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ユニ -モチーフ・桐歌-  作者: オッコー勝森
第三話:黒スーツ
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気の迷い


 通学路を行く。考える。

 信じられないモノを見た気分だ。

 ζ-01を名乗る何者かにナイフで脅されておいて、それをAUFOに報告していない? 死んだ本物に成り代わり、勝手に指揮をとって海底人を翻弄した私は、あの組織にとっては良くも悪くも重要人物であるはずだ。組織内での自分の躍進のことを考えるならば、警察のみならず、少なくとも直属の上司辺りと相談するのが普通でしょう? だから、それが問題にならないよう動いたつもりだった。

 だというに、突きつけられたナイフが、昔世話になった人が使っていた物と同じだったから、昨日の接触を報告しなかったって? 脅迫したという事実はζ-01を不利にするだろうから。冗談じゃなく非合理だ。頭が悪いのかしら。

 能木は、夕ご飯の前には帰った。お住まいは東京らしい。弟に便乗し、WorkHorseでフレンド登録しておいたので、連絡はいつでも出来る。


「都合が良過ぎるわ」「なんの都合が良いって〜?」

「みこちゃんが投稿してる、私っぽい女が主人公の小説の展開」

「なんで知ってるのっ!?」


 顔を真っ赤にして飛び上がるみこちゃん。

 ふっ。私を主人公に添えるとは、とてもいい目とセンスをしていると思うのだけれど、如何せん出力者がみこちゃんなので、(本物)よりかなりお馬鹿さんなのが悲しい。「常人の考えるなんか賢い人」みたいな感じで、答えを出すまでのロジックがどうにも薄っぺらい。


「でもまさか、あのみこちゃんが文章を書けるだなんてね」

「その驚かれ方は傷つくなあ」

「反射だけでその場凌ぎの言葉を紡ぐ、哀れなロボットじゃなかったのね」

「なにそれ逆にかっこいい!」


 なぜか目をキラキラさせるみこちゃん。どこがかっこいいのだろうか。ただの虚無でしょうがそんな奴。

「あなたはロボットではありませんか?」の質問より先に進む価値もない。


「あれってロボット差別だよね」

「ロボット相手に差別もなにもないでしょうに」

「ロボットにだって心はあるよ!」「ないと仮定した方が楽よ」


 スクラップにする時に。機械は人間より早く寿命が来る。あれらに心があるならば、壊すとは殺すことに繋がる。辛く悲しい思い、あるいは自責思考に苛まれるくらいなら、心のない「壊れる物」として淡々と扱う方が良い。


「僕は、あると仮定した方がいいと思うな」


 隣の席から声がした。天久保だ。体が少し熱くなる。寝癖ないよね?


「どうしてかしら?」「心があると思った方が、大事に使うだろ?」

「なるほど。それで長持ちするというわけね。理に適ってるわ」


 賛同したにもかかわらず、彼は苦笑いした。あれ? ほんの少しショックを受ける。何かおかしなことを言ったかしら。泣きたくなってきた。


「か、顔洗ってくる」「いってらー」


 教室を出た。廊下奥の水道に赴く。どうして、なぜ、これしきのことで涙が出てしまうのだろう。他の奴らから否定されても、心は一切動かないのに。天久保との会話は、少しすれ違っただけで苦しくなる。いつもいつも、心のバランスを崩してくる。波紋を引き起こす。

 逆に、少し共感してもらえただけで、すこぶる嬉しくなってしまう。

 彼の言葉に踊らされ。一喜一憂。バカみたい。まさか、私は本当に天久保が好きなの?

 人の愛欲を否定するつもりはない。協力関係に好き嫌いを紐付けることには、理に適っている点もある。しかし愛は、特に恋愛は、時間を取らせるし、人の判断を鈍らせる要因になりかねない。小中高と地方の共学で生きていれば、たとえ他者との交友関係が皆無であっても、恋愛で失敗する人間を間近で見る羽目になることも珍しくないのだ。恋愛に伴う成績不振や友情崩壊は日常茶飯事。2030年にもなって、女子生徒の妊娠と相手男子生徒の退学という事件も近くの学校であったらしい。トラブルに巻き込まれるのはごめんだ。世の多数を占めるバカとの付き合いが苦手な私には、恋だの愛だのに悩まされるのは、大きなデメリットがあるだろうと推測される。

 だから、天久保へのこの感情は、ただの気の迷いだ。

 はあ。溜息を吐く。

 角を曲がろうとして、反射的に隠れた。


「え?」


 黒いスーツの男二人が、教室から天久保を連れ出していた。職員室からの召喚、には見えない。地元企業のスカウトだろうか。いや、もはや絶滅危惧種だけれど、ヤクザに目を付けられたと言われた方がしっくり来る絵面だった。歩き方で人の強さを見分けられる審美眼は持っていないけれど、黒スーツの男たちの体が必要以上に鍛えられているのは見とめられた。

 どうしよう。どうしようどうしようどうしよう。どうすればいいの?

 とりあえず教室に戻る。


「みこちゃん」「なあに?」

「天久保はどこに?」「黒スーツの人たちが連れてったけど」「理由は?」

「さあ。突然入ってきて、天久保くんに声かけてすぐに出て行っちゃった」

「誰も止めなかったの?」「堂々としてたし。学校関係者なんじゃないの?」


 嫌な予感がした。教室を出るべく駆ける。


「みこちゃん、もうすぐ始まるよ!」「保健室に行ったと伝えて!」

「ダッシュで保健室ってそんなにしんどいの!? 私心配っ」


 パソコン室に向かう。二年前に買い替えられたらしい、それなりに新しいコンピュータを自分のタブレット経由で操り、学校の監視情報にアクセスした。黒スーツと天久保は、東棟一階廊下にいる。

 校長室の前。

 その扉が開く。招き入れられたようだ。爪を噛む。あそこのカメラとマイクは、校長が電源を入れないと回らない。防音だから、外から話の盗み聞きも出来ない。

 頭を抱え込むと同時に、黒かったマスに光が灯った。オンにされたらしい。話に耳を傾ける。

 黒スーツに問う校長。


『確か天久保くんでしたか。彼が、三日前の水柱騒動の関係者だと言うのですか?』


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