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クラス転移に巻き込まれ用務員は魔力が0だった。  作者: ぐっちょん


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20/22

第20話

 ——ど、どうしよう。


 馬車が走り出して、しばらく経つけど、隣に座っているシエラさんからずっと左手を握られている。


 あー、なんか手汗がでてきた。拭きたい、けど、握られているから拭くことができないぞ。


 でもなんとかしないと、汗かきの男性は嫌われるって何かの雑誌で見たことあるし……


 もちろん前の世界の話だけど。この世界でも似たようなものじゃないだろうか……


 他にも頭のベタつきや汚れ(不潔)なんてのもあったけど、そっちはクリーンでどうにでも……あれ? 焦ってて気づかなかったけど、手汗だってクリーンでいけるじゃないか。


 ——クリーン。


 お、シュバっと消えてさわやか。よかった……


「ゴローさん? 先ほどから表情がコロコロと変わっておりますが、何か気になることでもありましたか……?」


「えっ」

 ——俺ってそんなに顔に出てたの?


「い、いえ。皆さんお綺麗だから、俺、緊張しちゃってて……あはは。手汗すごいし(ボソ)


「まあ、お綺麗だなんて」

「うれしい事言ってくれるね〜」

「ゴローさんはお上手ですね」


「いえいえ、シエラさんもカナデさんもマキナさんも、ホントお綺麗ですから」


 緊張しているのは本当だよ。お客様としてえちえちな関係があったとしてもそれはあくまでもお仕事での事だからね。


 綺麗な女性に囲まれる経験なんてほとんどないから、こんな時はどうしたらいいのか焦ってしまうのだ。


 しかも、シエラさんもカナデさんもマキナさんも、胸元がゆったりと大きく開いているドレスを着ているから余計にドキドキが止まらない。


 どれくらい開いているかというと、彼女たちがほんのちょっと前屈みになるだけで……たぶん見える。


 ——ああ……


 しかしこれがまた、男の性なのか。見ないように思えば思うほどそちらを意識してしまい目がいくという悪循環。思いっきり視線を背けていればいいけど、この狭い馬車の中でそれをすると不自然だし、かといって少しくらい目線を逸らす程度では意味がない。


 ——やばっ。


 今も視線がつい彼女たちのお胸の方に吸い込まれていたよ。バレたら絶対嫌われるって分かってるのに……ぬおお。


「ふふ。シュゲイル様からゴローさんの好みのドレスを聞いた甲斐がありました」


 ——ぶっ!? シゲさん! シエラさんたちになんて事言ってるの。


「そ、そうでしたか」


 咄嗟にそう返したけど、絶対に社交辞令だよね? というか、今一瞬本気にしかけたけど、もしかして、俺がお胸をチラチラと見ていた事がバレてた?

 

 ——こ、これはやばい。


 俺が背中に冷や汗を流していると、


「そうだよ〜」


「まあ私としてはもう少し布面積を少なくしてもよかったんだけどな〜」


 カエデさんとマキナさんまで話に入ってきた。しかも、何を思ったのかマキナさんが、ここをこんな感じに〜と言いつつ胸元を広げているし。


 ——ぶふっ!?


 すぐに顔を背けたけど、一瞬先っぽまで見えてしまった。

 仕方ないんだ、マキナさんは俺の真正面に座っているから普通に前を向いていたら視界に入っていただよ。


 いや、えちえちの時にも見てるんだけど、そういう時と違うところでチラッと見える感じはまた違った趣きがあっていいんだけど今はその時じゃなくて……って、バカバカ。俺はまた邪なことを考えてる。


 ——と、とりあえず何か言わないと。


「みんな、(今のままで)十分魅力的ですよ……でも気をつけてくださいね(誘惑していると)勘違いする男性も絶対いると思いますから」


 俺も、俺の為にこのドレスを着てくれてるって聞いた時には、普通に勘違いしそうだったもん。


 そう普通なら、ね。でも、すぐにピンときたんだ。

 たぶん彼女たちはケアスキルの恩をまだ感じているんだ。

 だから間違っても俺に惚れているって勘違いしたらダメなんだ。


「大丈夫大丈夫。ゴローさんにしか見せませんよ」


「そうそう。私たち今はお客様のお相手してないんですから」


「?」


 聞けば、カエデさんもマキナさんも別の館の館長さんだった。立場的にはシエラさんと同じだ。


「へぇ、シエラさんとは組合繋がりだったんですか」


「そうだよ」

「そうそう」


 歓楽街にはウラナシ組合(娼館の組合)というものがありシエラさんと彼女たちはその組合仲間。


 カナデさんとマキナさんは最近来てくれるようになったんだけど、俺はてっきりシエラさんのお店の方だと思っていた。


 ——館長さんだったのか……どおりで。


 シエラさんもだけど、カナデさんもマキナさんもお色気がすごいのに年齢不詳。

 なんとなく美魔女っぽいなぁと思っていたら、みなさん娼館のトップ。

 シエラさんと同じく管理がメインのようだけど、そうか……


 そうなっていた理由(管理がメイン)もなんとなく分かった。


 夜のお仕事はやはり身体への負担が大きいのだろう。

 俺を初めて指名してくれた日もすごく体調が悪そうだった。例えるならケアを使う前のシエラさんといい勝負。それくらい悪かったと思う。


 見た目は化粧で誤魔化していてぱっと見た感じでは元気そうに見えたし、彼女たちもそう見えるように振る舞っていた。


 でも、俺の有能なケアスキルだと誤魔化しは利かないので、すぐに分かっちゃったんだよね。


 シエラさんの紹介で来たって言ってくれたらから遠慮なくすぐにケアをしてお食事を楽しんでいただいたっけ。


 そのあとすぐに奥に連れ込まれ……こほん。奥を利用してくれたけど、この時ほど自分自身にもケアが使えて良かったと思ったよ。

 それほど熱烈に感謝されたんだ。


「あ、あの。お二人に俺から少しお願いがあるんですけどいいですか……」


「ん、何かな?」


「シエラ組合長じゃなくて私たちに?」


 シエラさんはウラナシ組合の代表でもあるらしく組合員さんからは組合長と呼ばれているらしい。


「はい。実は俺も他の男娼さんたちと同じようにボックス席が欲しいなぁ〜なんて最近思っていたんですよね。

 でも俺がボックス席くださいって自分からお願いして、ぜんぜん指名がなかったら恥ずかしいじゃないですか。

 それで食事だけ……いえ、贅沢はいいません。お茶を一杯飲みに来てくれるだけでいいのでカナデさんとマキナさんのお店の方たちにも遊びに来てもらえませんかね……

 もちろんシエラさんのお店の方も……無理のないように一年に一回だけでもいいので」


 指名が少ないのは本当だけど、ボックス席が欲しいというのはウソだ。


 でも先ほど体調の悪そうな娼婦さんをたくさん見かけて心配になったのだ。


 今は自覚がないのか遠巻きに見ていた人も多くいたけど、その中にもあとあと深刻な事になりそうな人が結構いた。


 どんな理由で働いているのかは知らないけど、健康でいればその内いい事だってあるかも知れない。


 それにこれは俺にもメリットがある。なんかケアスキルは使えば使うほどできることが増えてきているんだ。

 

 身体の内側ばかり意識していたけど外側も意識するようにしていたら、肌年齢のケアなどの細かなこともできそう気がしてきたんだ。

 今は最高の状態で現状維持が精一杯だけど、そのウチお肌年齢なんかも……


 でも仮にできるようになったとしてもこれは相手の許可を得てからでないとトラブルになりそうだから勝手にするつもりはないけど……


 とりあえず今は身体のケアと肌のケアを分けて意識するようにして(女性の肌を全力でハリハリのツヤツヤにする)お帰りいただく事だけを考えている。


「それだと、ゴローさんだけが損を……」

「いいのかな……」


 カナデさんとマキナさんの視線がシエラさんの方に動く。そっかシエラさんが組合長だもんね。

 俺も彼女たちの視線を追うようにシエラさんの方に顔を向けると、


「ゴローさん、本当にお食事やお茶だけでもよろしいのですか?」


 シエラさんがそう尋ねていた。


 シエラさんの言葉は、シエラさん自身から本当は奥に行きたくなかったのよ、と言われているようで、少し、いや、かなり心を抉られたよ。


 つい、もともと見返りを求めてやったわけじゃないと心の中で言い訳してしまったけど、俺は大丈夫。だって俺は次男だもん。理不尽な兄からいつも耐えてきた。これくらいのクリティカルなダメージでもギリギリへっちゃらだ。


「は、はい。もちろんシエラさんも無理して奥に「私は今まで通りですよゴローさん。それとも私のお相手は嫌でしたか?」


 心なしかシエラさんから握られたままの左手に圧を感じたけど、そんなことはどうでもいい。


「と、とんでもないですっ」


 だって俺はシエラさんのそんな優しい言葉に満たされてしまったから。理不尽な兄のニヤニヤ顔(幻覚)だってどこかに吹き飛んでいったよ。


「もちろんうれしいに決まってます。俺、シエラさん(と過ごす時間)が大好きですから」


「そ、そうですか。そこまで私を……ありがとうございます」


「もちろん、カエデさんとマキナさんもですよ」


「あら。ありがとう」

「いいねぇ。ゴローさんいいよ。男ならそれくらいないとな」


「こほん。それでゴローさん、話は戻りますが、本当にお食事とお茶だけでも?」


 シエラさんの話によると、お客にも波があり、金銭的に余裕のない女性も結構いるのだとか。


 そんな女性はどうしても無理をして身体を壊す。そんな女性をたくさん見てきたからこそ、そんな女性の環境をどうにできないかといつも考えていたらしい。


「では」


「ええ。ゴローさん。いえ、ゴロー様。こちらこそよろしくお願いいたします」


「「ゴロー様ありがとうございます」」


 彼女たちから深く頭を下げられてから気づく。オーナーの許可をまだもらっていないことに。言いづらい。すごく言いづらいが、言わないのはもっとまずい。


「み、みなさん頭を上げてください。それで、ちょっと申し訳ないのですが、まずはオーナーから俺専用のボックス席がもらえるかどうかなんですよね。

 もしダメだった時はカウンター席でどうにかできないか考えてみます」


 俺の言葉は申し訳なさすぎて尻すぼみに小さくなってしまったが、それでも彼女たちからはとても感謝された。どうにかしようとしてくれるその気持ちがうれしいのだと。


「ここの村に泊まるんですね?」


 馬車での移動は3時間毎に1時間の休暇を挟み、ゆっくりとしたペース(これが普通)で進んだ。


 まさかシエラさんとカエデさんとマキナさんから代わる代わる膝枕をされ……こほん。してくれてなんて思いもしなかったけど、逆に元気が出てしまって落ち着かせるのに苦労したよ。


 休憩中に歓楽隊の馬車馬にケアをして回り、気晴らしをしてね。


 ちなみに俺たちが乗る馬車を引いている馬は2頭いてホーとスー。つぶらな瞳がかわいい栗毛のお馬。ケアをしてあげると頭をすりすりしてくるかわいい子たち。


 それでも夕方には予定していたチーカク村に無事に到着。とはいえ村の中で過ごせるのは騎士団の中でも位が高い人たちだけで、ほとんどの人たちは人数の関係で中に入れず村の外で野営となる。


 それでも村を上げて歓迎してくれて騎士団にはご馳走が振る舞われている模様。


 俺たちにはそういったご馳走はないが、それを見越して俺もポーチスキルに準備してきているので問題はないのだ。


最後まで読んでいただきありがとうございます。

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