大晦日2
「ねえねえ、その話、ちょっと教えてよ!」
渚のキラキラした目を見て、莉子は苦笑いした。
躊躇うものの、母親が話してしまった以上、知らないフリもできないと、仕方なく口を開く。
「……確かに警察の人に色々聞かれたけど、もう半年以上前だし、大した話じゃないよ」
「うんうん、それで何聞かれたの?」
渚が興味津々の様子で迫ってくる。
莉子は当時のことを思い出しながら、当たり障りのないことを答えた。
「直樹さんと結月ちゃんは元気か、とか、誰か出入りしていないか、みたいなことを聞かれた」
「へえ! 莉子はなんて答えたの?」
「よく分からないって答えたと思う」
ちなみに、渚の家は、結月の祖父母の家の近所らしく、親戚行事に呼ばれるなど、わりと交流があるらしい。
「結月ちゃんとも何度か遊んだことあるのよ」
「そうなんだ」
相槌を打ちながら、莉子は思案した。
渚は情報通だ。
もしかすると、莉子がずっと疑問に思っていた答えを知っているかもしれない。
(聞いてみよう)
莉子はジュースのコップをテーブルに置くと、渚に尋ねた。
「どうして直樹おじさんって警察に疑われたの? いい人だと思うんだけど」
渚が枝豆を食べながらうなずいた。
「うん、すごくいい人よ。イケメンだし。……でも、真由美さんが亡くなる直前に、離婚で揉めてたんだよね」
渚によると、直樹と真由美はずっとうまくいっていなかったらしい。
渚は少し声を落とした。
「結月ちゃんへの教育方針で、結構揉めててさ」
親戚の集まりなどで、真由美はよく結月のことを叱っていたらしい。
「結月ちゃんが本を読んでたら、真由美さんが『本なんて読んでないで、みんなと遊びなさい』って物凄く怒っててさ。着色料の入ったお菓子食べるなとか、ご飯の食べ方とか、本当に何から何まで」
「……そうなんだ」
渚がため息をついた。
「真由美さんって、よく『いい子にしないと嫌いになるよ』って怒ってて、結月ちゃん泣いたりとかして」
直樹はそれが嫌だったらしく、結月をかばって、よく真由美と言い合いになっていたらしい。
莉子は眉間にしわを寄せた。
前に結月が「わたし、いい子だよ?」と言っていたのは、お母さんの影響なのかもしれない。
渚によると、親戚たちはみんなその現場を見ていたので、離婚の話が出たと聞いても、誰も驚かなかったらしい。
「でも、真由美さんの方が離婚したがらなかったみたいで」
そして揉めていたところ、真由美が自宅で死亡したらしい。
莉子は考え込んだ。
確かに事情は色々ありそうだが、直樹が人を殺めるとは思えない。
「私、直樹さんがそういうことするとは思えない」
「うんうん、私もそう思う」
渚がうなずく。
そして、少し間を置くと、顔を寄せて声を潜めた。
「……実はさ、私、真由美さんのお葬式の受付したんだよね」
真由美の葬式は、準家族葬で、身内でひっそり行われたらしい。
「その時に、真由美さんの親族が話してたんだけど……真由美さん、亡くなる前、妙なこと言ってたらしいんだよね」
「妙なこと?」
莉子が首をかしげると、渚がさらに声を潜めた。
「 “ぬいぐるみが動いてる”って言ってたんだって」
「……っ!」
莉子は大きく目を見開いた。
全身が粟立ち、とっさに拳を握りしめる。
渚によると、受付の近くで、真由美さん側の親族がコソコソ話しをしていたらしい。
「真由美さんが血相を変えて『結月のぬいぐるみが動いてる』って騒いでたって。お炊き上げとか除霊とか、ものすごく調べていたみたい」
渚が苦笑した。
「確かにあの白い犬のぬいぐるみ、よくできてるけど、さすがに動くはないよね」
「……そうだね」
莉子は、何とか相槌を打つと、黙り込んだ。
死んだ結月の母親の言葉と、自分が感じている不気味さを重ね合わせ、得も言われぬ嫌な感じに襲われる。
渚が心配そうに莉子の顔をのぞきこんだ。
「莉子、顔真っ青だよ。飲み過ぎた?」
「ああ、うん……昨日寝不足だったから……」
「大丈夫? 寝る?」
その時、テレビの前にいた親戚の1人が笑顔で振り返った。
「今年は紅組が勝ったぞ!」
「お~! 白組3連覇ならずか!」
テレビからは、蛍の歌が流れ始めた。
すぐに、ゴーン、ゴーン、と除夜の鐘が流れはじめ、新年を迎える。
「あけましておめでとう!」
「今年もよろしく!」
その場にいた全員が立ち上がり、笑顔で挨拶を交わし始めた。
莉子も立ち上がると、引きつった笑みを浮かべながら、何とか挨拶をする。
その後、莉子は飲んでふらふらになった母を割り当てられた部屋に運んだ。
風呂に入った後、その隣に寝る。
しかし、目が冴えて眠れず、莉子は一睡もできなかった。




