」

「へえシルバー! おばあちゃんみたーい!」


 爆笑される。なんだろう。出会って一分も経ってないけれど、もうすでに会話したくない。思考のあり方に種族レベルでの断絶を感じる。本当にこいつは人間なのだろうか。

 さては猿人? 低い知能・もたらされる騒音公害の二点から、この仮説は支持されそうだ。2030年にもなってまだ生き残っていたとは。


「ユウちゃん。キリカちゃんがキレかかってるからその辺で。本題に入ろう。ブロックの使い方とか発動条件とか、色々教えてあげてくれない?」

「えー。波音先生って呼んでくれるならいいよ!」

「は? 嫌よ猿人」「エンジン? 車好きなの? 私はマンガが好き!」

「極めてどうでもいいわ」「えーと、最近は海月火山の『無気神』かなあ」


 みこちゃんも好きと言っていたな。バカを引き寄せる作品なのだろうか。

 会話が成立していない。眉間が歪む。


「はっはっはっは! 絶望的に相性わるぅ! はっはっはっは!」


 高笑いする田峰。「逆にコンビを組んで欲しい」などとも()かす。制御出来ない場はタマネギの次に嫌いだ。腕時計を眺めて嘆息した。


「波音夕。とりあえず、超能力とやらを見てみたいのだけれど」

「いいよ! 何見たい?」「『具現化』と言っていたわね」「うん」

「可愛い子猫」


 スマホで一押しの写真を見せる。


「あっはあ。お茶の子さいさい! 行くよ。【ネコ】」

「っ!?」


 仰け反る。

 前準備も何もなく、ただその一言だけで、虚空からヌルリと、写真通りの可愛い子猫ちゃんが出てきた。目が飛び出るほどに驚いた。心臓がバクバクする。恐る恐ると手を伸ばし、現れたソレ(・・)を撫でた、猫の毛並みだ。

 口元を押さえる。常識からの解放だった。鮫頭の化け物をこの目で見ておいて、かつユニの力についての説明を事前に何度も聞いておきながら、実は心の奥底で、「超能力は空想の産物」と思い込んでいたと思い知らされた。


「大体十六秒ぐらいで消えるよ! 私が触れてなければ」

「触れていたら?」「ずっと消えないよ」「強力ね。本当に」


 興奮で笑みを浮かべる。有効活用法の二百や三百くらいすぐに捻り出せる。他の超能力者、並びに海底人の存在がなければ、波音夕は世界征服も可能なのではなかろうか。黒スーツの二人組を想起する。政府が超能力者を狙っていたとしても不思議ではないが、果たして天久保もブロック所有者なのだろうか。

 この疑問は棚上げしておくほかない。

 緑髪の少女が言っていた話を脳裏で反復した。現実世界の肉体と精神世界の魂とを連結する霊的組成の変化が、人から物理という制約を取り上げ、超能力を発現させる。背後にあるストーリーは未だまったく掴めていないけれど、俄然現実味が湧いてきた。


「最初は上手く操れなくて、失敗続きだったなあ」

「失敗? それが『暴走事故』なのかしら?」

「うんにゃ。失敗ってのは、使おうと思ったところで使えなかったり、使うつもりのないところで出てきちゃったりって感じで。暴走ってのは違くて」

「発動自体は上手くいくのにコントロールは出来ていない『失敗』と、発動に異常を伴う『暴走』は異なると言いたいわけ?」

「うん! そうそう!」「なるほど」


 習熟には時間がかかる。能力の種類にも依るだろう。特に「具現化」は難しそうだ。「車」と言うだけで自動車が出てきたら危ない。しかし、先ほど波音が「車」と言った時、そうはならなかった。


「発動の条件は?」「えいやっと声に力を込める!」

「…………暴走というのは、具体的にどうなるの?」

「なんかこう、粘土みたいにぐにゃっとなる。こっちとあっちの境目がぼんやりするというか。それで、えーと。あっちから引っ張ってこようとして、逆にこっちが引っ張られて、そして、連れて行かれちゃうの」


 イマイチ要領を得ないけれど、馬鹿なりに要点をまとめてくれている。「こっち」を現実世界、「あっち」を精神世界と考えれば、精神世界の力を借りて超能力を使おうとした際に、逆に現実世界の物質が取り込まれてしまうと言っているのだろう。

 波音の左手に視線をやった。指で差す。


「連れて行かれたの?」「っ。うん。ほら」


 手袋が外される。オレンジ色の左手が曝け出された。人肌の色彩とは明らかに異なる。かと言ってペインティングしているようには見えない。

 命にしか出せない橙色。波音の髪と同じ。


「『具現化』のおかげで困ってはないんだけどね」

「怖くないの? その力」「怖いけど。でもさ」


 ゾクリとするほど冷淡に、波音はこう続けた。


「海底人は滅ぼさなきゃいけないから」


 突然の殺意に、背筋が凍りそうになった。

 海底人は滅ぼすべき。私もそう考えている。父と母を殺したらしい憎き仇で、しかも人に害を為す危険な存在だからだ。とはいえ、滅ぼさなければいけないと考えるほどには、心は黒く染まっていない。

 波音は違う。こいつには、刺し違えてでも海底人を滅ぼす覚悟がある。萎縮してしまいそう。目を逸らした。

 田峰が茶化すように言う。


「ははあ。前回は不参加だったみたいだけど」

「まだ左手の調整中だったもん!」

「あの。発現する超能力の種類に、傾向やパターンはないの?」

「ないけど、そうだねえ。イカれてる奴の方が強い能力を持っている気はするけど、イカれてるから上手く扱えてるだけかもしれないし」

「なら私の適性は低そうね」「いや、桐歌ちゃんは結構イカれてるじゃん」

「え?」「え?」


 田峰を睨みつける。ちょうどその時、私と彼女のスマホが鳴った。

 取り出す。ユニからのメッセージ。久しぶりだ。


 裏切りの咎人と奴らが手を取り合い、地上の都市を堕とした。


「はあ?」


 眉を顰める。意味不明だ。

 スマホをしまうと同時に、田峰の震える声が耳に届いた。


「ねえ。あのさ。聞いても信じてもらえないかもしれないけど。その、シドニーが水没したって。海底人のせいで」


 呆気に取られる。もう一度スマホを取り出し、ユニからのメッセージを眺めた。地上の都市を堕とした。

 シドニーは、波を彷彿とさせる形のオペラハウスで有名な、オーストラリアの金融都市だ。頭の整理が追いつかない。

 田峰はさらにこう付け加える。


「しかも今回は、海底人からの犯行声明が届いているみたい。日本語で」


ア◯セウスめっちゃ楽しいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ