第21話
野営をするにも俺たちは指定された場所があるのでそこにテントを張らなければならない。
そこは野営地の中でも1番村に近く、俺たちを含めて利用者の安全面を配慮してのものらしい。
ほら、えちえちの最中は無防備になるからね。俺はまだ実物は見た事ないけど魔物に襲われたら大変だもんな。
さすがに初日から利用するお客様は少ないだろうと思っていたけど、利用者は普通にいるし、なんなら村の人たちだって楽しみにしてるのだとか。
みんなも稼ぐつもりで参加しているから、ありがりたいことなんだろうけど、俺も(雑用が)忙しくなりそうで怖いよ。
「これでよしっと」
だから、しっかりとしたテントを張る必要があるんだけど……
でも、こういった目的で作られたテントは特注品なのかな? なかなかの重労働でホント使えてよかったよケアスキル。
いい経験にはなったけど、使い慣れてきたロックスキルでかまくらのような建物をいっぱい作る方が俺的には楽だな、なんて事をつい考えてしまったよ。
「いい匂い……」
——こういうの、キャンプみたいでなんかいいな……
マホマホ王国からホクホク王国に移動する際も野営はしたけど、あの時は不安の方が大きくて余裕がなかったもんな。
女性陣が食事(夕食)の準備をしている間に男性陣がテントを立てる。いいね。
俺は馬のお世話係だったけど、クリーンスキルで体を綺麗にしてやり、ケアスキルで疲労を回復。ウォータースキルで水桶を満たしてやれば後は荷台から馬たちのエサを運んでくるだけだ。
でも、それも容量のおかしい俺のポーチスキルを使えばあら不思議、あっという間に馬のお世話が終わってしまった。ついでにブラッシングでもしとく?
「お前たちは可愛いな」
ご機嫌なホーとスーの頭を撫でて満足していると、他の馬まで寄ってきて顔中馬たちの唾液まみれにされて大変なことになったけど。
早めに終わってしまったので、それからはシゲさんのところに戻りテント張りの手伝いをしたけど、数が数だけにかなり大変だったよ。
全てのテントを張り終えたら後は、誰がどのテントを使用するのか、お客様の相手をしない者たち(黒服や管理者)はどのテントを使用するのか、そういった難しい話はシゲさんやシエラさんを含めた管理職のみなさんがするので、俺は先に食事をいただくことにした。のだけど……
——え!?
ハンゾーさんやコジュウさんは、いや同じ男娼館のみんなは顔馴染みの冒険者(常連さん)と見た事のない冒険者(ガタイのいい女性)と一緒に食事をして、その中に入れそうにない。
——マジですか。あ……
ひょっとしたらレイラさんとアンナさんが近くにいて、時間があれば来てくれるかもと期待したが、残念ながらそれもなさそう。
——ま、まあ、レイラさんとアンナさんは国から指名されるくらいの冒険者だから……
ちなみに参加している冒険者には、直接国から指名依頼を受けた冒険者とギルドに貼り出された依頼を見て参加した冒険者がいる。
だから俺は、騎士団のお偉いさんと食事をしているのだろう思うことにした。いや、それはそれでちょっと嫌というか、複雑な気分なんだけど……考えないことにした。
しょうがないので、一人でスープを注いでくれているリンカさん(リリちゃんのお母さん)の列に並ぶ。
「あ、ゴロー様♡。先ほどはありがとうございました。
感謝の気持ちを込めてたっぷり入れときますね」♡は営業スマイル。
「いえいえ。うれしいですね、ありがとうございます」
笑顔の可愛らしいリンカさんから具がたっぷり入ったスープを受け取り、沈んでいた気持ちが少し回復したところで俺は適当な場所に腰を下ろした。
「ゴローさん、お隣を失礼しますね」
「一緒に食べましょう」
「ゴローさん、隣失礼するよ」
「へ?」
腰を下ろしたタイミングで、なぜかシエラさんとマキナさんが両隣に腰を下ろし、カナデさんが俺の正面に腰を下ろしていた。
いや、ボッチ飯確定だったからうれしいんだけど、近くに寄り過ぎて腕とか膝とか色々と当たっているんですけど。
——ま、まずい。
馬のお世話をしてテント張りで身体を動かし、せっかくリセットされて大人しくなっていた一部がムクムクと再び元気を取り戻してしまった。
「えっと、話し合いはもう終わったんですか?」
それを悟られないように頑張るしかないので、少し前屈みになりながら疑問に思った事を尋ねる。
「ふふふ……」
「あら」
「おお」
一瞬、彼女たちが笑みを深めていたので、バレてしまったのかとヒヤリとしたけど、たぶん大丈夫。
だってシエラさんは気にした様子もなく、俺の質問に答えてくれたから。
「ゴローさん、話し合いは必要ないのですよ」
こういった討伐の遠征は毎年のようにあるらしく、どこの娼館がどのテントを使うのかはすでに決まっているらしい。どうりで早いはずだ。
「そういう事でしたか」
「はい」
それから、元気になっている一部の事を悟られないようにシエラさんたちとちょっとした雑談をしながら食事をしていれば、傾いていた陽が完全に落ちてしまった。
日が落ちると、バジスさんたちのような黒服の人たちが忙しそうに、どこかで待たせていたらしいお客様をテントの方へと案内していた。
——みんなが居ない!?
常連さんたちと食事をウチの男娼さんたちもすでに居ないので、もうしばらくすれば俺も忙しくなりそうな気配。
でもその前に、俺には気になっている事があったので、先にそちらを済ませてしまおうと立ち上がる。
「ゴロー様?」
突然立ち上がった俺に話しかけてきたシエラさん。
「シエラさん。えっと、俺、ちょっと気になる事が……!?」
ちょっと席を外す事を伝えようと座ったままの彼女の方に視線を下ろしたのだが、
「ぃ!?」
立ち上がった俺からすると、座っているシエラさんを上から見下ろす形になっていた。
そうなると当然のように大きく開いてる胸元から大きくてきれいなお胸がしっかりと見えてしまう。バッチリとね。俺は慌てて顔を背けた。
「あ、ありまひて」
どうにか言葉を絞り出したけど、掠れて変な声になってしまった。後は察してほしい。
「これは……お見事ですね」
「一瞬で、ですか」
「はぁ、ゴローさんはやっぱすごいんだな」
「いや、すごいのはリペアスキルなんですけどね」
そう、俺はこの村に到着した時から、用務員をしていた頃のクセというかなんというか、村の周囲を囲っている木製の柵が、割れていたり、張り付けてある板の一部が外れていたりと、気になって仕方がなかったのだ。
シエラさんのお胸を見て焦った俺は言わなくてもいい事までついつい話してしまい、結局は修繕しているところを見たいと言うシエラさんたちまで着いてくる事に。
「ん? あ〜こいつら、どこにでもいるだな」
いつものように見える黒いモゾモゾ。
初めて見たい時は怖かったけど、最近では結構見かけるしその度にクリンライトケアを使って消していたら見慣れてきた。
ただこいつは人に張り付いていたりもして、張り付かれている人たちは決まって体調を悪くしていたりするので俺は呪いや悪霊の類いなのでは? とか勝手に思っている。
「ゴローさんは、あちらに何か見えるのですか?」
ほとんどの人は気づかないけど、シエラさんは黒いモゾモゾがいる辺りに顔を向けているところを見ると何か感じとっているのかも。
そういえばコジュウさんもそんな感じだったっけ。
——オバケってこっちの世界にいるのかな?
「いや、なんか分からないけど、透けているから悪霊っぽいというか、身体に悪さをしてるっぽい霊というか、変なヤツ?」
こいつらはクリーンスキルとケアスキルとライトスキルを使った『クリンライトケア』を使えば消えていくから俺が勝手にそう思っているんだけどね。
「あくりょう? は存じませんが、悪さをするれい……とは、もしかして精霊の事ですか!? 悪さをする精霊がいるという話なら聞いたことがあります」
「精霊?」
「違うのですか?」
「いや、実は俺もよく分からないんですよね。でも、人にとってはよくないヤツっぽいから……『クリンライトケア』これでよしっと」
モゾモゾが消えた辺りを見て驚くシエラさん。
やはり見えなくても何かを感じとっていたのかも。
まあ、俺にもあれが何か説明できないので話ようがないんだけどね。
村の周囲の柵を修繕して回るうちに黒いモゾモゾもちょっと見つけたのでついでにクリンライトケアを使って消しておいた。
「ゴロー、すまない。頼んでいいか?」
「はい、喜んで」
それからはクリーンの仕事が忙しくなり、途中からは他の娼婦さんのテントからもクリーンの依頼があって大変な一日だったけどいい仕事をしたよ。指名? なにそれ。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




