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円卓の小人  作者: ひとりぼっちの桜
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21/26

第21章「決戦」

閲覧ありがとうございます。


頑張って書いたのでよかったら読んで頂ければ幸いです。

第21章「決戦」




 百合姫はスーと両目を閉じ、ゆっくりと白い息を吐く。


「Ⅱ番、ランスロット」


 同時にやつの額に浮かび上がるⅡのローマ数字。


 やつが目を閉じた瞬間、足を前へ蹴りだす。

 目指すはやつじゃない!

 その間逆の方向にある噴水、バイクのエンジンをかけるガチャン!という音が背後から聞こえながらも全力で駆ける。

 そして俺はすがりつくように噴水に突っ伏し、ふちに手を触れながら水しぶきが飛び散る水面を見て軽く息を止めた。


「Ⅴ番、ベディヴィエール!」


 俺の左目の眼球に現れるⅤのローマ数字。

 そして一気に右手を刺すほどに冷たい水の中に突っ込んだ。


 瞬間、手に何かが当たる感覚。


 俺は “それ ”を掴んで引っこ抜く。

 水しぶきと共に出てきたのは1本の剣。



ベディヴィエールの【kingly relic = 遺剣の泉】。

 水の中からさまざま武器を取り出す(ただし単純な構成をした物だけに限る)。

 西洋の騎士が持っていそうなその鋼の剣には刃こぼれ1つなく、悠々と月明かりに反射した。



ベイ「おい主殿、もう1本剣を取り出せ。そしてオレを使え」


 けたたましいカブの使い古されたエンジン音。

 やつが襲い掛かってくるまで、もう時間がねーてのにブレスレットからベイリンが話しかけてきやがった。


「何でだよ!? お前の戦闘力じゃやつには勝てない」

ベイ「良いもん見せてやるよ」


 こいつの力は上から数えて6番目、戦闘でベイリンを使う気は無かったが…


「信じるぞ、違剣の泉。 つめてー!!」


ベイ「あーまかせとけ。そしてオレの二つ名を教えてやるよ。 オレの二つ名はー」


 水中からすくい上げたもう1本の剣。


「そうならそうと早く言えよ」


 俺は緩む口元で2本の剣を手にランスロット(百合姫)に向かって構える。


「Ⅸ番、ベイリン」


 ローマ数字のⅨが俺の左頬に荒々しく浮かび上がった。



ランスロットの【falseness knight = 騎士の本懐】。

 乗り物に騎乗することで乗っている本人は元より、乗っているその“物”自体の能力も向上する。



「ただでさえ強いってのに…まったく嫌になる」


 もういつでも発進できる。

 そう言っているかのようにバイクにまたがり、左手には殺意がこもった黒い木刀。

 剣が2本出るまで待ったのは、百合姫の甘さか、ランスロットの誇りか。

 そしてやつは思いっきりアクセルを回し、クラッチレバーを放した。


 砂や砂利を巻き上げながら真っ直ぐ突っ込んでくるホンダ製のカブ。

 時速100キロは優に超えているだろう速度、本当能力が上がるだけで説明できないな

 …でも。


 俺の体はあえて突っ込んでくるやつに2本の剣を手に飛び掛る。

 別にそれはベイリンに俺の体の優先権を譲ったわけでも、ヤケをおこしたわけでもない。 

 ただ、本能がそうしろと俺に命じたんだ。


 召喚獣を自分に憑依させるっていうのは技術、能力を自分に移行させるのは元より、経験を移行させていることに一番メリットがあると俺は考えている。

 つまりベイリンのこれまで生きてきた人生が俺に“ここはジャンプして2本の剣を突き刺せ”と命じるのであれば、主の俺はそれを選択したまでのことだ。


 猿のように飛び掛ってくる俺に百合姫は木刀を上に向かって振り払う。

 そして素早くUターン、しかし俺は既にヤツの目の前で切り裂く2本の刃を放っていた。


「クッ!」


 木刀で俺の鋼の剣を受け流した百合姫。

 否、受け流すしかなかった。

 普通に考えれば簡単な話だ、鋼と木では戦いにすらならない。

 ゆえにやつは受け流し、間合いを保ち乱打戦を防ごうとしているのだ。

 だからこそ、ここでの俺の取るべき選択は――


「おりゃ!」


 さらに一歩前に出て、やつの攻撃範囲内にて剣を強く振るう!

 ガーウィンのケンカ殺法よりも攻めに重点をおいたベイリンの二刀流。


 この型の特性は止まることのない斬戟の嵐、どこかの戦闘民族の舞を彷彿とさせるこの動きに、守りという概念はない。

 常に次の攻撃をめんとうにおくことで、本来なら接戦に持ち込むことすら不可能なランスロットという最強の小人をベイリンは互角にまでもっていく。

 現にやつは今、お得意のバイクで走り回ることも叶わず、アクセルも回せずに受けるしかない。


 俺の上下左右からの攻撃はやつを防戦一方にさせた。百合姫は唇を強く噛む。


ラ「クッ、二刀流のベイリンですか」


 苦々しくも発せられた言葉。

 その言葉癖と百合姫が知っているはずもないベイリンの二つ名、どうやら百合姫は完全にランスロットに体の優先権を譲ってやがるな…なら!


 回転しながらの攻撃の最中、俺は本能に反し、足を伸ばしバイクのある一部を蹴っ飛ばした!


「ピーーー!!」

 

 公園に鳴り響く、クラクションの耳を強く刺激する音。

 何が!?

 そう言わんばかりにランスロットは、音のした自分の乗っている手元のバイクの方に顔を向ける。


 今だ!

 俺は剣を薙ぎ払った。 


ラ「クッ!」


 反射的にランスロットが払う木刀によって、もう一撃

 致命傷を狙った右手の剣は防がれ間合いは作られたが

 ついに、ついに一太刀浴びせた。


 俺は対面しているやつに向かって緩んだ口元を見せる。

 両手に持った剣はクルクルと準備運動のように腕に絡むように回転する。


「ビックリしたか? お前の生きてきた時代にクラクションなんてねーだろ!」


 ヤツの手の甲からはポタポタと落ちる赤い滴。


ラ「たった一太刀。 そんなに嬉しいですか? 小人たちの主よ」


 百合姫の口から発せられるのは、完全にその体を掌握したランスロットのくだらないと言わんばかりの文言。

 チラッと甲の傷を見て、その瞳を俺に向ける。


「ああ、気分上場だよ。前回はその一太刀も浴びせられなかったんだ。 たとえ今は小さな歪みでも、それがお前を倒す亀裂になるからな」

ラ「そうですか…。なら、その歪みとやらが亀裂になる前に、あなたを倒しましょう。 あなたでは私には勝てない」


 小刻みに吹かせるエンジン。

 何をするつもりだ?


 ランスロットは俺の周囲をゆっくりと大きな円を描くように蛇行する。

 背後でも取るつもりか?


「そういうことなら、俺から攻めるだけだ!」


 やつの行く手を遮るような俺の突進に、ヤツは力いっぱいアクセルを回す。

 するとバイクはゆっくりとした蛇行から一気に竜のような走りにその姿を変えた。

 車のドリフトを思わせる動き、俺が相対したのは通り過ぎるやつの残像。

 まるで肩透かしだ。


 俺は目でバイクを追う。

 やつは俺の攻撃の当たらぬギリギリの位置を守り、そこから近づこうとしない。


ベイ「おい主殿、ヤツはビビってる。オレの二刀流に。 一気にやっちまおうぜ!」


 ベイリンに言われるまでも無い。

 俺もそうしたい…だが、何か嫌な予感がする。

 なぜ攻めてこない?

 何を狙っている?  


ベイ「来るぜ! 主殿」


 どうせまた攻めるフリで俺の横をドリフトで通過するつもりだろ。

 左右にドリフトしながら突っ込んでくるスピードが先ほどより確実に上がっている……。


 違う!!


 今度の狙いは間違いなく俺だ。

 本能がそう言っている。


 俺は左右の剣を強く握り直し、ピョンピョンとその場で軽く跳ぶ。

 やつが俺と対峙するまでおよそ2秒


 来い!


 やつの来る地点を予想、突っ込んでくるやつに左手の剣を合わせる。

 そして右で殺る!


 俺は全力で走りながら剣に狙い撃つ


「そこだ!」


 俺の攻撃にやつはバイクから乗り出した状態でそれを迎え撃つ…かのように見せ付けたその姿勢をさらに地面に近づけた。


 (スカ!)

 その言葉が見事にマッチしたような状況、状態、情景。


「この!」


 振り返ろうと首を真後ろに動かし俺が見たのは、やつが自分の体勢を横にして俺の攻撃を掻い潜った後姿。

 そのまま車体も斜めにして自分の足を軸に後輪をスリップさせながらターンして完全に俺の死角をついた姿だった。


 迫る木刀。

 俺は左手の剣をそのスカした遠心力もろとも背後に移動させる。


 ぶつかる剣圧と剣圧

 そして骨までジーンと痺れる左手に宙を舞い林の方に飛んでいく剣。


 通り過ぎたやつは10mほど先でUターン。

 バックライトが暗闇を赤く染める。


 一気に決めるつもりか?

 俺は痺れた左手をしっかりと右手に持った剣に添える。


「一本ぐらいで調子のんなよ!」

ベイ「ダメだ、主殿! オレは二刀流じゃなかったら動きが鈍る!」


 気の強い女子のベイリンが焦り声を荒げる。


「え!? ウソ!」


 とたん今までがウソのような体の重み。

 こちらの事情を一切鑑みないランスロットの木刀が押し寄せてくる。


「早く言えよ、そういう大事なことは! Ⅵ番、パーシバル!」


 同時に俺の体は、俺の意思とは違う動きを取り始める。

 大きくしゃがみ込み体を丸めたかと思いきや、襲い掛かる木刀を後ろ回し蹴りで捌き、もう片方の足で思いっきり蹴り上げヤツの木刀を上空に打ち上げた。


 ランスロットはすぐさまフロントブレーキをかけそのままバイクごと後方2回転宙返り、そして上空に漂う木刀をキャッチする。


 もう…なんかスゲーなお前ら。


 俺の体はくるんと身を翻し、スクッと立ち上がる。

 そしてジーパンに付いた砂や雪を軽く落とした後、涼しい顔で自分の中にいる主に言った。


パ「呼び出してくれるのはうれしいのだけど、槍を持った時にしてほしいの。剣は苦手なのよ」


 俺の口から発せられる女言葉、気持ち悪い…。


「ああ、悪かった。 とりあえず俺の体、返してもらうぞ。」

パ「あら、気づかなかった。 急いで呼び出されたからわたしが出て来ちゃったのね♪」


 分かってたくせに…。 まぁ、こいつじゃなきゃ殺られてたな。


「ふぅ~。 Ⅳ番、ガーウィン」


 右手の甲に浮かび上がるⅣのローマ数字。

 そして同時に俺の体の中で血がグツグツと沸騰していく感覚。


 空中から降りてくるランスロットに向かって、俺は大きく地面を蹴りだす。

 驚くほどに体が軽い、やはりこいつを使っている時が一番身体能力が上がるようだ。


 型のないケンカのような太刀筋、それなのに憑依させるとこうも強い。

 力対技、ランスロットにも押し勝てる。

 次、また走られると動きを捉えるのはいつになるか分からない。

 降りてきて止まっている今しかない!

 俺は大きく振りかぶった剣をヤツに向かって振り下ろした。


 鋭い眼光で受け流すランスロット。

 俺は何度受け流されようが剣を振り続ける。

 すると業を煮やしたのか、ランスロットは車体の前方を持ち上げてウイリー状態で戦い始めたのだ。


 格段に良くなるランスロット自体の動き。

 形勢は五分。

 負けるわけにはいかない。


「うりゃ!」


 さらに大きく振り上げる剣。

 握る手にも力がこもる。


 ランスロットはその時を待っていたと言わんばかりにウイリーをしたまま180度ターン。

 そしてバイクの体勢を戻したかと思ったら、次に車体の後輪だけを持ち上げ、止まった状態で後輪だけを空回りさせた。


ガ「まずい、用兵! 剣を止めろ!」


 頭の中から静止を命じる声

 しかし剣は…「ガン!」回る車輪と剣がぶつかった結果、俺の体は遠のき、またランスロットに走るだけの猶予を与えてしまった。

 強く歯を噛む。


「クソッ! ハァハァハァ。 ま…た、やつを捉える…ところから…か」

ガ「大丈夫か、用兵? 肩で息してるぞ」


 ガーウィンの問いに「大丈夫、人間て肩で息をするんだぜ」そう答えようと前方を見たまさにその時、公衆トイレの辺り、約50m先にいるヤツの手には見慣れた赤い筒が握られていた。


「おいおい。 お前はドラえもんか? どこから消火器なんて出しやがった」


 たぶん公衆トイレのやつだろうけど、よくまぁ見つけたな。

 消火器片手にこちらに爆走してくるランスロット。

 まったくと言っていいほど良い予感はしない。


 ヤツは俺の手前で大きく上に跳びはね、地上に向かって消火器を放り投げた。

 地面に叩きつけられた消火器は中に入っていた粉とも分からぬ白いガスを噴射。

 俺がいたスポットライトの下は白で一気に塗りつぶされた。


 見えない…息をするのも嫌になる異臭もそうだが、この視界はマズイ

 まったく見えない。

 一度ここから離れるか?


「グハッ!!」


 背後からの強烈な一発、その一撃は真剣なら胴を真っ二つにしていただろう衝撃だった。 そして聞こえたバイクの過ぎ去る音と共に地面をゴロゴロと転がり回る俺の体。 


「グ…ア…ァ」


 俺は四つん這いになりながらも気を失うのを必死に堪えるように立ち上がる。 


「ハァ…ハァ」


 消火器のガスを噴出する音でエンジン音も聞こえない。

 背骨の痛みで視界がぼやける。


 どうする?

 どうすれば?

 どうすればいい?


モ「用兵さん! 何をしているのですの! 早くわたくしをお使いなさい!」


 ブレスレッドから聞こえた甲高い声。

 俺は声の指示に従うように、声の主の名を叫んだ。


「Ⅹ番、モルドレッド!!」


 すると今まで芯から暑かった体が不思議と冷めていく。

 頭もどこかスッキリしてきた。


 俺は一度目を閉じた。

 そして閉じた目をゆっくりと開ける。


 目を開けた世界は白と赤が混合する世界。


 たとえ視界が白く見えなくとも、たとえ音が聞こえなくとも、俺の瞳には2つの赤い殺意が確かに見える。

 そしてその赤い点は円状となり俺のブレスレットに届く。

 俺はサッと剣を構える。

 徐々に赤みが増していく、そしてドス赤くなった時に俺は左から来た木刀を受け流した。


 通り過ぎるバイク音。

 俺はさらに瞳を凝視する


「次」左斜めからの横切り、狙いはブレスレット。 

「次」真後ろからの突き、狙いは同じくブレスレット。 


 白い世界で行なわれる攻撃の嵐、俺はその全てを避けていく。

 これなら凌ぎ切れる、俺は周りを見回す。

 すると急にさっきまであった赤い点が見えなくなっていた。 


モ「上ですわ!」

 

 !?


 真上を見ると、そこは山火事のような赤で埋め尽くされていた。

 色は最終警告である血のようなドス赤色、避けきれない。


「Ⅵ番、パーシバル!」


 そう言うと、またもや俺の体は勝手に起動、回避行動を始めた。

 持っていた剣を上空の赤い海に投げる。

 すると聞こえる「ガチ!」という金属音。


 音で距離、場所を測ったのか、俺の体はヤツの攻撃が当たる瞬間、少しだけ曲げていた膝をピンと張り、それだけの勢いでバク宙、そのまま白いガスの中から脱出した。

 そしておそらくバイクと当たったのであろう弾き出された剣をパシッ!と受け、緊張感なく剣で肩をポンポンと軽快に叩く。


パ「またのご指名うれしいわ、ご主人さま~♪」


 お前スゲーな!?

 まったく、頼りになるおねーさんだよ。


「今、決定した。 危なくなったらお前を頼ることにする」

パ「うふ。 それはありがと」



 にしてもこれからどうするか…。

 白いガスの中で身を潜めているであろうランスロット。

 ここから離れて暗闇に行くのは得策じゃない。

 やはりここで――


モ「用兵さん、パーシバルと同様に少しの間わたくしに体を貸してください」

「モルか、別にお前に体の優先権を譲らなくても能力は使えるんだから――」

モ「いい考えがあるのですわ。 このままではパーシバルだけが使えると思われかねません。 証明しろ、最強であることを……証明してみせますわ」


 ガスが抜け切るフシュ~という音。

 そして徐々にだが確実に晴れていく視界。

 俺の体を操るモルは黙ってスーと左腕を前に突き出し、ホラッ狙ってみろと言わんばかりにブレスレットを煙の中のランスロットに向かってチラつかせる。


「おいおい、モルドレッドさん何を?」

モ「シッ、話しかけないでください。 集中力が途切れますわ」


 煙に近づくモルドレッド。

 既に消火器からガスの出る音は無く、ホンダ製のカブのエンジン音だけが煙の中から外に漏れ響く。音に近づくほど鋭さを増す眼光、そして勝負の時が来た。


 ガスの煙の中から吹く神風と共に出てくるランスロット。

 馬のジャンプを思わせるウイリーから振り下ろされる一閃の木刀。

 その太刀筋は完全にブレスレットに狙いを定める。


 避けようがない、そうとしか思えない。


 その時、俺の体はモルドレッドによって思いもよらぬ行動をとった。

 木刀に向かってブレスレットを出したかと思いきあ少し、本当にほんの少し手首を回転、それによって木刀はブレスレットではなく腕に、骨を伝って俺の耳に届く気持ちがいいぐらい明瞭な「ポキッ」という擬音。

 モルは強く歯を食いしばって、右手の剣を敵に向ける。


モ「そこですわ!!」


 突き刺す剣はランスロットの乗っているバイクのエンジン部位を真下から串刺した。 モルは痛む左手に構わず右足を前へ強く踏み出す!

 愛機であるバイクを真下から突き上げられ自由を奪われたランスロット。

 最後の抗いにと言わんばかりに木刀を振り回す。

 しかし構わずモルは踏み出した足同様、ガソリンタンクを突き破っている剣をさらに押し出し叫ぶ。


モ「こぉーーーのぉーー!!」 

「ドガァ!!」


 モルドレッドは乗っていたランスロットごと20m先まで吹っ飛ばした。


モ「ぐぅ~」


 苦悶の表情で折られた左腕を押さえながら座り込む俺、いやモルドレッド。


「おい、大丈夫か?」

モ「すぐに…ライオネルで、ハァハァ、左腕を完治させてください」


 俺は言われるがまま、まず自分の優先権を自分自身に戻す。

 とたん、今までモルが請け負っていた左腕の痛みも俺へと移行。


「いたぁぁいぃぃーーーー!!」


 足をバタ足のようにバタバタさせる俺。

 逆にさっきまでの痛み苦しみがウソのようなモル。


モ「早く、ライオネルを。 時間をかけるとランスロットが来ますわよ」

「XⅠ番、ライオネル」


 俺はライオネルの憑依と共に出現したボロい人形を左腕の骨折場所に押し当てる。

 (マリア像の慈悲) 痛みが和らぎ、腫れも引き、徐々に左腕に感覚が蘇えってくる。


「こんなに痛かったのか、骨折って」

モ「だからわたくしに替わってくださいと言ったのですわよ」


 なんて無茶な…。

 俺は無謀にもほどがあるとさらに人形を腕に押し付ける。

 それを見越してか、モルは自分の正しさをブレスレットの中から立証してくる。


「腕1本、たった腕1本で、ランスロットの足である(バイク)を破壊。 支払った代償を考えればお釣りが帰ってきますわ。」


 そのたった腕1本の1本は、俺の体から支払われたのだが?

 まぁ、文句の1つでも言いたいが、確かにこれでヤツは能力が使えない。

 そしてこちらはバイクを追いかけ回す必要もなくなった。

 他の小人には出来なかったことをこいつは1人でやってのけた、今はモルの功績を称えよう。


 体を完治させた俺の前方、もう消火器の匂いも消え去った辺りに倒れる百合姫の体を操るランスロット。

 足の上に乗っている既にガラクタとかしたカブを、もう片方の足で蹴り飛ばす。

 しかし所詮は女の体、一回では退かせられないのか持ち上げようとしていた。 


「Ⅸ番、ベイリン」


 チェックメイトだ。

 そう思った時、俺の頭はキーンという耳鳴りと共に痛みを発した。


 代わる代わる小人を自分に憑依させ、能力を使った末路。

 俺の体は外見的には無傷だが、どうやら中身はボロボロのようだ。


 これ以上やったら命の危険がある、だからこそのこの痛み。

 でも…俺は歯をギリギリと噛み合わせ、自分の心臓を鷲掴む。


「やっとここまできたんだ、みんなで掴み取ったこのチャンス、こんなところで俺だけがギブアップなんか…出来るか! “ 聖槍体現 ”」


 するとバチバチと胸を掴んだ手から、音と雷のような光が発光し始めた。



ベイリンの【Longinus = 聖槍体現】。

 小人たちが唯一持ち合わせる、小人たち専用の最強の武器。

 その白い槍はキリストを殺した槍、それを自分の心臓から抜き出す。

 これがベイリンの本来の能力。




 酷い耳鳴りと頭痛の中、俺の右手は胸にズブズブと引き込まれる。

 そして心臓辺りで掴んだそれを一気に引き抜いた。


 雪がゆらゆらと舞い落ちる中、俺の手には雪よりも美しい、純白の槍が握られていた。 

 槍といっても、そう言われなければただのデカイ杭とも見える簡素さ。

 ただその色は月明かりと相まって神々しいぐらいに公園を照らしていた。


 少し見とれる俺に、ベイリンが怒鳴る。


ベイ「早くしろ!!ランスロットにも槍のことを気づかれた! 早くしないと逃げられるぞ!」

「分かってる!」


 雪の上にポタポタと落ちている数滴の血液に目をやる。

 これはベイリンで戦って、ヤツの甲を切った時の血。

 俺はその血に槍を突き刺す。

 すると槍はまるでゴクゴクと雪の上の血液を飲んでいるかのごとく、純白から血を連想させる朱色にその色を変化させた。


「準備完了! Ⅵ番、パーシバル!」


 くるりと槍を持つ手を、順手から逆手に持ち替える。


ベイ「よく狙えよ主殿、オレの槍は日に何回も使える品物じゃねぇ」


 ああ、1発で決めてやる。


 頭痛でぼやける視界、頭をブンブンと振り強制的に覚ます。

 そしてもう1つの能力発動。




パーシバルの【jump speed = 投げキッス】。

 自分の手から投げたあらゆる物のスピードをトップスピードから物に当たるまで一切減速させない。




「いくぜ、ランスロット。 狙うのはその指輪だ」


 事態の危険さが認識できているのだろう。

 ランスロットは一生懸命に足に乗ったバイクを退かそうとする。

 オレの目はヤツの指輪だけをジッと見据え、そして力いっぱい持っていた朱色の槍を放り投げる!

 たかだかヤツとの距離は20m、接触するまで1秒かからない。


ラ「うぁぁぁぁ!!」


 ランスロットは雄たけびを上げ、残った力を全てバイクが蹴り上げる。

 バイクはオレの投げた槍に接触。


「甘いぜ」 俺と小人たちの意見は合致する。

 その程度で止められる品物じゃない。


 深紅の槍はバイクと接触するやいなや、その杭のような形状から、まるで枝分かれする木のような形に姿を変えていく。

 1本の槍から無数の槍がトゲのように飛び出し、その全てがやつの指輪を狙う。

 鋭利な刃に触れたバイクは無残な金属音と共に一瞬で砕け散る。


 勝った。

 これでランスロットも消える。

 そう確信して俺はバタリとその場で力が抜けたように座り込んだ。

 まさにその時、小人全員の声が俺に向かって叫ばれた。


全「「まだだ! ご主人、構えろ!」」


 前方で粉々に砕け散り、宙を舞うバイクの破片。

 その中からヤツは…出てきやがった。


 俺へと爆走するヤツの左腕には俺が投げた槍が突き刺さり貫通している。

 だがスピードは一向に落ちない、いやむしろ上がっている。

 その瞳は執念のように俺を見据えていた。


 俺の間合いに入ってくるランスロット。


 やられる!

 避けるか!?

 パーシバルを!


ガラ「交代です我がマスター」

「XⅡ番、ガラハット」


 俺の体を操るガラハット、居合いが放たれる前にヤツに体当たりを繰り出した。

 体勢を崩すランスロット

 俺の体は大きく後ろに2歩、3歩下がり、戦況を立て直した。


ガラ「ふぅ~危のうございましたね。 我が実姉を甘く見ないほうがよろしいかと。 あの技を避けてたら、すぐ次がきて今頃…ふふふ。」

「ふふふって何!? まぁ何にしても助かった。 にしてもベイリン。あの槍は目標に当たるまで止まらないって言ってたよな! 何で指輪が無傷なんだよ?」


 声から伝わる申し訳ないと言わんばかりのベイリン。


ベイ「いちよう止まらないんだけどよ…基本アレ、対人用で人に当てる物だからな。 その目標となった人に当たれば…まっ、指輪に当たる前に…止まる…よな?」


 同意を求めてきても知らんがな!

 早く言えよ。毎回毎回、お前はよぉ!

 絶対このこと、ランスロットは知ってたな。

 なんで味方より敵のほうが、仲間の情報知ってんだよ!


 ランスロットは腕に刺さった槍を引き抜き、放り投げる。

 その表情に痛みは一切として感じさせない。

 そしてまた腰を低く保ち、居合いの構えをとった。


 左腕の穴からドボドボと流れ落ちる血量は甲のかすり傷からポタポタと落ちる血量とは比較にすらならない。


 何なんだよあいつは…退くこともなく、守ることもしない。

 これが騎士の生き様だと言わんばかりの鋭い瞳。


 スポットライトの下、俺はふらつく足で百合姫に乗り移ったランスロットに問いかける。


「お前…何でそこまでするんだ?」


 少しの沈黙。

 答える必要のない質問。

 しかしヤツは口を開く。


ラ「私は負けられない」


 まるで泣いているかのような声。

 発したのがランスロットなのか百合姫なのかは分からない。

 だが


「偶然だな、俺も絶対にお前にだけは負けられない!」


 この意思はもう揺るがない。

 と、かっこつけては言ったものの、俺の精神力は既に限界に近い。

 あと何回も小人たちを憑依できるとは思えない。

 というかもう足にきてる、勝負をかけるしか―


マ「ダンナ~!」


 俺の手詰まり状態を見ての、マーリンの合図。

 公園は完全な暗闇となった。


「Ⅹ番、モルドレッド」


 マーリンの指示のままに俺は暗闇になったのと同時にモルドレッドを憑依させた。

 そして俺の目に映るのはホタルのようの揺らめく2つの赤い点。

 ホタルは急な暗闇に焦り、キョロキョロと動き回る。

 時間は5秒

 俺は残りの精神力を両足に託し、ホタルの明かりを目指す。



5 ―ダンナ、停電は保険じゃ。 使わんならそれにこしたことはない。 じゃが、ワシが必要だと思ったら躊躇なく使う。合図をしたらすぐモルドレッドを使え、そして走れ。

4 ―停電で勝てるのか?あんな化け物に…。 なんか「心の目、これ心眼とする!」みたいなの使うんじゃねーのか?

3 ―グッヘッヘ、確かにやつなら出来そうで恐いのぉ~。じゃが、ワシの考えじゃとやつは目を瞑らん。 絶対にトリスタンのチャームにかかる。

トリスタンの【Charm = 魅了の泣き黒子】。

 トリスタンの左目の下にある泣き黒子。 これを見たメスは全て例外なく魅了にかかり、力を100%発揮できなくなる。 だが確かにダンナの言うことにも一理ある。 前回の公園でやられた時には、やつはトリスタンの胴から上を一切見ずに足の動きだけ見て、行動を予測し戦っとったからの~。 まったくもって、きしょくの悪いやつじゃ。 だからの~ダンナ、今回の戦いではトリスタンは使うな。やつがトリスタンという存在を忘れたころ、目を開けているのが当たり前になった時、ワシは合図を出す。

2 ―すさまじい作戦だな。 外灯が光を取り戻した時、冷静に目を閉じていたらヤツの勝ち。焦って目を開けていたら俺の勝ち。 伸るか反るかの作戦。いや、それぐらいでないと作戦とは呼ばないんだっけ? …ハァ~のってやるよ、その作戦。それが俺の選択だ。

1 ―ワシの主よ、いい心意気じゃ。 その心意気に賞賛を与えるため、気休め程度じゃがいい事を教えとこう。 ワシがなぜ魔法使いなどと呼ばれておるか…それはワシが魔法を使えるからではなく、魔法でしか起こせん事象を魔法なしで起こせるからじゃ。 ワシはこの勝負で負けたことがただの一度も無い。安心せい、やつは目を “開け ”とるよ。

0 ―もう手の届く位置まで来た赤い点。 俺は脳みそに起こる震度10レベルの激痛を耐えながら、最後の力を振り絞る。 


「Ⅲ番、トリスタン」


 光を取り戻した公園。

 俺の目に映るのは……ランスロットが憑依している百合姫の瞳。


 交わされる互いの視線。


 二人はほぼ同時に剣を振るう。

 匠のレベルまで昇華されたランスロットの居合い。

 やはりトリスタンを憑依させた俺の剣速よりも速い。

 だが俺へとその剣が到達しようとしたまさにその時、ヤツの剣は金縛りにあったかのようにその動きを停止させた。


「クッ!」


 俺は構わずヤツの持つ木刀を勢いよく切り上げる。「バキッ!」剣で真っ二つに割れた木刀は宙を舞い、そしてドボンと噴水の中にその身を落とした。


 やつが目にした俺の瞳。

 その下には泣き黒子がクッキリと浮き上がっていたのだった。


「12人の小人、その選択の数だけ俺の選択肢は増える。 1人じゃ、お前には勝てないかもしれない。でも俺には12人の仲間がいる。 お前の負けだ、ランスロット」


 剣を突きつけ勝利を宣言する。

 ヤツはその剣をジッと見つめ、ゆっくりと両目を閉じた。


ラ「どうやらそのようですね。 ………申し訳ありません。主様」



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