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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第三話:黒スーツ

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13/21

校長室


 パソコンの画面を食い入るように見つめる。映像では、ガタイのいい黒スーツの男二人に、我が校の校長が向かい合っている。彼は、俗に言う「ナイスミドル」な壮年男性で、先生たちからの支持は厚く、また一部の女子生徒からカルト的な人気を誇る。


『はい。ですので、ウチで聴取をと』


 ワイヤレスイヤホンを押さえつけた。聴取? 黒スーツの奴ら、警察の人間なのか? 「捜査を円滑に進めるため」などの理由で、彼らはしばしば警察だと分からない服装に身を包む。今の場合、天久保に余計な噂が立つのを防ぐために警察らしい格好を避けたとも解釈可能だ。高校生が教室で警察に連れて行かれたら、みんな面白がって話を大きくするから。とにかく、見た目から警察関係者かどうかの判別はつかない。

 聴取だけなら、別に問題ない、のかな。

 顎に手を当て考える。水柱は警察も捜査しているのか。完全なるAUFOの領分というわけではないのか。警察というのは私の推測だ。ひょっとすると、黒スーツは能木と同じくAUFOの所属かもしれない。

 待て。聴取したいだけならば、下校時刻の後、天久保の自宅を直接訪ねれば良いじゃない。どうして今?


『なぜあなたたちは、朝のホームルーム前、学校に来なさったので? 慌ただしいことこの上ないし、天久保くんが学校に来ていない可能性もあります』


 校長も、同じ疑問を抱いたようだった。

 最近の防犯カメラは優秀だ。映る人の顔色も見て取れる。黒スーツの男たちは、まるで表情を変えない。頬肉だけ化石なんじゃないかと思うくらいに。

 淡々と返す。


『理由を知る必要は、あなたにはありません』

『いくら政府機関の関係者と言えども、あまりに失礼過ぎるのではありませんか? 私は校長です。生徒を守る義務がある。学業の自由が強引に奪い去られようとしているならば、私はそれを防がねばなりません』

「おお」


 校長の啖呵に唸る。屈強な男二人に対し、自らの正義をきっぱりと表明出来る人間はなかなかいない。人気があるのも頷ける。

 イヤホンの内側で、鈍い音が響いた。背筋を跳ねさせる。思わず目を瞑ってしまった。

 黒スーツの一人が、校長の顔を殴ったのだ。一切の躊躇もなく。『どういうつもりですか!』と天久保が怒りを露わにした。二人はそれに反応しない。

 決定的な暴力の行使。身構える。

 黒スーツは警察ではない。有象無象の一般人相手ならともかく、社会的地位のある校長を殴ってしまえば、国家権力の象徴たる警察では逆に揉み消せない。校長は、彼らを政府関係者と呼称したけれど……きな臭い。

 奴らはヤバい連中だ。しかも、バックに政府がいる可能性のある。AUFOなのか? あるいは別の組織? 今はどうでもいい。

 暴力も権力も持っている奴らに、天久保が連れ去られたら。

 立ち上がった。放送室に走る。パソコン室のすぐ近く。もちろん鍵がかかっていたけれど、上の窓から侵入出来た。マイクの電源を入れ、ベルを鳴らす。

 ピンポンパンポーン。変声マスクをかける。


「末本先生。末本先生。至急校長室までいらしてください」


 現在八時三十四分。朝のホームルーム真っ只中。呼び出し時間としては奇妙だ。末本先生とは私のクラスの担任だけれど、彼は来てくれるだろうか。放送用にチューニングした合成音声など作っている暇もなく、いかにも「変えた」という感満載の声で流さざるを得なかった。あの先生なら怪しむはずだし、しばらく様子見を決め込むだろう。その後校長室に行こうが行くまいが、疑念を抱いて放送室に来るか、別にどうでもいい。

 重要なのは、この放送は校長室にも届いているということだ。パソコン室に戻る。映像を眺めた。倒れ伏す校長先生の横、黒スーツ二人が今の放送について相談している。

 パソコンの電源を消す。タブレットを隠し、非常用階段に赴く。上履きのまま外に出た。東棟一階の()に向かって駆ける。校長室の窓を叩いた。

 奴らは恐らく表情を変えないための訓練を受けている。とは言っても鉄面皮の下は、さぞかし動揺していることだろう。さあ。お前らを監視していたかもしれない人間のお出ましだ。食いつけ。

 食いつくという前提で行動する。いつも陰で湿っている場所へとあえて足を運んだ。行き先を特定させる。道のり二百メートルを走り切って、空いた窓から運動場用倉庫に入った。乱れる息を必死に押さえ込み、放送室で盗んだ電池式スピーカーを古い演説台上に、小型マイクを綱引き用ロープの下に置く。

 それから、下の通気口を抜けて外に出た。部活棟を挟んだ二つ隣の女子トイレにて、息を潜めて待つ。一分半ほど経って、黒スーツどもが倉庫に近づいてくるのを確認した。ほんの少しだけ開けっぱなしにした倉庫の窓を見てから、鍵を壊して中に入る。実に乱暴だ。

 変声マスクを付けた。マイクに向かって話しかける。


「ようやくお出ましか――」


◇◇◇


「AUFOに潜らせたスパイからの情報だ。ユニの力(ブロック)を持つだろう人間が巫良浜(みらはま)市に現れたらしい」「というと、二日前に水柱が昇った?」

「そうだ。AUFOよりも先に確保したい。海底人に対抗するための力を、日本政府も持つべきだ。サンプルは一つでも多くいる」


 上司にそう言われて派遣された、十四人のうちの一人である貝沢智文は、表情こそ一切変えないものの、内心で溜息を吐いた。今回の任務はハズレだな。ブロックの保有者がいたところで、巫良浜に止まっている保証はどこにもないし、たとえ巫良浜から出ていないとしても、拠点に引きこもっている可能性が高い。

 捜索は極めて困難だ。況して、染髪料と化粧品が鈍く光って見える特殊なコンタクトレンズを用いて、目で探すしかない状況下では、なおさら。ブロック保持者は髪を染め、喉元の模様をファウンデーションなどで隠している場合が多いと聞く。いたらすぐに分かるだろう。いたら。

 上司だってダメ元だろう。しかし貝沢は、なるべく見つける努力はすることにした。人が集まる場所から探した方が良い。まずは学校。それも朝礼直前の、生徒が教室に揃っている時間がいい。相棒の吉崎を伴って、海岸に最も近い高校に赴く。


「見つけた」


 黒い染髪料、首元に塗られた化粧品。

 ビンゴ。校内のデータベースを眺める。

 名は天久保爻。貝沢は彼に近づき、「政府の者だ。『ユニ』って知ってるか?」と小声で尋ねる。天久保はあっさり従った。


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