降霊術
停電があった翌日の朝。
莉子が目を覚ますと、微かにこめかみがズキズキした。
「……風邪かな」
昨日雨に濡れたのが良くなかったのかもしれない。
そんなことを思いながら、莉子は身支度を済ませた。
朝食を食べ終えると、家を出る。
歩きながら隣の家を見ると、カーテンは固く閉じられていた。
人の気配はない。
莉子は小さくため息をついた。
(昨日は、驚いたな……)
莉子自身は、ぬいぐるみが動くとか、人形に霊が宿るとか、そういう話を信じる性格ではない。
でも、ランプの光が揺れる薄暗い部屋でそんな話を聞いたせいか、まるで本当に命が宿っているように見えてしまった。
(ちょっと気持ち悪かったな……)
微かに痛むこめかみを押さえながら、莉子は大学へ向かった。
午前中の授業を終え、昼食をどうしようかと考えていると、スマホが震えた。
見ると、れい奈からメッセージが来ていた。
『お昼学食で食べよ。悠斗も一緒』
莉子は『了解』と返信をすると、「頭痛が痛い……」とぼやきながら学食に向かった。
ハンバーグランチを受け取り、いつもの席で待っていると、お盆を持った2人がやってきた。
今日のれい奈は、リアルな白い骨が大きく描かれた黒いTシャツを着ている。
莉子が思わず噴き出した。
「よく見つけてくるね、そういうの」
「これはAmazon」
れい奈が得意そうに言い、横で悠斗が「教授も驚いていた」と苦笑する。
食事をしながら、れい奈が口を開いた。
「そういえば昨日、このへん停電だったらしいね」
「ああ、うちも1時間くらい電気がつかなかった」
大学近くのアパートに住んでいる悠斗が言う。
「うちも」と言いながら、莉子は昨日のことを思い出した。
少し迷ったものの、2人がどう思うか聞いてみたいと思って、口を開く。
「実は……停電中にちょっと怖いことがあって」
「え、なになに?」
「隣に住んでる小学生の女の子を、しばらくうちで預かったんだけど、白い犬のぬいぐるみが実はしゃべれるとか言い出してさ」
結月が“インターネットで調べて飼っていた犬の魂をぬいぐるみに移した”、と言っていた話をする。
「……っ!」
れい奈が目を輝かせて身を乗り出した。
「それって、降霊術ってことだよね!?」
「コウレイジュツ?」
「霊を呼び寄せるやつ。え、すごい、その子! お友だちになりたい!」
盛り上がるれい奈に、悠斗が苦笑した。
「それ、たぶんイマジナリーフレンドだと思うぞ」
莉子が首をかしげた。
「イマジナリーフレンドって、人間じゃないの?」
「この前授業でやったけど、動物もありえるらしいよ」
「そうなんだ……」
莉子は「なるほど」と思った。
きっと、むぎはイマジナリーフレンドだ。
(そりゃそうだよね、魂をぬいぐるみに入れるとかありえないし)
しかし、れい奈は首を振った。
「いや、そうとは限らない。動物霊とか低級霊とか、そういう可能性もある。降霊術ってそういう物を呼びやすい」
「れい奈は、降霊術やったことあるの?」
悠斗が聞くと、れい奈が真面目な顔でうなずいた。
「うん、ある」
「成功した?」
「……しなかった」
「じゃあ、ないじゃん」
「あるよ! 私が失敗しただけで、現実にはありえる!」
言い合う2人に、莉子は痛むこめかみを押さえながら笑った。
とりあえず、イマジナリーフレンドで間違いないなと思う。
れい奈が、わくわくした顔で莉子に尋ねた。
「そのぬいぐるみってどんな感じだったの?」
「手入れされてる感じかな。昨日は停電のせいか生きてるみたいに見えた」
「え! 見たい! 莉子の家に遊びに行く!」
「絶対ダメ!」
――昼食の時間が終わると、3人はそれぞれ午後の授業に向かった。
莉子の頭はますます痛くなり、授業が終わる頃にはガンガンしてくる。
「これはヤバい……今日は帰ろう」
莉子が立ち上がると、フラフラと教室を出た。
キャンパス内を歩いていると、正面から悠斗がやってきた。
莉子の顔を見て、目を丸くする。
「大丈夫? すごい顔色だよ」
「ちょっと頭が痛くて……」




