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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第三話:黒スーツ

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14/21

誘い


「俺は……何を……」


 相棒の吉崎が、震える拳を呆然と見つめる。貝沢も驚いて、吉崎の肩を掴もうとする。彼は校長を殴ってしまった。朝礼前の慌ただしい時間に学校にやってきて、生徒の一人である天久保を連れ出す正確な理由は言えない。言っても信じてもらえない。しかし、こちらが不誠実な対応を取ったのは確かで、ここの校長はそれを咎めただけだ。

 だのに、暴力を振るうだなんて。


「……いや。問題ないのか」


 貝沢の心は、急速に冷えていく。吉崎も同様だった。身の程知らずは暴力で黙らせる。当たり前の話だ。


「どういうつもりですか!」


 天久保が声を張り上げる。正義なるモノがあると信じている、血気盛んな若者の態度だ。貝沢たちは、少年を一瞥だけした。

 先ほど確認したところ、髪は朱。喉元のマークは、自己申告だが三角。ユニからのメッセージが、不定期に脳内で鳴り響く。どのような能力が発現しているかは分からないが、間違いなくブロック所有者。貴重なサンプルだ。上に許可を取らず、暴力を行使するわけにはいかない。

 今、世界には、この天久保のような異能人がポツポツと増え始めている。各国政府上層部はその確保に積極的だ。他国やAUFOに遅れをとるわけにはいかない。彼らは常に力を求めている。米国や中国、またAUFOのバックについている、あの女(・・・)に対抗出来る力を。

 ピンポンパンポーン。


『末本先生。末本先生。至急校長室までいらしてください』

「っ!?」


 顔を見合わせる貝沢と吉崎。彼らは考える。あからさまな人工音声。放送を流した某は、監視カメラか何かで校長室での暴行を目撃した。天久保が連れて行かれぬよう、自分たちを妨害しようとしている。

 貝沢は腕を組んだ。すでに天久保に目をつけていた者がいる。AUFOの人間か、あるいはブロックの謎に迫ろうとする別口の組織か。


「敵だな。我々の情報をどこまで知っているのか」

「狙いは? 時間稼ぎか?」「仲間が来ると?」「可能性はある」

「誰かが僕たちを見てるんですか?」


 天久保が口を開くと同時に、窓からコンコン音がした。黒スーツたちは振り返る。飾り物が邪魔ですぐには追いかけられない。うーむと唸った貝沢だったが、しばらくしてこう結論づける。


「誘いだな。こちらに探りを入れつつ、天久保と引き離そうとしている」

「どうすべきだ? 一度本部と連絡を取った方が」

「すぐに乗るべきだと思う。逆に正体を探る」

「あの、僕はどうすれば」「ここにいろ。逃げても無駄だ」

「どちらかここに残るべきか?」

「恐らく相手は一人だ。二対一に持ち込みたい。二人で追いかける」


 窓から抜け出す黒スーツ二人を見送り、取り残された天久保は、自らのスマートフォンを取り出した。自宅に電話をかける。


「悪い人たちに目をつけられたかもしれない。隠れて欲しい」


◇◇◇


 二つ隣の女子トイレより、黒スーツたちが誘いに乗って運動場倉庫に入ったのを確認した。イヤホンに全神経を集中させる。残念ながらカメラはない。黒スーツたちの位置は想像で補う。


「どうも。こんにちは」


 およそ四十秒後。手元の小型マイクに向かって、変声マスク越しに話しかける。奴らは何者か。何のために天久保を校長室へと連れて行ったのか。天久保をどうするつもりなのか。少しでも情報を抜き出したい……けれど、首元にナイフを突きつけている訳でもなし、あまり期待は出来ない。

 訓練された人間は、無闇に失言したりしない。


『どこの所属だ?』「さあ。どこだと思う?」

『…………』「一先ずζ-01とでも名乗っておく」


 無反応。AUFOの関係者ではなさそうに思える。防犯カメラの映像で見た、ピクリとも動かない表情から鑑みるに、奴らは感情抑制の上級者だ。とはいえ、海底人に対抗するための組織であるAUFOがこの高校にやってきて、天久保をマークする理由はどこにもない。無関係と結論づけて問題ないだろう。


「君たちこそどこの所属だ?」『…………』

「なぜあの少年を? 彼をどうするつもりかね」『…………』


 ダンマリか。思考を続ける。

 天久保との接触は、水の柱や海底人とは別件か。黒スーツは政府関係者らしい。例えば、政府の機密条項にアクセスしてしまった天久保の口を塞ぎに来たとか。穏便に済ませて欲しいものだが。

 待てよ。


「天久保ではなく私を優先した。お前たちにとって最重要の目的は、天久保を連行することではなく、見つけ出すこと」


 ある特徴を持った人間を探していて、それがたまたま天久保だった。だとすると、生徒が教室に集まる朝のホームルーム前、乃至(ないし)ホームルーム中に視察を行うことには一定の合理性がある。

 けれど、天久保に一目で分かるような特徴はない。顔立ちは整っていると言えど地味だし、身長(ついでに成績)も中の上。ガタイも普通。良くも悪くも注目されない存在だ。まあ、良い所がない訳でもないけれど……例えば私に、無関心でない(・・・・・・)優しさをくれる……彼が隣にいるだけで居心地がいい……首を振った。まさか黒スーツたちが、天久保の優しさを求めて学校に乗り込んできたとは考えにくい。というか、優しさは見ただけでは分からない。

 え? 政府関係者が注目しそうな天久保の特徴って何? 口元に手を当てる。私の知らない天久保がいる。元々知らないことばかりだけれど、悔しい。首を激しく振った。違うでしょう。

 見て分かる特徴。染髪料と化粧品で隠す前の私なら、青プリンのヘアカラーと喉元の模様でとても目立つだろうけれど……酸性染料を判別する手法を持っているのなら。

 ひょっとして、天久保も?

 可能性に過ぎない。次の質問をぶつけるべく、口を開きかけた時だった。


『ここにはいないな』

『だが、安物のスピーカーとSubSky-Serveを通じて繋がれている』


 そう遠くにはいないはずだ。

 喉が急速に乾いていく。まずい。心臓を鷲掴みにされたような感覚に苦しむ。

 いつの間にか、視野狭窄に陥っていた。今気づいた。

 自らの行動の行き当たりばったりさ(・・・・・・・・・・)に。


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