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忠犬むぎは、夜に鳴く  作者: 優木凛々
第2章 変化

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12/28

学祭

 学祭の準備が始まってから約1か月後。

 10月中旬の、よく晴れた日曜日のお昼前。


 莉子は、自室のベッドの上で、ぼんやりと目を開けた。

 窓の隙間から差し込む光はすでに高く、昼近いことがうかがえる。


 彼女は寝返りを打つと、枕に顔を埋めながらボヤいた。



「最近忙しいな……」



 ここ1カ月、莉子は学祭の準備に追われる日々を過ごしていた。

 展示物の作成が思いのほか大変で、バイトのない日は遅くまで部室にこもり、土日も大学へ足を運ぶことが増えた。


 みんなで集まって一緒に作業するのは楽しいが、

 1カ月この生活はさすがにしんどい。



(今日は家でのんびりしよう)



 とりあえず何か食べようと、莉子はのろのろと起き上がった。

 しばらく洗っていなかったことを思い出し、ベッドシーツとパッドを剥がすと、バスタオルと共に洗濯機に放り込む。


 そしてパンにジャムを塗ってもぐもぐと食べた後、

 莉子は洗い終わった洗濯物を籠に入れて庭に向かった。

 窓を開けようとして、隣の庭に直樹と結月がいることに気が付く。



(なんか久し振り)



 莉子は窓を開けると、声をかけた。



「こんにちは」



 直樹と結月がこちらを振り向いた。

 結月の顔がぱっと明るくなる。



「莉子ちゃん!」



 直樹が、「こんにちは」と微笑みながら立ち上がった。

 莉子の顔を見ると、少し心配そうな顔をする。



「なんだか疲れてそうだね」

「そうなんですよ。今、学園祭の準備が忙しくて」



 莉子が軽くため息をつくと、直樹は懐かしそうに目を細めた。



「ああ……そういえば、そんな時期ですね。僕も大学の頃は大変でした」



 何となく親近感が沸いて、莉子が尋ねた。



「直樹さん、サークルは何に入ってたんですか?」

「テニスです」



 隣で話を聞いていた結月がニコニコしながら口を挟んだ。



「お父さんね、お母さんと一緒にテニスしてたんだよ」

「そうなの?」



 莉子が首をかしげていると、直樹は少し照れたように笑った。



「妻はサークルの先輩だったんです。学祭の時はよくこき使われていました」



 莉子は「そうなんですね」と笑いながら、シーツを干し始めた。

 前に結月から聞いた話と合わせると、結月のお母さんは、かなりきつい性格だったっぽいなと思う。


 その後、直樹は肥料を取りに家の中へ戻った。

 結月は柵の傍に走り寄ってくると、嬉しそうに洗濯物を干す莉子を見上げた。



「莉子ちゃん、会いたかった! ……でも、今忙しいんだね……」

「うん、学祭の準備が大変で」

「そっか……忙しいなら、仕方ないよね……」



 結月が俯きながら、自分を納得させるようにつぶやく。

 莉子は申し訳ない気持ちになった。



(……そういえば、最近全然話せてなかった)



 学祭準備があるので致し方ないことではあるが、何となく悪いことをした気分になる。


 そこへ、直樹が肥料の袋を持って戻ってきた。

 プランターの傍に歩み寄る。


 邪魔してはいけないと思い、莉子は、空になった洗濯かごを持ち上げた。



「じゃあね、結月ちゃん。学祭が終わったら、また遊ぼうね」

「うん……!」



 結月が嬉しそうに笑った。

 笑顔で「またね!」と手を振る。


 莉子も笑顔で手を振り返した。

 かごを抱えて家の中に入る。

 そして、窓を閉めようと振り向いて――



「……あれ?」



 思わず目をぱちくりさせた。

 莉子の視線の先に、ウッドデッキに座ったむぎがいた。

 黒い瞳が、結月を見守るようにきらりと光っている。


 相変わらず本物の犬っぽいぬいぐるみだなと思いながら、莉子は首をかしげた。



「あんなところに、いたっけ……?」



 眉をひそめて考え込むものの、見た記憶がない。



「でもまあ……見落としかな」



 ぬいぐるみが1人で歩いてあそこに行く訳がないし、単なる見落としだろうと思い、

 レースのカーテンを閉めて家に入る。




 ――そこからも、莉子は忙しい日々を過ごした。

 途中で、提携サークルの手伝いも入り、更に忙しくなる。



 そして、10月末。

 それまでの努力の甲斐もあり、莉子たちは無事に学祭を迎えた。





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