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忠犬むぎは、夜に鳴く  作者: 優木凛々
第1章 新たな隣人

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6/28

降霊術

 

 停電があった翌日の朝。

 莉子が目を覚ますと、微かにこめかみがズキズキした。



「……風邪かな」



 昨日雨に濡れたのが良くなかったのかもしれない。

 そんなことを思いながら、莉子は身支度を済ませた。

 朝食を食べ終えると、家を出る。


 歩きながら隣の家を見ると、カーテンは固く閉じられていた。

 人の気配はない。


 莉子は小さくため息をついた。



(昨日は、驚いたな……)



 莉子自身は、ぬいぐるみが動くとか、人形に霊が宿るとか、そういう話を信じる性格ではない。

 でも、ランプの光が揺れる薄暗い部屋でそんな話を聞いたせいか、まるで本当に命が宿っているように見えてしまった。



(ちょっと気持ち悪かったな……)



 微かに痛むこめかみを押さえながら、莉子は大学へ向かった。

 午前中の授業を終え、昼食をどうしようかと考えていると、スマホが震えた。

 見ると、れい奈からメッセージが来ていた。



『お昼学食で食べよ。悠斗も一緒』



 莉子は『了解』と返信をすると、「頭痛が痛い……」とぼやきながら学食に向かった。

 ハンバーグランチを受け取り、いつもの席で待っていると、お盆を持った2人がやってきた。

 今日のれい奈は、リアルな白い骨が大きく描かれた黒いTシャツを着ている。


 莉子が思わず噴き出した。



「よく見つけてくるね、そういうの」

「これはAmazon」



 れい奈が得意そうに言い、横で悠斗が「教授も驚いていた」と苦笑する。


 食事をしながら、れい奈が口を開いた。



「そういえば昨日、このへん停電だったらしいね」

「ああ、うちも1時間くらい電気がつかなかった」



 大学近くのアパートに住んでいる悠斗が言う。


「うちも」と言いながら、莉子は昨日のことを思い出した。

 少し迷ったものの、2人がどう思うか聞いてみたいと思って、口を開く。



「実は……停電中にちょっと怖いことがあって」

「え、なになに?」

「隣に住んでる小学生の女の子を、しばらくうちで預かったんだけど、白い犬のぬいぐるみが実はしゃべれるとか言い出してさ」



 結月が“インターネットで調べて飼っていた犬の魂をぬいぐるみに移した”、と言っていた話をする。



「……っ!」



 れい奈が目を輝かせて身を乗り出した。



「それって、降霊術ってことだよね!?」

「コウレイジュツ?」

「霊を呼び寄せるやつ。え、すごい、その子! お友だちになりたい!」



 盛り上がるれい奈に、悠斗が苦笑した。



「それ、たぶんイマジナリーフレンドだと思うぞ」



 莉子が首をかしげた。



「イマジナリーフレンドって、人間じゃないの?」

「この前授業でやったけど、動物もありえるらしいよ」

「そうなんだ……」



 莉子は「なるほど」と思った。

 きっと、むぎはイマジナリーフレンドだ。



(そりゃそうだよね、魂をぬいぐるみに入れるとかありえないし)



 しかし、れい奈は首を振った。



「いや、そうとは限らない。動物霊とか低級霊とか、そういう可能性もある。降霊術ってそういう物を呼びやすい」

「れい奈は、降霊術やったことあるの?」



 悠斗が聞くと、れい奈が真面目な顔でうなずいた。



「うん、ある」

「成功した?」

「……しなかった」

「じゃあ、ないじゃん」

「あるよ! 私が失敗しただけで、現実にはありえる!」



 言い合う2人に、莉子は痛むこめかみを押さえながら笑った。

 とりあえず、イマジナリーフレンドで間違いないなと思う。


 れい奈が、わくわくした顔で莉子に尋ねた。



「そのぬいぐるみってどんな感じだったの?」

「手入れされてる感じかな。昨日は停電のせいか生きてるみたいに見えた」

「え! 見たい! 莉子の家に遊びに行く!」

「絶対ダメ!」




 ――昼食の時間が終わると、3人はそれぞれ午後の授業に向かった。


 莉子の頭はますます痛くなり、授業が終わる頃にはガンガンしてくる。



「これはヤバい……今日は帰ろう」



 莉子が立ち上がると、フラフラと教室を出た。

 キャンパス内を歩いていると、正面から悠斗がやってきた。

 莉子の顔を見て、目を丸くする。



「大丈夫? すごい顔色だよ」

「ちょっと頭が痛くて……」





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