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白い雨のあと、僕らは旅に出た ――終末世界のキャンピングカー――  作者: 孔雀丸


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第9章 廃遊園地の観覧車

こんにちは。

『白い雨のあと、僕らは旅に出た』、第9章をお届けします。


前章のラスト、ユウトはミナに問いかけました。

「ミナ、本当のことを話してくれない?」

その答えが、今回の舞台になります。


訪れるのは、十年間誰も乗せていない観覧車がそびえる廃遊園地。

壊れた世界の中でも、ここは少しだけ時間の止まり方が違う場所です。


今回は、ミナがずっと胸の奥にしまっていたものが、ゆっくり開いていく回です。

大きな事件は起こりません。

けれど、この旅で一番静かで、一番大切な会話があります。


ハチのささやかな活躍と、リクとアオイの相変わらずの掛け合いも、ぜひ見守ってやってください。


それでは、錆びた観覧車の上でお会いしましょう。

どうぞ、ごゆっくりお楽しみください。

 研究施設を出てから、誰も口を開かなかった。

 エンジンの音だけが車内に響いていた。ミナはハンドルを握ったまま、いつもより口数が少なかった。俺は助手席で、聞くべきかどうかを何度も考えて、結局何も聞かなかった。

「ミナ、本当のことを話してくれない?」

 そう言った俺の声は、まだ車内のどこかに残っている気がした。ミナは答えなかった。答える代わりに、アクセルを少しだけ強く踏んだ。

 空は白から薄い灰色へ戻りつつあった。あの独特の、金属と古い消毒液が混ざったような匂いも、今は薄い。だが車内の空気だけは、まだ白いままだった。

 後部座席では、リクが工具箱の中を意味もなく整理していた。アオイは救急バッグの中身を数え直していた。誰も口を挟まなかった。ハチだけが、俺とミナの間の空気を確かめるように、二度ほど鼻を鳴らした。

 数時間走った先に、それは唐突に現れた。

 色褪せた入場ゲート。かつては赤と黄色だったはずのアーチが、今は雨風に晒されて灰色に近い色をしている。蔦に覆われたチケット売り場の窓口には、割れたガラスの向こうに古い料金表がまだ貼られていた。

「遊園地」

 リクが呟いた。誰に言うでもなく。

 駐車場には家族連れの車が何台も残っていた。窓の奥に、小さなチャイルドシートが見える。日除けが半分だけ垂れ下がったまま、十年間そこにあった。タイヤはとうに潰れ、車体には蔦が根を張っていた。まるで森が、動かない車を少しずつ自分のものにしていくように。

 草に埋もれたベビーカーが一台、入口の脇に転がっていた。ハンドル部分だけが、今も陽の光を反射している。

「本日の営業時間 9:00〜17:00」

 色褪せた看板がまだそこにあった。もう誰も、その時間を守る必要はない。

 遠くに、錆びついた観覧車がそびえていた。ゴンドラのいくつかは傾き、鉄骨には赤茶けた錆が這っている。それでも十年間、倒れることなくそこに立ち続けていた。風が吹くたびに、どこかで金属が細く鳴った。

「今夜はここで休む」

 俺はそう言った。誰も反対しなかった。ハチだけが、車が停まる前から窓の外を見つめていた。鼻をひくつかせるでもなく、ただじっと。何かを確かめるような、静かな目だった。

 ***

 園内は静かだった。静かすぎた。

 売店のシャッターは半分開いたまま錆びついていて、中には賞味期限の切れた菓子の袋が散らばっていた。案内所の壁には、色褪せた園内マップが貼られている。

「水、まだ残ってるかも」

 アオイが売店の奥を覗きながら言った。リクが携帯ライトで中を照らす。

「保存水のペットボトルが数本。あとは……使えないな、これ」

「使えないものを長々確認しなくていいです」とアオイが即座に言った。

「今、確認の途中だったんだけど」

「途中でも埃を吸うのはよくないので、早めに」

 リクは肩をすくめて、ボトルだけをリュックに突っ込んだ。棚の奥には、開けられないままの菓子箱が積まれていた。誰かが買うはずだった、誰かのための箱。

 俺たちは五人と一匹で、なるべく離れずに歩いた。土産物店には、色褪せたぬいぐるみが棚に並んだままだった。埃をかぶったキャラクターたちが、誰も来ない店の中で笑っている。

 ミナが立ち止まったのは、案内所の前だった。床に落ちていた古いパンフレットを拾い上げる。

 表紙には、青い海の写真が印刷されていた。「夏の家族旅行フェア」という文字と一緒に。

 ミナはそれをしばらく見つめていた。それから、いつものようにカメラを構えた。だがシャッターは切らなかった。カメラを下ろし、パンフレットを丁寧に元の場所へ戻した。

「行こっか」

 声は普段より少し軽くて、少しだけ遅かった。

 売店を出てすぐ、子供用の身長計があった。壁に貼られたキリンの絵。百二十センチ、百三十センチ、と目盛りが並んでいる。ミナはその前で、一瞬だけ足を止めた。それから何も言わずに歩き出した。

 掲示板には、色褪せた写真が何枚も貼られていた。園内で撮られたらしい家族写真。ミナはそれを正面から見なかった。視線を逸らすように、カメラのストラップを指でいじっていた。

 いつもの笑い方と、少し違った。

 俺はそれに気づいたが、何も言わなかった。ハチが、落ちていた子供用の帽子の匂いを嗅いでから、ミナの足元に寄って歩き出した。誰に命じられたわけでもないのに。

 ***

 メリーゴーラウンドの前で休憩することにした。

 電源は入っていない。それでも風が天幕を揺らすたびに、緩んだ木馬の一頭が、わずかに上下しているように見えた。音楽は鳴らない。金属が軋む音と、鎖が触れ合う音だけがした。

 アオイが荷物を下ろし、簡易コンロで湯を沸かし始めた。リクは制御盤のカバーを開けて、中を覗き込んでいた。

「非常用のバッテリーが生きてる。……けど、これ動かす気はねえよ。こんなの下手に動かしたら床ごと落ちる」

「動かさなくていいです」

 アオイが腐食した床板を指さした。「そこ、踏まないでください。抜けます」

「分かってるって」

「分かってる人は、今その板の上に片足乗せません」

 リクが慌てて足を引いた。ミナが小さく笑った。声はいつもより少しだけ短かった。

「つーか、なんでお前いつも先に気づくんだよ」

 リクが工具を仕舞いながら、少しむっとした顔で言った。

「あなたが気づかなすぎるんです」

「俺は機械のことは誰より先に気づく」

「機械のことは、ですよね」アオイは腕を組んだ。「自分の足元は別、ってことでいいですか」

「……いいわけねえだろ、それ」

 リクが口を尖らせて座り込んだ。アオイはそれ以上追及せず、代わりに救急バッグから軟膏を取り出し、リクの手の甲の擦り傷にそっと塗った。リクは一瞬だけ驚いた顔をしたが、何も言わずに手を差し出したままでいた。

「……別に、大した傷じゃないんだけど」

「大した傷かどうかは、私が判断します」

「それ、さっきも聞いた」

「二回言うのは、あなたが一回で覚えないからです」

 湯が沸く音が、木馬の軋みに混じった。アオイが淹れた白湯を、順番に配っていく。ハチは真っ先に受け皿の水を飲み干して、満足そうに伏せた。

 俺は水筒をミナに渡した。ミナは礼を言って受け取ったが、すぐには飲まなかった。

 ハチが一度、ミナの足元まで歩いてきて、そのまま座り込んだ。ミナはハチの頭に手を置いたが、視線は遠くの観覧車を見ていた。

 誰も、その視線の理由を聞かなかった。

 ***

 夕方になった。

 空は灰色のままだったが、西の端だけが淡い橙色に染まり始めていた。ミナが立ち上がって、観覧車の方へ歩き出した。

 誰にも告げずに。だが、隠れるでもなく、俺たちの視界の中を歩いていった。

 アオイとリクは止めなかった。代わりに、俺の方を見た。

「先、行ってきます」

 リクが観覧車の方を指した。「地上のゴンドラなら、非常用の手動レバーで数メートルは上げられる。もう確認済みだ。完全に一周とかは無理だぞ」

「無理はしないでください」とアオイが釘を刺した。

「してねえよ、今回は」

 俺は頷いて、ミナの後を追った。

 足元には、色褪せた入場券が散らばっていた。撮影スポットらしい看板には、家族らしき人影のイラストが描かれたまま残っている。

 観覧車のゴンドラの扉は、いくつか錆びついて開かなくなっていた。その一つの座席に、子供用の帽子が置き去りになっていた。

 ミナはそれを拾い上げ、埃を払ってから、また座席の上に戻した。持ち去らなかった。

 俺たちは並んで歩いた。会話はなかった。夕日を受けて、俺たちの影が長く伸びていた。

 観覧車は、十年前から同じ場所に立ち続けていた。誰も乗せず、誰も降ろさず、ただ空だけを背負って。

 ***

 地上近くのゴンドラに、二人で乗った。

 リクが手動レバーを回すと、ゴンドラはゆっくりと数メートルだけ上がって、きしんだ音を立てて止まった。園内が少しだけ見渡せる高さだった。

 古いカメラケースが、座席の隅に転がっていた。俺とミナの間に、それがある。

 しばらく、どちらも何も言わなかった。風が観覧車の鉄骨を鳴らしていた。錆びた継ぎ目が軋むたび、ゴンドラがわずかに揺れた。下では、リクとアオイが荷物をまとめる音が小さく聞こえていた。ハチの気配は、地上のどこかにじっと留まっていた。

「あの施設で、何を見た」

 俺はそれだけ聞いた。ミナは窓の外を見たまま、しばらく黙っていた。風が一度、強く吹いて、ゴンドラが小さく傾いた。それでもミナは口を開かなかった。

「……昔ね、うちの父さん、旅行が好きだった」

 ぽつりと、そう言った。

「古い旅行雑誌、よく広げてた。青い海の写真、私に見せてくれてさ。母さんは横で、カメラ構えて『今度は自分たちで撮ろうね』って」

 ミナはカメラのストラップを指に絡めていた。

「私、旅行の日をずっと楽しみにしてた。カレンダーに丸つけて。玄関に小さい鞄も用意してあった」

 そこで、少し言葉が途切れた。

「その日の朝、白い雨が降った」

 ミナは笑おうとしたようだった。だが声がうまく出なかった。

「逃げてる途中で、はぐれた。振り返った時には、もういなかった。声だけ、白い雨の向こうから聞こえた気がしたけど……分かんない。今も分かんない」

 窓の外を、風が吹き抜けていった。

「生きてるとも、死んでるとも、分かんないの。だから、約束だけがずっと残ってる」

 俺は何も言わなかった。何を言えばいいのか、分からなかった。

 分かる、とは言えなかった。分かったふりで頷くことが、一番残酷な気がした。俺の記憶も、あの日のどこかで途切れたままだ。父の声、母の手、妹の泣き声。順番も、最後に何を言われたのかも、もう思い出せない。誰かが意図的に切り取ったみたいに、そこから先だけが白く塗り潰されている。

 分からないまま十年を歩いてきたのは、俺も同じだった。だから、分かる、とは言わなかった。ただ、隣に座っていた。

 指先が、無意識に左手首のミサンガに触れて、そのまま止まった。腕時計の針は、今日も十年前と同じ時刻を指している。

「青い海を見つければ、あの約束、なかったことにならない気がして」

 ミナの目から、涙が一筋落ちた。本人はそれに気づいていないようだった。拭おうともせず、ただ窓の外を見ていた。

 地上から、ハチの声が一度だけ聞こえた。短く、けれどはっきりと。まるで、ここにいるぞ、と伝えるみたいに。

 ミナが小さく息をついた。

 ***

「笑ってれば、大丈夫だと思ってた」

 しばらくして、ミナがそう言った。

「違う。止まったら、あの日のことしか考えられなくなる気がして。暗い顔してたら、世界まで本当に終わった気がして……だから、先に笑うようにしてた。先に歩くようにしてた。先にエンジンかけるようにしてた」

「『まだ終わってない』って、いつも言ってるだろ」

「あれ、みんなに言ってるようで……たぶん、自分に言い聞かせてる」

 ミナは水筒を両手で握りしめていた。手の甲に、夕日の色がうっすらと乗っていた。

 俺は少し考えてから、言った。

「それでも、ここまで来たんだな」

 短い言葉だった。それ以上、うまい言葉は出てこなかった。

 ミナが顔を上げた。目が赤かった。

「……うん」

 俺はハンカチ代わりの布を渡した。ミナはそれを受け取って、ようやく涙を拭った。しばらく、鼻をすする音だけがゴンドラの中に響いていた。

 しばらくして、ミナがカメラを俺に向けた。ファインダー越しに、俺を見ていた。

 だがシャッターは切らなかった。カメラを下ろして、小さく笑った。

「今はまだ、撮れない」

 俺は何も言わなかった。無理に撮らせるつもりもなかった。

 代わりにミナは、隣の空いた座席と、伸びた俺たちの影にレンズを向けた。シャッター音が一度だけ響いた。

「集合写真、いつか撮る。……全員で」

「ああ」

 それだけ言った。

 ***

 日が傾いていく中、リクの信号でゴンドラが地上へ戻された。

 ***

 地上に降りると、アオイが簡易コンロで湯を沸かし直していた。リクはメリーゴーラウンドの制御盤にもう一度手を伸ばしかけて、アオイに即座に止められていた。

「触らないでください。さっき言いました」

「触ってねえよ、見てるだけだ」

「見てるだけの人は、指がスイッチの上に乗りません」

 リクは黙って手を引っ込めた。

 夕食は、いつもの缶詰と乾パンだった。缶詰のフタに手をかけたリクが、開ける前から「またか」と言いかけて、アオイに先を越された。

「今日は豆じゃないです」

「え、噓」

「噓じゃないです。魚です。豆は明日」

「……なんで俺の言うこと先回りすんだよ」

「毎回同じ顔をするからです」

 ミナが小さく笑った。声が、少しだけ元の調子に戻っていた。目はまだ赤かったが、笑い方はいつも通りだった。

「ミナさん」アオイが水筒を差し出しながら言った。「無理に笑わなくていいですよ」

「……分かってる。でも、今は笑いたいから笑ってるの」

 アオイはそれ以上聞かず、ただ頷いた。

 ハチが五人の真ん中に体を割り込ませるように座り、順番に匂いを確かめてから、結局ミナの足元で丸くなった。リクが缶詰の中身を少しだけ分け与える。

「やりすぎるな。腹壊す」

 そう言いながらも、リクの手はもう一度、ハチの器に伸びていた。

 簡易ランタンの明かりが、五人の顔を橙色に染めていた。誰も、今日あったことを言葉にしなかった。それでいい気がした。言わなくても、伝わっているものがあった。

 食べ終えたアオイが皿を重ねながら立ち上がった。

「展望台、行きますか。まだ明るいうちに」

 俺は頷いて、リュックを担ぎ直した。

 ***

 俺たちは管理棟の展望台に上がって、遠くを見た。

 森に沈んだ住宅地。崩れた高架道路。草に覆われた幹線道路。その先に、灰色の地平線が続いていた。

 さらにその向こうに、細く光る帯のようなものが見えた。海かどうかは、まだ分からなかった。

「海、見えるかな」

 ミナが呟いた。

 俺はリュックから古い道路地図を出して、方位磁石と照らし合わせた。旧国道と県道の線を指でなぞる。橋がいくつかある。市街地も通る。安全かどうかは、行ってみなければ分からない。

「あっちだ」

 俺は方角を指さした。

 海があるとは言わなかった。青いとも言わなかった。ただ、次に進むべき方向がそこにある、それだけを示した。

 ミナは何も言わず、俺の指の先を見ていた。目はもう赤くなかった。代わりに、いつもの強さとは少し違う、静かな光があった。

 リクが背後で工具箱を担ぎ直しながら言った。「明日、燃料の残りと相談して決めるぞ。橋、もつかどうか分かんねえし」

「もちますよ、きっと」とアオイが言った。「もたなかったら、リクが直します」

「なんで俺が前提なんだよ」

「あなたが直せなかったもの、今まで見たことないので」

 リクは何か言い返そうとして、結局何も言わずに顔を背けた。耳の先が少し赤かった。

 観覧車が、また一つ軋んだ音を立てた。夕日が、灰色の地平線の向こうへゆっくりと沈んでいく。

 ハチが俺たちの足元に来て、遠くの光を見るように、じっと座っていた。

 その耳が一度だけ、ぴくりと動いた。何かを聞き取ったのか、それとも何でもなかったのか。誰も確かめなかった。

 ただ、そこに五人と一匹がいた。それだけで、今日という日は十分だった。

 明日、あの光の先へ向かう。それが何であるかは、まだ誰も知らない。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。

第9章「廃遊園地の観覧車」、いかがでしたでしょうか。


この章は、物語全体の中でも、私が一番丁寧に書きたいと思っていた場面です。

派手な戦いも、驚きの展開もありません。

それでも、ミナという少女の「明るさの正体」を書くなら、ここしかないと決めていました。


まず、ミナについて。

彼女は最初から「青い海を探している」と言って、笑って旅を引っ張ってきました。

でもあの笑顔は、強さというより、止まったら崩れてしまうから笑っていたのだと思います。

「先に笑う。先に歩く。先にエンジンをかける」

あの台詞は、彼女が毎日、自分を前へ押し出してきた方法そのものです。


「まだ終わってない」という口癖が、実はみんなではなく自分に向けた言葉だった。

そう気づいたとき、読み返したくなる場面が、きっと序盤にいくつかあるはずです。

もしよければ、第2章あたりをもう一度のぞいてみてください。

同じ台詞でも、少し違った響きに聞こえるかもしれません。


次に、ユウトについて。

今回の彼は、ほとんど何も言いません。

「分かる」とも言わず、励ましもせず、ただ隣に座っていました。

気の利いた言葉は出てこなかったけれど、あの沈黙には彼なりの誠実さがあったと思っています。

分かったふりをしないことが、あの場でできる一番やさしいことだった。

そんな不器用さを、これからも大切に書いていきたいです。


それから、ハチ。

ゴンドラの上で聞こえた、たった一度の鳴き声。

言葉の通じない相手が「ここにいるぞ」と伝えてくれることの心強さを、あの一声に込めました。

終末世界に残った、小さな日常の温もりとして、ハチはこれからも仲間たちのそばにいます。


重い話のあとには、リクとアオイの軽口と、缶詰の夕食を置きました。

「今日は豆じゃないです」

こんな何気ないやりとりが、旅の中ではいちばん安心できる時間だったりします。

暗い場面ばかりでは息が詰まってしまうので、車内のあたたかさも、変わらず大事にしています。


そして今回、ミナはまだカメラを向けられないままでした。

ユウトにレンズを向けて、それでもシャッターは切れなくて、代わりに空いた座席と二人の影を撮りました。

「集合写真、いつか撮る。……全員で」

この約束がいつ果たされるのか。

ぜひ、最後まで見届けていただけたら嬉しいです。


物語は、いよいよ終盤へ入っていきます。

展望台からユウトが指さした方角の先には、細く光る帯のようなものがありました。

あれが何なのかは、まだ誰にも分かりません。

けれど、旅の目的地はもう、手の届くところまで近づいています。


次回、第10章「灰色の海」。


ついに、彼らは海に辿り着きます。

ずっと探してきた「青い海」。

その目に、何が映るのか。

そして、ユウトとミナは、そこで何を選ぶのか。

物語は一つの大きな山場を迎えます。


準備ができたら、どうぞ一緒に、もう少しだけ旅を続けてください。


最後になりましたが、ブックマーク、評価、感想、いいねを送ってくださった皆さま、本当にありがとうございます。

更新のたびに反応をいただけることが、何よりの励みになっています。

誤字脱字のご指摘も、いつも助かっています。


それでは、また次の章でお会いしましょう。

エンジン音と、犬の鳴き声と、少女の笑い声を乗せて、旅はまだ続きます。

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