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忠犬むぎは、夜に鳴く  作者: 優木凛々
第1章 新たな隣人

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7/28

頭痛

 

 心配した悠斗が駅まで送ってくれることになり、莉子は彼と一緒にヨロヨロと駅へ向かった。


 途中で悠斗が駅前の売店で水を買ってくれる。



「はい、これ」

「……ありがとう」



 莉子はありがたく受け取ると、こめかみに当てた。

 冷たさのお陰で痛みが紛れる気がする。


 悠斗はよほど心配だったらしく駅のホームまで送ってくれた。

 ベンチに莉子を座らせ、電車が来ると、入り口まで送ってくれる。



「気を付けて、無理しないで」

「ありがとう」



 莉子は痛みをこらえて手を振ると、座席に座ってため息をついた。

 こんなに頭が痛くなるのは久しぶりだ。



(やっぱり昨日濡れたからかな……)



 そして、最寄り駅で何とか降りると、ヨロヨロと家に向かって歩き始めた。

 家に帰ったらすぐに薬を飲もう、などと考える。


 そして、ようやく自宅が見えるところまで来ると、



「莉子ちゃーん!」



 後ろから子どもの声が聞こえてきた。

 パタパタと足音がして、ピンクのランドセルを背負った笑顔の結月が横に並ぶ。

 そして、親しげに莉子の顔を見上げて、目を見開いた。



「莉子ちゃん、青いよ!」

「……うん。ちょっと頭が痛くて……たぶん風邪だと思うんだけど……」

「大丈夫……?」

「うん、大丈夫」



 莉子は何とか微笑むと、よろよろ歩き始めた。

 横を歩きながら、結月が何度も心配そうに莉子を見上げてくる。

 心配させるのも悪いと思うのだが、頭が痛すぎて余裕がない。


 そして、ようやく家の前に到着すると、莉子は「じゃあ、私寝るね」と言って家に入った。

 靴を脱ぎ捨てると、よろよろとリビングに向かう。


 そして、痛み止めを水で飲むと、はあ、とため息をついてソファに倒れ込んだ。



(これで何とかなるかな……)



 そして、とりあえず寝ようと2階へ向かおうとした――その時。



 ピンポーン



 玄関のチャイムの音が鳴った。続けて、



 ……コホン、コホン



 外から子どもの咳のような声が聞こえてくる。

 玄関ののぞき穴からそっと覗くと、外に小さな結月が立っていた。



(なんだろう……?)



 莉子が痛みをこらえながらドアを開けた。

 結月が、ホッとしたような笑顔になると、莉子を心配そうに見上げる。



「莉子ちゃん、大丈夫?」

「うん。……どうしたの?」

「これあげる」



 そう言って差し出されたのは、冷たい氷枕とペットボトルのポカリスエットだった。



「これね、風邪の時に使うといいんだよ」



 莉子の心の中が温かくなった。

 発熱ではないので、2つともちょっと違うが、わざわざ持ってきてくれた気持ちが嬉しい。


 莉子はそれらを丁寧に受け取ると、微笑んだ。



「ありがとうね。助かるよ」

「ううん。お大事にね」



 結月は照れたように微笑むと、隣の家へと戻っていく。


 莉子はその後ろ姿を見送ると、ドアをゆっくり閉めた。

 そして、温かい気持ちで2階へと上がると、カーテンを閉めてベッドに入った。

 天井を見つめる。



(……嬉しかったな)



 昨日は少し驚いたけど、優しい子なんだな、と思いながら目を閉じる。



 夕方になり、母親が帰宅した。

 莉子が風邪で頭痛のため寝ていると知り、慌ててお粥を買ってきてくれた。


 莉子は寝ぼけ眼でそれを食べた後、再び眠りにつく。





 ――そして、翌日の朝。


 カーテンから漏れる日の光で莉子は目を覚ました。

 起き上がると、頭痛はすっかり収まっている。



(よく寝たな……)



 彼女は大きく伸びをした。

 今日は何も予定がない土曜日だったことを思い出す。


 そして、今日はのんびりしようと思いながら部屋のカーテンを開けて――



「……っ!」



 彼女は思わずびくりと肩を震わせた。

 正面、莉子の部屋の向かいにある結月の家の窓に、何かがいた。

 ジッとこちらを見ている。



(な、なにあれ)



 それが一体何かを見極めようと凝視して――莉子は、ほうっと息をついた。



(なんだ……ぬいぐるみか……)



 隣の家の窓辺には、犬のぬいぐるみ“むぎ”が置かれていた。

 その瞳は、まっすぐ莉子の部屋を向いており、まるでこちらを見つめているかのようだ。



(……あんまり気持ちが良くないな……)



 なぜあんな場所に置いてあるのだろうかと思いながら、莉子は部屋を出た。

 シャワーを浴びると簡単に朝食をとる。



 そして、結月に借りたアイスノンと、ポカリスエット2本を持って隣の家へ向かった。


 外に出てちらりと隣の家を見上げると、2階の窓にむぎがいるのが見えた。

 まっすぐ自分の部屋を見つめるその姿に、どこか薄気味悪いものを感じる。


 そして、隣の家のチャイムを鳴らすと、ラフな格好をした直樹が出てきた。

 不思議そうな顔をする。



「莉子ちゃん、どうかしたの?」

「昨日、体調を崩したら、結月ちゃんがこれを持ってきてくれたんです」



 そう言ってアイスノンとペットボトルを差し出すと、ぺこりと頭を下げた。



「ありがとうございました、助かりました」

「そうですか。結月がそんなことを」



 直樹が嬉しそうな顔をした。

 廊下の向こうに向かって「結月!」と呼ぶと、奥から結月が出てくる。

 莉子の姿を見て、パッと顔を輝かせた。



「莉子ちゃん! 風邪なおったの?」

「うん、お陰様で。ありがとう」



 そして、莉子は2階を指さした。



「なんか、むぎちゃんが窓のところにいたんだけど、あれって結月ちゃんが置いたの?」

「うん」



 結月は嬉しそうに頷いた。



「むぎがね、莉子ちゃんのことが心配で、見ててあげるって言うから、あそこに置いたの」

「……そうなんだ」



 莉子は内心苦笑した。

 善意でやってくれたようだが、あまり気持ちよくはないなと思う。

 とりあえずあそこに置いて置くのは止めてもらおうと思いながら、莉子は口を開いた。



「あそこに置くの、やめたほうがいいんじゃないかな。日当たりいいから、むぎ、焼けちゃうよ」

「え、そうなの?」



 結月が驚いたように言った。



「わたし、あそこに置くのやめる」

「うん。そのほうがいいと思うよ」



 莉子はホッとしながら、手を振って外に出た。


 自宅の部屋に戻って窓の外を見ると、すでにむぎはいなくなっている。



(……さっそくどけてくれたんだ)



 莉子は安堵しながらベッドに寝転がった。


 スマホをチェックすると、悠斗とれい奈からLINEが来ているのを見つける。


 悠斗からは、普通に体調気遣うものだったが、

 れい奈の方には、「これを見ると頭痛が治る」という妙なお札の画像が貼り付けられていた。


 ぐねぐねとした図形が書いてある、不気味なお札だ。



(うわあ……)



 莉子は思わず苦笑した。

 お札を見て頭痛が直るわけないじゃん、と思う。



(でも、気持ちがありがたいよね)



 莉子は2人にそれぞれ「ありがとう」とメッセージを送ると、

 少し昼寝をしようと、目を閉じた。





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