第12話
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無事に? 館長さんとの挨拶を終え指定された場所に寝具を運ぶ。
「よし、頑張ろう」
心のどこかで建物を勝手に修繕したことを咎められるんじゃないかとビクビクしていた俺。何事もなくホッとしている。
「ふん」
コジュウさんは一見不機嫌そうに見えるけど、これはいつものことだ。
そんなコジュウさんは一番重い寝具を1人で軽々しく担いで建物の中に入っていく。
「絵になるねぇ」
冷たそうに見えるけど実は優しい。顔もいいし、とても頼りにもなるから女性客からもモテモテだ。
「なんだゴロー、ゴローはおなごよりもそっちに興味があったんじゃな?」
「いやいや、それはないです。かっこいいとは思いますけど俺は女性にしか興味ありませんよ」
「そうなのか?」
「そうですって、そんな事よりもシゲさん、俺こっち待ちますからね」
「あいよ」
シゲさんに揶揄われつつ今から運ぶ寝具の側に立つ。
残念ながら、俺は力がないからシゲさんと協力して運ぶしかないんだよね。
——ひっ!?
外にいた怖いお兄さんたちが突然動き出したかと思ったら、残りの寝具を担ぎだした。
どうやら手伝ってくれるらしい。おかげさまで、荷台があっという間に空になったよ。
——おお。
つまり、今抱えている寝具を運んでしまえば作業は終わりってのとだ。手伝ってくれてありがとうございます。
それで寝具を運び込む先は金の間、銀の間、銅の間とある中の銅の間だった。
部屋数、利用客、共に一番多い部屋で利用金額もリーズナブル。
——あれ? という事は娼館では指名料だけでなく部屋代もかかるのか?
たぶん、かかるのだろう。
男娼館では部屋の利用料金なんて発生しないけど、知らないだけで娼館と男娼館では結構違いがあるようだね。
「ゴロー、遅いぞ」
絨毯の敷かれた通路をしばらく進むと部屋の前でコジュウさんが待っていた。
両手が塞がっているからドアを開けられなかったらしい。
「すみやせん、どうぞ」
寝具を床に置いてからドアを開けようとしたら、俺よりも先に怖いお兄さん一味のひとりが素早くドアを開けてくれた。
顔は怖いけど意外といい人たち。あ、でも、俺から話しかける勇気はないよ。
「こりゃあ、古い方を先に出してからだな」
銅の間は思ったよりも狭く、古い寝具を出してからでないと持ってきた寝具を設置できそうにない。
「任せてくだせぇ」
それも怖いお兄さん一味の人が動いて部屋から出してくれたんだけど、見た目通り、大雑把な性格の方たちのようで、部屋の壁やドアにガンガンぶつけていたよ。
「お前ら慎重に運ばねぇか!」
すぐにシゲさんからお叱りを受けて震えていたけど、あんな怖そうなお兄さんたちを怒れるシゲさんはやっぱり只者じゃないね。
傷つけた壁やドアは俺がリペアスキルで直せばすぐに終わった。
ついでだから、塗料を塗って誤魔化しているけど、あちこち痛んでガタがきている運び出した寝具も直しておこう。
廃棄するって聞いていたけど、直しておけば、いざという時に使えるからね。
「ゴローお前、よく直せるな」
またもやコジュウさんから呆れた顔をされたけど今回は、またか、というような感じじゃなかった。
不思議に思って首を傾げているとコジュウさんがその理由を教えてくれた。
リペアを使って何度も修繕していると魔力の残骸のようなものが残りリペア魔法自体が効きづらくなるらしいとの事だと。知らなかったよ。
そして、塗料を塗って見た目を誤魔化しているこの寝具はリペアが効きづらくなっていた物だった。
ここまでの物になると、もともと魔力の消費が激しい生活魔法での修繕費用は高い傾向にあるようだが、それがさらに割増となるため買い替えた方が安くつくそうなのだ。
俺が普通に直せたのはたぶんスキルだからかも。スキルだから魔力の残留も関係ない。なんか得した気分だね。
「もしや、先ほど建物を修繕して下さったのもあなた様で?」
「ひっ」
突然背後から声をかけられて肩が跳ねる。反射的に振り向いたら怖い兄さん(リーダーっぽい人)の顔が間近にあってさらに驚き、こくこくと頷くだけで精一杯だった。
「何か変な魔法でもかけられたんじゃないかと、警戒して失礼な態度をとりやしたが、あなた様が修繕して下さったんでやすね」
リーダーっぽいお兄さんのくいっと顎を突き出す無言の合図で、怖いお兄さん一味が俺に向かって一斉に頭を下げてきた。90度に腰を曲げたすごく丁寧なやつだ。
しかし、怖そうな人たちに頭を下げてもらっても俺には怖いだけだ。やめてください。
「た、大したことしてませんのでどうか頭を上げてください……
勝手に修繕した俺も悪いですから。ホント変な心配をさせてしまってすみません」
——って、なんで頭を上げてくれないの?
「これこれ、あまりゴローを困らせるでない」
反省しているように見えるお兄さんたちは、シゲさんが間に入ってくれて漸く頭を上げてくれた。助かった。
残りの寝具も同じように入れ替えて、そのついでにリペアで修繕して終了。
「ふむ。では帰るかのお」
「そうですね」
——忘れ物は……なし、っと。
用務員時代のクセでやっちゃうんだけど、悪い事をしているわけじゃないからいいよね。
館長への挨拶は不要なのでさっさと帰ろう。
ここは雰囲気もそうだし甘い香りも漂っているから変な気分になっちゃいそう。
——レイラさんとアンナさん。今日も来てくれるかな……
そんな事を考えつつ娼館の裏口までたどり着いたはいいが、おや?
館長さんと綺麗な感じの女性が数人立っている。
その内、何人かは隣の人に支えられてやっと立っている状態。すごく体調が悪そうだ。いや、元気そうに見えるあの子も、その子も……この場にいる女性はなんらかの病に罹っていることがすぐに分かった。
やっぱり館長さんにはバレていたらしいね。
「本日はありがとうございました」
でも館長さんはお礼だけを述べて頭を下げるだけ。他の女性もそうだ。
男娼館でもそうだが、娼館でも暗黙の了解というものがあるからだろう。
自分の事を話すのはいいが他人の事は御法度。これは自分の身を守るためでもあるのだ。その辺りの事はすぐに教育されからね。
「では失礼するぞい」
「またな」
シゲさんとコジュウさんはさっさと建物から出て行ってしまったけど……
「俺ゴローって言います。男娼館は飲食もできますので今度遊びに来てくださいね」
俺はひとりひとり握手をしてから外に出た。
ここの人たちはケアスキルで治せる。それが分かっていて無視することができなかったのだ。たとえ利用されていると分かっていたとしても……
「あ、ありがとうございます」
だって、涙を流しながら感謝されるんだ。用務員時代にはどんなに頑張ってもできなかったこと、感謝だってあまりされたことがない。
だから、ついやっちゃうんだよね。
「あれ、コジュウさん?」
「ったく、帰るぞ」
馬車に乗っていると思ったけど、コジュウさんは建物を出てすぐ側の壁に背を預けて待っていてくれたようだ。でも、やっぱり呆れたような顔をしていた。
でもいいんだ。自分なりにいい事をしたつもりだし、シゲさんからは馬車の動かし方(御者)を習ったしで(まだ練習が必要なレベル)、とても充実した一日になったと思う。
ちなみに、次の日から館長さんを含めた数人の女性(握手をした女性)が休日を利用して交代で男娼館に通ってくれるようになるのだが、この時の俺はまだ知る由もない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。




