予想外の忙しさ
準備の甲斐があり、学祭は成功に終わった。
後片付けをした後、部員みんなで、大学近くの飲み屋で打ち上げをする。
楽しく飲みながら、莉子はホッと一息ついた。
これでようやく、元ののんびりした生活に戻れる、と思う。
(たまったアニメを見ないとな~)
れい奈と悠斗と、「近いうちにアニメ映画の聖地巡礼に行こう」、といった話題で盛り上がったりする。
――しかし、予想外の事態が莉子を襲った。
学園祭の翌週。
コンビニのバイトを終え、莉子が帰ろうとすると、老オーナーが声を掛けてきた。
裏に連れて行かれ、頭を下げられる。
「莉子ちゃん、本当に申し訳ないんだけど、しばらくシフト増やしてもらえないかな」
どうやら、バイト1人が急に辞めてしまうことになったらしい。
もともと辞める予定も1人おり、今コンビニは大ピンチのようだった。
「今募集してるんだけど、なかなか集まらなくてね。申し訳ないけど、新しい人が見つかるまでシフト増やして欲しいんだ」
申し訳なさそうな顔の老オーナーを見ながら、莉子は思案した。
オーナーには高校の頃からお世話になっているし、無下に断ることもできない。
揃えたい漫画もたくさんあるし、れい奈たちと聖地巡礼の話も出ている。
お金はあった方がいい。
「分かりました、増やします」
「ありがとう!」
――そんな訳で、莉子は週に2、3日だったバイトを5日に増やして働き始めた。
オーナーには「大丈夫かい?」と心配されたのだが、
学祭の準備で忙しさには慣れていたため、これくらい増やしても大丈夫だろうと思ったのだ。
しかし、バイトの大変さは桁違いだった。
学祭の準備と違って、気も体力も使うため、あっという間にクタクタになる。
バイト先の休憩室でぐったり座りながら、莉子は反省した。
(働くって大変なんだな……)
己の見通しの甘さを呪いながらも、莉子は懸命に働いた。
夜遅くにふらふらになりながら家に帰ってくると、倒れるように眠りにつく。
*
そして、シフトを増やしてから約3週間後、11月下旬の夕方。
久々の休日に、莉子が死んだように眠っていると、
コンコンコン
ノックする音が聞こえた。
ドアが開いて、母親の声がする。
「莉子、これからご飯食べに行くんだけど。一緒に行かない?」
「……どこいくの?」
「莉子の好きなファミレス」
「……行く」
莉子はむっくりと起き上がった。
のろのろと出かける準備を始め、ぼんやりと母親の運転する車に乗り込んだ。
しばらくすると、車は莉子の好きな高めのファミレスの前に到着した。
店に入り、向かい合って座る。
莉子がボーっとしていると、母親がため息をついた。
「あんた、最近全然会わないわね」
「……そうだね。バイト忙しいし」
「あんた、そんなにバイトしてたっけ?」
莉子がバイトを増やした話をすると、母親は苦笑した。
「あんたって昔から巻き込まれ体質よねえ」
そして、母親が思い出したように口を開いた。
「そういえば、昨日、隣の結月ちゃんに聞かれたわよ。莉子ちゃんはまだ忙しいのかって」
「ああ……」
莉子は思い出した。
そういえば、結月には「学祭が終わったら遊ぼう」と言っていた。
生活に余裕がなさ過ぎて、すっかり忘れていた。
(今度会ったら、まだ忙しいって謝らないとな……)
莉子がボンヤリとそんなことを考えていると、料理が運ばれてきた。
2人は黙々と食べ始める。
しばらくして、母親がふと口を開いた。
「そういえば、最近夜中に犬の鳴き声がするわね」
「え、そう?」
「向かいの奥さんも言ってたわ。最近夜犬が鳴いてるって」
莉子は首を傾げた。
疲れて寝ているせいか、全く気づいていなかったが、前に聞いたことがある気もする。
「……もしかして、夏前に引っ越してきた裏のご家族とかじゃないのかな」
「結構近い感じがするから、そうかもしれないわね」
そんな話をしながら食事を済ませ、莉子は母親と家に帰った。
すぐに眠くなり、「バイト、早く新しい人見つからないかな」と思いながら、再び眠りにつく。
*
そして、余裕がないまま過ごすこと、更に1週間。
晩秋の雰囲気漂う、11月末。
1時限目の授業が終わった莉子が、教室の片隅で教科書を片付けていた。
今日は2時限目が休講のため、どこで時間を潰そうかなと考える。
そして、ふと、今日が給料日だということを思い出して、スマホを取り出した。
銀行口座を見て、思わず目を見開いた。
――――――――
フリコミ 123,450円
――――――――
莉子はガッツポーズを決めた。
(やった! すごい!)
いつも4、5万くらいのことを考えると、倍以上だ。
莉子は浮かれた気持ちで立ち上がった。
スキップするように歩きながら教室を出ると、駅前のスマホショップに行って、念願の機種変更を行う。
新しいスマホを手に、莉子はホクホクした。
(がんばった甲斐があった!)
液晶保護シートなどを買い込み、午後の授業に向かう。
――そして放課後。
莉子が新しいスマホを手に、弾むように部室に行くと、そこにはれい奈と悠斗がいた。
2人は嬉しそうに莉子に声を掛けた。
「久しぶり! 莉子。最近来なかったね」
「うん、バイトが忙しくてさ」
れい奈が、莉子の手元を見た。
「それ、新しいスマホ?」
「うん機種変したんだ。ここで設定してもいい?」
「もちろん」
莉子はルンルンした気分で、新しいスマホに液晶保護シートを張った。
ケースに入れると、コンセントをつないで充電する。
そして、なんか良い感じのアクセサリーはないかなと、ネットを検索していた――その時。
ピンポーン
ピンポーン
ピンポーン
突然、スマホから聞いたことのない通知音が鳴り響いた。
「わっ!」
莉子は思わずスマホを落としそうになった。
画面を見ると、そこには見たことのない文言が表示されている。
『不明なトラッカーが見つかりました。――心あたりはありますか?』
(……なにこれ?)
莉子は目をぱちくりさせた。




