【明治編】還ってきた西郷11
ここは、仙巌園、吉野の島津邸
西郷と大久保が二人で20年ぶりの会話をしているころ
大山がとんでもないことを口走る
「なあ、ミケどんを撫でてみてもよいかの」
「おい!」「ダメじゃ」「「おいやめろ」」
川路、吉野の若、勝、別府が一斉に叫ぶ。
「何を、いっちょる、吉之助さあの従者じゃぞ」
川路が大山を睨みながら言う。
「いや、猫じゃ」
応接室の障子が開く
「おい、別府、東郷、ちょっとこい、入れ」
大久保が二人を呼んだ
「「はっ」」
*
「二人とも座れ」
大久保は別府と東郷を座らせる。
「別府、吉之助さあについて行け」
「…は、はい?」
「吉之助さあの国がどんなものか、その目で見てこい、そして報告しろ」
「はっ。」
「別府どん、おじゃったもんせ、おいどんの国へ」
「……承知しもした」
*
「それから東郷」
「はっ」
「英国へ行け」
「おまえ、英国留学を願い出ておったな。嘆願書は受け取った」
大久保は淡々と言った。
「海軍に、私から口を挟むつもりはなかった。じゃっどん、事情が変わった」
「事情、でありますか」
「留学しろ。表向きは、海軍と造船技術の勉強じゃ」
「ありがたいお言葉です。ですが……表向きは、と申しますと」
「平八郎どんには、この手紙を届けてほしか」
西郷は懐から手紙を取り出す。
「宛先は」
「トマス・グレイどんの弟じゃ。英国におる」
「英国政府、英国海軍、在日公使、新聞。どこにも知られてはならん」
大久保が続ける
「極秘任務、ということでありますか」
「そうじゃ」
「この任務ができるのは、おはんしかおらん」
*
「ふう」
応接室から出てきた別府と東郷は、同時に息を吐いた。
「東郷どん、念願の英国留学、おめでとうございもす」
「いやいや、別府どのこそ。異国の大使ではありませんか」
二人は顔を見合わせ、思わず笑った。
大山が、川路に声をかける。
「川路どん、ミケどんは良い猫じゃ」
「「ダメじゃ」」
勝と、吉野の若が叫ぶ。
「いや、まだ何も言うちょらん」
「「「「ダメじゃ!」」」」
東郷と別府は大笑いしながら、加わる。
「ミケどんに斬られもすぞ」
「猫に斬られるか」
「斬られそうな猫でごわす」
*
「次は川路どんじゃ」
その時、応接室の中から声がした。
「川路」
大久保の声だった。
川路はすぐに表情を戻した。
「はっ」
「入れ」
川路が応接室へ入る。
*
「川路そこに座れ」
「はっ」
「明治政府に不満を持つ不平士族の名簿を作れ」
「どの程度まで、でございもすか」
「火を噴きそうな者。西郷の名で動きそうな者。鹿児島だけでなく、全国じゃ」
「……承知しもした」
「同時に聞け」
「南米へ、家族ごと移れる道があるなら行くか。土地があり、役目があり、刀を抜かずに生きられる場所があるなら、どうするか」
「まさか」
西郷が、静かにうなずいた。
「察しがよか。さすがじゃ、川路どん」
「吉之助どんの国へ、送るおつもりでごわすか」
「送るのではなか」
西郷は言った。
「迎える」
「日本では、もう士族が暴れられる時代ではなか。じゃっどん、役目を失った者を、そのまま捨て置け
ば血が流れる
おいの国には、人手が要る。兵を鍛える者、教える者。役目はいくらでもある」
「危険でございもす」
「不平を抱えた士族をまとめて異国へ送れば、そのまま火種を運ぶことになりもす」
「分かっちょる」
「じゃっどん、日本で燃えるよりはよか
川路。これは表には出せん」
大久保が言う
「承知しておりもす」
「まずは名簿じゃ。誰が本当に危ういか。誰が家族を連れてでも新天地へ行く覚悟があるか。それを見極めろ」
川路は深く頭を下げた。
「承知しもした」




