第11話
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勝手に搬入するのまどうかと思っていたら、俺が心配する前にシゲさんから先に娼館長に挨拶をする様にと促された。
という事で、俺たちは寝具を荷台に置いたまま手ぶらで建物の中に入った。
「失礼しまーす!」
娼館の中に初めて入ったけど、なんか禁断の地に足を踏み入れた感があってドキドキするね。
それに……
くんくん。
これはお香かな? とてもいい匂い……
お酒の匂いとか普通にするかと思っていたけどそんなことなかった。
そういえばオーナーが営む娼館は、シラフの(酔っていない)状態でないと入館できないとシゲさんから聞いていたんだった。
当然、お酒の提供はないし持ち込みもダメ。これは酔った男性客とのトラブルを避けるためらしい。
なるほど、と思ったけど他店(他の娼館)では普通にお酒の提供はしていると聞いた。ウチのオーナーだけが特別なようだ。
ただ男娼館の方は客単価が安いため、飲み屋(ホストクラブのような事)の真似事をしないとやっていけないのじゃよ、とシゲさんは笑っていたね。
「ゴロー、今の時間あまり大きな声を出すでない」
「ぁ……」
シゲさんにそう言われ慌てて口元を片手で塞ぐ。
「まだ寝ている娘がおるからの、すまんが頼むな」
「そうですよね。すみません」
入退室の時はキチンとしないと注意されてたから
、つい用務員時代のクセで大きな声を出してしまった。
シゲさんが俺の肩をポンポンと叩くと、コジュウさんからも頭をポンポンと叩かれた。ドンマイってことらしい。次からは気をつけよう。
あたり前だけど建物内はとても静かだ。シゲさんの言う通り、今の時間は寝ている女性が多いのだろう。ホント申し訳ない。
薄暗くてしっかりとは見えないけど、通路にはふかふかの絨毯が敷かれていて高級娼館って感じがする。
建物も新しいし……って俺がリペアしたんだった。
でもな……ちょっと埃っぽいのでクリーンもかけておこう。
——これでよし。
元用務員の俺にはピッタリのスキルだよ。
オーナーにはお世話になっているっていうのもあるけど、クリーンが使えるようになってから埃や汚れが気になるようになったんだよね。
それに、シュバって綺麗になる感じがとてもスッキリしてストレス解消にもいい。
「ゴロー、お前……まあいいけど」
「よいよい」
コジュウさんからは呆れた顔を向けられたけど、シゲさんは笑っているから大丈夫。
クリーンスキルを使いながら通路を進んでいくと、
——あれ?
ある一角に違和感を感じて、そちらに意識を向ければクリーンスキルとケアスキルとライトスキルが必要だという感覚がある。
——ええ? 3つもスキルを使うって何ぃぃ、ひぅ!?
考えるのを一時中断。違和感わ覚えた辺りにモゾモゾと黒い何かが蠢いているじゃないか。
——あれはGか? Gなのか? この世界にもいるのか?
初めてみたけど……なんかデカくない? ネズミくらいのサイズがあるけどなんであんなところに……? はっ、もしかして、元々壁の穴の中に住み着いていたのに俺がリペアで修繕したから押し出されて出てきたとか?
「む」
シゲさんは気づいていないようだけど、コジュウさんはキョロキョロとして辺りを警戒している様に見える。
たぶんコジュウさんはアレの気配を感じとっているっぽい。場所は特定できていないようだけどって、あれ? あの黒いヤツ、なんか透けてるような……おお、オバケ!? Gっぼい幽霊なのか!
——怖い。怖すぎる。
3つ同時に使う必要があるから使えるか疑問だったけど、とりあえずクリーンスキルとケアスキルとライトスキルを同時に使ってみた。
今はジッとしているけど突然動き出してこちらに襲いかかってくるかもって考えたら、怖くて堪らなかったのだ。
——クリンライトケア。G霊退散! G霊退散!
不思議と使おうと思った途端スキル名がするっと出てきて、次の瞬間には、黒いG霊がスッと消えるようにいなくなった。
——消えた……
あれはなんだったんだ? もぞもぞ蠢いているように見えたのは俺の恐怖心が見せた幻という可能性も……いや、でも3つも同時にスキルを使ったし……
チラリとコジュウさんの方に視線だけを向ければ、すでに何事もなかったかのように歩いている。
まあいいや、とりあえずG霊って事にしとくか……と思ったところで、ふと、レイラさんやアイナさんから黒い魔物が増えているから、見かけたらすぐに逃げるようにと念を押されていたことを思い出した。
けど、魔物が俺のスキルで消せるはずないから関係ないヤツだろう。
——帰ったら魔物図鑑でも見てみようかな。
そんな事を思いつつ再びクリーンをかけながら歩く。すると、
——ん?
通路の突き当たりにある部屋の前に怖そうなお兄さんを2人も発見した。
「どうぞ」
俺たちに、というか、シゲさんにだね。シゲさんに気づいた怖いお兄さんたちが深々と頭を下げてからドアをサッと開けてくれた。
——ん?
よく見たら外で見かけた怖いお兄さんたちのリーダーっぽい人だったよ。先回りしていたらしい。
「うむ、失礼するぞい」
「「はっ」」
「……失礼します」
「失礼する」
シゲさんは男娼館の管理人だから顔を覚えてもらっているって言っていたけど、本当にそれだけなんだろうか? 疑問は尽きないが、とりあえず今はドアを開けてくれた怖そうなお兄さんたちに会釈してから俺もシゲさんに続いて部屋に入った。
「シュゲイル様、本日はありがとうございます」
——ん、シュゲイル様?
シゲさんに頭を下げた後に俺とコジュウさんに微笑んでくれた女性は、年齢不詳のとても綺麗な女性だった。
質の良さそうなドレスを身につけているけど、そのドレスは胸元は大きく開ているがピッチリとしたドレスだった。おかげスタイルの良さがってそうじゃなくてシゲさんはシュゲイルって言うのか。
「コジュウ様とゴロー様は初めてお会いしますね」
「は、はい」
「まあな」
反射的に返事をしたけど、そんな女性から話しかけられるとは思っていなかったので、緊張して噛んでしまった。
しかし、俺の名前を知っていると思わなかった。
コジュウさんは俺よりも長く勤めているから知っていたとしても不思議じゃないけど、正直驚きである。
ただ男の性なのか、彼女が身動ぎする度に、どうしても開いた胸元から溢れそうになっているお胸に目がいきそうになり、慌てて視線を床に落とす。
——美魔女だ、美魔女がいる。
「オーナーよりこの娼館の管理を任されおりますシエラと申します。今後ともよろしくお願いします」
ちょっとした仕草が色っぽくてドキドキが治らないけど、口調はとても穏やかで人の上に立つ人の雰囲気というか、落ち着いた人の雰囲気があって接しやすそうだと思ってしまったが、俺は分かってしまった。彼女が女性特有の病気を罹っていことを。しかもかなり悪いやつ。
あまり辛そうに見えないのは、この世界には回復魔法の他にも回復ポーションなんてものもある。完全に治せなくても、それらを使うことで進行を遅らせたり症状を軽くしたりできるからかも(奴隷商でお世話になっている奴隷商人から時に教えてもらった)。
「こちらこそ。あ、あの、よろしくお願いします」
挨拶のついでに左手を前に出して握手を求める。
普段の俺なら恥ずかしくて握手なんて求めないが、この機会を逃したら彼女に触れる機会はもうないだろうと思ったのだ。
「あら、ふふ。これはご丁寧にありがとうございます」
少し驚いたように見えたけど、すぐに笑みを浮かべて応えてくれたので両手で握手を交す。
もちろん、その瞬間にケアスキルを使うんだけどね。
——あ……
灯りが照らされているとはいえ室内は少し暗く、館長さんのお胸や下腹部あたりが一瞬だけど、うっすらと光ってしまった。
——やばい……バレたかも。
目を見開いている館長さん。こっそりやるつもりだったのに、すぐにでもこの場から逃げ出したくなったが逃げる訳にはいかない。
背中に大量の汗を流しながら、ケアスキルを使ったことに触れずに館長さんから素早く離れる。
なんならシゲさんの後ろにまで下がっておこう。
コジュウさんの視線が横からバシバシ刺さって痛かったので、つい我慢できずに小声で「館長さんがすごい美人さんだったから柄にもなく握手をしてもらいました」って言い訳をしたら、ため息をつかれてしまった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




