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忠犬むぎは、夜に鳴く  作者: 優木凛々
第3章 異変

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立て直し

 れい奈と悠斗に話を聞いてもらった、翌日以降。


 莉子は自分の生活と精神状態の立て直しを図り始めた。

 母親と2人に本気で心配され、これは自分が思っている以上にヤバいことが分かったからだ。



(とりあえず、みんなを安心させよう)



 まず莉子が行ったのは、部屋の移動だ。


 莉子の家は2階に3つ部屋がある。

 莉子の部屋と、その向かいに母親の部屋。

 そして、母親の部屋の隣にある物置状態の空き部屋だ。

 空き部屋は、莉子の部屋と反対方向にあるため、庭が見えない。


 莉子は、そこをある程度片付けると、充電器やパソコンを持ち込んだ。

 布団を敷くと、満足そうに見回す。



(これで、よし)



 夜にならなければ分からないが、とりあえず庭が気になって起きるということはないだろう。

 睡眠がとれるようになれば、だいぶ楽になる。



 ――夕方になり、母が仕事から帰ってきた。

 莉子はさっそく、しばらく空き部屋を使いたいと申し出る。


 母親が目をぱちくりさせた。



「いいけど、どうしたの?」

「ちょっと気分変えたいなと思って」



 そして、莉子は切り出した。



「お母さん、私、4月から一人暮らししていいかな?」



 母親は驚いたらしく、目を大きく見開いた。



「……あんた、ここから通うって言ってなかった?」

「うん、そうなんだけど、よく考えたら遠いなと思って」



 母親はジッと莉子の顔を見た。

 そして、ははーん、という風にニヤリと笑う。



「あんた、彼氏ができたわね」

「……え? なんで?」

「だって、気分を変えたいとか、一人暮らしをしたいとか、彼氏ができたっぽいじゃない」



 莉子は苦笑いした。



「いや、そういうのじゃないから。ただの気分転換だから」

「……そうなの?」



 母親が残念そうに言う。


 その後、2人は夕食のカレーを食べながら話し合った。

 住む場所の条件や、物件の内覧に一緒に行くことなどを決めていく。


 そして話が終わって、母親がホッとしたような顔をした。



「でも良かったわ。あんた元気そうで。最近ちょっと様子が変だったから」

「……単位とか、1人暮らしの件とか、色々悩んでて」

「まったく。それならそうと言ってくれれば良かったのに」



 母親が安堵したように言う。

 どうやら相当心配していたらしい。


 その晩、莉子は空き部屋で眠った。

 視線を感じることもなく、途中で起きることもなく、ぐっすりと眠る。





 ――そして、翌日の朝。


 大学の授業の時間に合わせて、莉子は起き出した。

 身支度を済ませると、玄関に向かう。



(もっと早く部屋を変えれば良かった)



 久々に良く寝たせいか、体が軽い。

 最近全然食べられなかった朝食も少し食べられた。


 莉子は玄関の鍵を閉めて門の外に出た。

 歩きながら、ふと隣の家を見上げる。


 全ての窓のカーテンが閉まっており、シンと静まり返っている。



(……結月ちゃん、学校かな)



 莉子自身は何とか元気になれそうだが、結月の奇行については何も解決していないな、と思う。

 しかし、莉子は首を横にブンブンと振った。



(まずは、私が回復しないと)



 まずは周囲を安心させて、それから考えよう。

 そんなことを思いながら、隣の家から目を逸らす。





 ――ここから、莉子は東京校舎付近で家を探し始めた。


 探しているエリアは、家具家電付の学生マンションが多く、すぐに生活を始められそうだった。

 良さそうな部屋を見つけては、内覧予約する。


 れい奈と悠斗は、どこか心配そうな顔をしているものの、普通に接してくれた。

 以前のように部室で話し込んだり、みんなで映画を見に行ったりする。





 ――そして、家を探し始めてから2週間後の週末。

 莉子は母親と部屋の内覧に出掛けた。


 幾つか部屋を見て、母親が勧めてくれた駅に近くてセキュリティもしっかりしているマンションに決める。


 その後、不動産屋で母親が仮契約を済ませると、莉子たちは帰路についた。

 やや込み合った電車の中で並んで座りながら、母親がつぶやいた。



「早いものねえ、ついこの間まで小学生だと思ってたんだけど」



 そして、思い出したようにスマホを取り出した。



「そうそう、来週か再来週の土日、直樹くんに食事に誘われたのよ。結月ちゃんの誕生日なので、一緒に食事でもどうですかって」



 莉子は目を見開いた。

 一瞬躊躇するものの、すぐにうなずく。



「うん、わかった。私は日曜日の方がいいかな」

「伝えておくわ」



 莉子は息を吐いた。


 ここ2週間で、自分もある程度回復した。

 とりあえず結月に会って、話をしてみたいと思う。



(誕生日プレゼント、何がいいかな)



 その後、莉子は母親とファミレスに寄って夕食をとると、家に戻った。






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