不明なトラッカー
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
突然、スマホから聞いたことのないアラーム音が鳴った。
莉子が見ると、見たことがない表示が出ている。
『不明なトラッカーが見つかりました。――心あたりはありますか?』
莉子が首をかしげた。
(何これ?)
不思議そうな顔をする悠斗とれい奈に、
「これなんだろう?」と画面を見せると、悠斗の顔色が変わった。
「……これ、自分のものじゃないデバイスが一緒に移動してるときに表示されるやつじゃないか?」
「え!」
莉子は目を見開いた。
まさかと思いながら、持っていた鞄の中をゴソゴソと探る。
そして――
「……っ!」
莉子は思わず固まった。
鞄の内ポケットの奥に、見知らぬ小さな黒いキーホルダーが入っていた。
取り出して2人に見せると、悠斗の顔が一気に強張った。
「……それ、A社のGPSだ!」
「えっ!」
莉子は冷や水を浴びせられたような気分になった。
GPSが鞄に入っていたということは、つまり誰かが莉子の位置情報を監視していたということじゃないか!
(い、いつの間にこんなものが!)
得体のしれない恐怖に背筋が凍る。
そして、黒いGPSキーホルダーに目をやって――
「……ん?」
莉子は眉間にしわを寄せた。
「……なんか書いてある」
そこには灰色のローマ字の書いた透明のシールが張られている。
『Mituki Ebina』(みづき えびな)
莉子は呆然とつぶやいた。
「これ……結月ちゃんのだ」
「結月ちゃん?」
「隣に住んでる小学校2年生の女の子」
悠斗とれい奈は顔を見合わせると、ホッとした表情を浮かべた。
悠斗が口を開く。
「それ、いたずらじゃないか?」
「うんうん。小学校2年生なら好奇心でやりそう」
れい奈も同意する。
莉子は手元の黒いキーホルダーを見つめた。
確かに、結月の物であれば、いたずらの可能性が高いとは思う。
(でも……結月ちゃん、そういうことするかな……?)
それに、一体いつ鞄に入れたのかも分からない。
知らない人のGPSが入っていたよりは大分マシではあるが、物が物だけに、あまり気持ちが良くない。
(……とりあえず本人に聞いてみよう)
今日は、部室で空き時間を潰してから、バイトに直接行くつもりだった。
でも、一旦家に帰って、結月に聞いてみよう。
莉子は立ち上がった。
「私、帰って聞いてみる」
「わかった、気を付けて」
れい奈と悠斗が、やや心配そうに手を振る。
莉子は部室を出ると、急ぎ帰路についた。
電車に乗って最寄駅に到着すると、足早で自宅へと向かう。
そして家に到着して、とりあえず家に入ろうと玄関の前に立つと、
「……でしょ」
「……はは……!」
庭の奥から、子どもが大声で騒ぐ声が聞こえてきた。
楽しそうに会話しており、ケタケタという高笑いが響いてくる。
(友達来てるんだ)
子どもの話し声を聞きながら、莉子は思案した。
とりあえず、邪魔しないように聞こうと、そっと庭に回る。
そして、隣の庭が見えるところまできて――
(……え?)
莉子は思わず目を見開いた。
そこには、1人でウッドデッキに座る結月がいた。
隣に座らせている、むぎに向かって、大声で話しかけたり、1人で声を上げてケタケタ笑ったりしている。
その異様な光景に、莉子は思わず固まった。
何が起きているか理解できない。
しばらくして、結月が、ふと振り向いた。
莉子を見て、いつもと変わらぬ嬉しそうな笑顔になる。
「莉子ちゃん! 今日は早いね!」
「……うん、バイトに行く前に、一旦帰って来たんだ」
そのあまりにいつも通りの様子に、莉子は戸惑いながら答えた。
今見たものをどう解釈していいか分からないものの、とりあえず聞くことを聞こうと柵に近づく
そして、鞄のポケットから黒いGPSキーホルダーを取り出すと、結月に見せた。
「これって、結月ちゃんのだよね?」
結月はウッドデッキから立ち上がった。
サンダルを履いて近づいてくると、黒いキーホルダーを見て、こくりとうなずく。
「うん、これ、わたしの」
そして、不思議そうな顔で莉子を見上げた。
「これ、どうして莉子ちゃんが持ってるの?」
「……え?」
結月によると、この黒いGPSキーホルダーは少し前に紛失してしまったらしい。
直樹にパソコンを使って探してもらっても見つからず、新しいものを買ってもらったらしい。
結月は「ちょっと待っていて」というと、家の中に戻った。
すぐにランドセルを持ってくる。
「これ、新しいの」
見ると、ランドセルの横には、新しそうな白いGPSキーホルダーがついている。
莉子は混乱のあまり目を泳がせた。
つまり、結月が紛失したGPSキーホルダーが、
莉子の鞄の中に入っていた、ということになる。
(どういうこと……?)
そして、一体いつ紛失したのか尋ねようと、莉子が口を開きかけた――そのとき。
……ぽすん
結月の後ろで、ウッドデッキに座っていたむぎが静かに横に倒れた。
莉子は無意識にその方向を見て――目が合う。
(……!)
莉子の背中に一瞬冷たいものが走った。
思わず身震いすると、結月が心配そうな顔をする。
「莉子ちゃん、どうしたの?」
その声に、莉子はハッと我に返った。
むぎから素早く目を逸らすと、なるべく普通に答えた。
「……いや、なんでもないよ。私、そろそろ行くから、その黒いGPS、お父さんに渡しておいてもらえる?」
「うん、わかった」
結月は素直にうなずくと、黒いGPSキーホルダーを受け取った。
何か言いたそうな顔をするものの、名残り惜しそうに「いってらっしゃい」と手を振る。
莉子は「またね」と手を振り返すと、庭を出た。
門を閉めると、鞄を抱えてバイト先に向かって速足で歩き始める。
心の中は、疑問でいっぱいだ。
(一体どういうこと……?)
結月が紛失したGPSが、なぜ自分の鞄に入ったのか全く分からない。
しかも、あのタイミングで倒れた、むぎ。
ただぬいぐるみが倒れただけなのに、嫌な感じが止まらない。
結月が1人で大声で話したりケタケタ笑ったりしていたのも、普通には見えなかった。
(なんか……色々おかしい感じがする)
莉子は足を速めた。
つまずいて転びそうになるが、そんなことは気にせず、どんどん進んでいく。
そして、息を切らせながらコンビニの前に到着すると、
深呼吸しながら、ゆっくりと中へと入っていった。




