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クラス転移に巻き込まれ用務員は魔力が0だった。  作者: ぐっちょん


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第16話 

 とある娼館


 男娼館のオーナーであるマグリットはある娼館に訪れると高そうなソファーに深く腰掛け、その背もたれに身体を預けた。


「ふう」


 それからいつものように、外出時には必ず付けている仮面と胸に巻いていた長めのサラシを外しつつ口を開く。


「シエラ、身体の調子はどうかしら?」


「はい、ゴロー様のおかげで完治いたしました」


 いつものように侍女に持たせていた高級ポーションを数本受け取りテーブルに置こうとしていたマグリットの動きが止まった。


「え」


 マグリットは前国王と使用人との間に生まれた娘であり、マホマホ王国とは逆に位置するボンクーラ王国のチェリ王太子と婚約関係にあった。

 国が違えば作法も違うため数年前までは王妃教育を学ぶためにボンクーラ王国で過ごしていた。

 

 しかし、チェリ王太子はマグリットの3つ下になり、王城で王妃教育を受けるマグリットとは入れ違いにボンクラ学園の寮にて生活を送る。


 そんなチェリ王太子は、その学園で過ごすうちに1人の男爵令嬢に入れ込み、傍で支えようと努力していたマグリットを適当な理由をつけて卒業パーティーに呼び出し無い罪を着せて断罪したのだ。


 結果、婚約を破棄にされる形になったマグリットはホクホク王国に戻されたのだが、ボンクーラ王国との関係を悪化させたマグリットは市井へと落とされた。表向きは。


 実際は、愛想はないもののスタイル抜群で容姿端麗なマグリットを求める声は多く、中でも横柄で女癖と素行が悪いと有名だった公爵令息がしつこく五番目の愛人にと求めてきていた。

 

 マグリットの母は平民のため後ろ盾が弱く舐められていたのだ。


 チェリ王太子との婚約を破談にさせたのも、一目見た時からマグリットの事を気に入り自分のモノにしようとしていた公爵令息が裏で手を回していたことを掴んでいたマグリットの父(前王)が泣く泣く市井に逃したのだ。裏社会のトップとして。


 それだけ末っ子のマグリットは前王(父)から可愛がられていたのだ。


 もちろん、それはそう簡単にいくものではなく、その当時、裏社会を牛耳っていた裏組織がいくつか解体されている。


 ただ、そのほとんどをマグリットの専属執事であったシュゲイル(シゲさん)が行ったという経緯があり、現役を退いた今でも関係者に恐れられているのはそのためだった。


 現在はシュゲイルの息子アゲイルがマグリットの専属執事を努めている。


「シエラ、今なんと?」


「はい。ゴロー様が治療してくださり完治いたしましたと」


 マグリットが驚くのも無理もなかった。


 今、目の前で微笑むシエラは、マグリットが幼少の頃から身守ってくれていた暗部のものだった。


 それが数年前に治療法がない(回復魔法を使っても再発する)と誰もが知る女性特有の病を患い現役を引退したところを、マグリットが引き止め娼館長として迎え入れた。

 

 この女性特有の病にはキチンとした治療法はないが高級ポーションを使えば延命はできる事が分かっていたため近くに置いておきたかったのだ。


 ちなみに娼館や男娼館は情報収集のために暗部の者がよく利用していた場所(職場)でもある。


 それからマグリットは報酬の一つとして金銭とは別に高級ポーションを毎月数本ずつ届けていた。


「信じられないわ。ねえシエラ、ほんとに完治したの?」


「はい。いつもの身体の奥に残っていた違和感がありませんでしたが、念のため医師にも見せましたので間違いないかと」


 ゴローは生活スキルでクリーンやアイス、リペアなどが使える優秀な人物で、欠損やケガ、それに病をも治す事は兄(現国王、12歳離れている)から聞いていたので知っていた。彼を保護する重要性も。


 シュゲイル(シゲさん)からの報告で人柄を知り(お人好し)、本来なら、奴隷として縛ることはできない(自分で解呪ができる)はずなのに、ずっと私の奴隷で居てくれる彼を好ましく思っていた(裏切られた過去があるため)が、そんな彼でも治療法のない病までは治せるとは思っていなかったのだ。


「よかった。ほんと、よかったわ……ぇ!?」


 自分の事のように涙を流して喜んでいたマグリットがふと、何かに気付きシエラのほっぺに軽く触れる。


「なに、このお肌!?」


 マグリットがシエラの肌を触れた瞬間カミナリに打たれたようなショックを受ける。


 触れた瞬間にその違いが分かったのだ。シエラの肌が10代の淑女のようなお肌をしていると。


 顔を近づけてよく見ればハリ、ツヤ、シミやソバカス、小じわもない。

 侍女からお肌のマッサージを受けているマグリットから見ても、羨ましくなるようなきめ細やかなお肌になっていたのだ。


「これもゴロー様に」


 そう言ってから柔らかな笑みを浮かべるシエラ。


 シエラも暗部で動いていた当時は、当然のように自分の身体を使い情報を得ていた(行為中の方が口が軽くなる男性が多い)経緯がある。

 暗部の世界ではそれが当前であったから。


 だからそのような行為をしても普段のシエラならば何も感じないし思いもしない、はずだったのだが、治療でもそう、見返りを求めるでもなく、何事もなかったかのように振る舞うゴローに感謝するのは当然であるがそれと同時に興味を持った。


 それからお礼のつもりでゴローの元を尋ねれば、子どものように喜ばれ、逆に感謝されてしまった。

 奥の部屋でもそう、大切なモノを扱うように優しくしてくれるだけでなく、必死に喜ばせようもしてくれる。

 そんなゴローの姿に帰る頃には今までにない感情を抱いていた。

 

 裏の顔を探り汚い世界で生きてきたシエラが好ましくも可愛いと思った男性はゴローが初めてだったのだ。


 しかし、それとは別に、シエラは娼館の管理も任されている。

 人の良い彼を利用するのは心苦しかったが、福利厚生の一環として娼館の経費で月一回は娼婦たちを彼の元に行かせる様にした。


 実際は指名が入らないと笑っていた彼の売上に少しでも貢献したかったという不器用なシエラなりの想いだったのだが。照れくさくて本当の事は伝えていない。


 ちなみにシエラ自身は休日になると必ず行くようにしている。


「そ、そう。それもゴローのおかげなのね……」


 そう言いつつ、何度もシエラの頬に触れるマグリット。羨ましいとその顔に書いてあるのだが、シエラは敢えて突っ込むことはしない。


 その日から自分の肌を見ては毎日のように悩むようになるマグリットであった。

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