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西郷吉之助の帝国と音速の魔女  作者: のなしげ


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【現代異世界編】ちいちゃんの32歳異世界魔法大学デビュー1

「私はウーロン茶」


「みんなはお湯割りか、ロック」


千尋は酒が飲めない。


酒豪だらけのサツマ帝国では、非常に珍しい存在だ。


「それでは、ちいちゃん先生と菊池西郷技官の第三子――新型対潜箒の開発開始を記念して! カンパーイ!」


「ちょっと待って。第三子って何?」


千尋が尋ねた。


「第一子があやちゃん、第二子が『ほき‐27』で~す」


「兵器を人間の子供と一緒に数えないで」


「では、第三子の開発開始を記念して!」


「話を聞いて」


「カンパーイ!」


*


七年前。


低酸素状態のまま源吾へ求婚した事件の後、千尋は、この世界の常識をあまりにも知らなさすぎるという理由で、魔法大学へ特別留学生として入学した。


一度日本へ戻り、なんやかんやと必要な手続きを済ませてサツマ帝国へ帰還。


大学一年生として半年間学んだ後、再び日本へ戻り、それからもう一度サツマ帝国へ渡って源吾と結婚した。


対潜箒乗り兼、対潜技術教官として勤務しながら、第一子のあやちゃんを出産。


ほどなく箒乗りと教官へ復帰し、源吾による新型対潜箒開発にもアドバイザーとして参加した。


そこで完成したのが、現在のサツマ帝国海軍における主力対潜箒――『ほき‐27』である。


そのため対潜箒乗りの間では、


『ほき‐27』は源吾と千尋の第二子である――


というのが、半ば常識になっていた。


その後、千尋は魔法大学へ対潜技術教官として赴任。


教え子の中には、一年生時代の同級生たちもいた。


そのため、非公式の場では皆から「ちいちゃん先生」と呼ばれている。


今夜集まった五人は、いずれも箒乗りか潜水艦乗りだ。


対潜箒や対空箒で空を駆ける者もいれば、潜水艦で海へ潜る者もいる。


現役を離れている者も含め、それぞれの場所でサツマ帝国を守っていた。


そして現在。


「教官として、みんなの前に立ったときは気まずかったわ」


「みんなも『んだもしたん、ちいちゃんだ、ちいちゃんだ』と、あのときはたまげたわ」


手にお湯割りを持った一人が言った。


「まさか千尋三佐のクラスメイトになったうえに、教官として教えを乞うことになるなんて。ちいちゃん先生が私の後ろで気絶したときの自分に聞かせたら、きっと気絶するでしょう」


千尋はすでに日本国の自衛隊を退職しているため、もう三佐ではない。


それでも、この世界で千尋を「三佐」と呼ぶ男が一人だけいる。


中村平八少佐。


魔法大学で学び直し、現在は対潜箒部隊の指揮を任されている。


千尋にどこか音速の魔女の面影を感じながらも、その正体には気づかず、今なお音速の魔女を探し続けている男である。


しかし、彼は軍から魔法大学の三年次へ編入してきたため、千尋と同級生だった時期はない。


もちろん、ここにいる全員がその事実を知っている。


だが、わざわざ突っ込む野暮な者はいない――はずだった。


「あんたとクラスメイトになった覚えはないわよ」


ウーロン茶を片手に、野暮な突っ込みを入れる千尋。


シラフである。


「では、帝都魔法大学第125期生、対潜箒クラス全員の出世と安全と武運と、ちいちゃん先生の幸せを願って、カンパーイ!」


正確には数えていないが、おそらく五回目ぐらいの乾杯を始めたのは、シトコだった。


北海貴族、ユジュヌィ・オストロフ家の長女。


現在、千尋が教官を担当しているクリオの姉でもある。


飲ん方(のんかた)の席では明るく振る舞う彼女だが、クラスメイトとして千尋と初めて会ったころは、高飛車で、まさに悪役令嬢という雰囲気だった。


第一印象は最悪。


千尋が、


「あやちゃんは源吾の実家である貴族のお屋敷から離して、こぢんまりとした家で育てよう」


と誓ったきっかけの一人でもある。


現在は箒乗りの夫を婿養子に迎え、自身は箒を降りて育児休暇中だ。


魔法大学一年生のころと比べれば、ずいぶん丸く――まともになった。


おそらく、千尋の影響も大きい。


「次の箒は、どんな感じです?」


機密ゆえ答えられるはずもない質問を繰り出したのは、キノカワ・ミミ。


サビトラ柄の猫獣人で、紀州島の貴族・キノカワ家のご令嬢。


そして、千尋をモフリストへ育て上げた元凶である。


現在は地元の紀州島で、対空箒部隊を率いている。


自らの権限を使って無理やり帝都出張を作り出し、千尋にモフられるため、愛機で音速を超えて駆けつけた。


帰ったら怒られるかもしれない。


しかし偉い人たちも、ミミが『菊池西郷家ご婦人のモフられ担当』であることを知っている。


この最強のカードがあるため、ミミは何も心配していなかった。


「対空箒なんか瞬殺よ」


千尋は適当な返事をした。


「それは、ちいちゃん先生が乗っているからでしょ」


そう突っ込んだのは、片平ひな。


不平士族の家系であり、代々陸軍軍人を輩出してきた家に生まれながら、突然変異的に箒乗りとなった人物だ。


冷静な突っ込み能力は、対潜箒の任務中にも存分に生かされている。


同期の中では対潜戦闘演習首席。


千尋自慢の教え子の一人だ。


「それは楽しみですね。今度は逃げ切りますよ」


そう語ったのは、野間中佐。


帝国海軍フカ級攻撃型潜水艦『ネコブカ』の艦長を務めている女性だ。


一年前、クラーケンに襲われたところを千尋に救われた。


初代皇帝西郷の教えにより、性別も種族も問わない実力主義を掲げる帝国軍にあっても、女性の潜水艦乗りは珍しい。


まして艦長ともなれば、なおさらだった。


かなり背が高く、聞くところによると、しょっちゅう潜水艦の中で頭をぶつけているらしい。


「いや、お前は私から逃げ切る前に、イカから逃げ切れよ」


「あ、はい」


野間の撃沈判定が、また一つ増えた。


あの事件以来、多くの部下と自分自身を救ってくれた千尋には、ますます頭が上がらない。


帝国海軍では、箒乗りと潜水艦乗りの交換研修が盛んに行われている。


潜水艦乗りとして適性のある者は、箒乗りとしての適性も備えていることが多い。


どちらも、繊細な魔法制御能力を必要とする職種だからだ。


さらに魚雷という共通の兵器を主な攻撃手段とする以上、魚雷の設定や攻撃魔法の封入など、共通する技能も多い。


今後も、野間の撃沈判定は積み上がっていきそうだった。

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