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西郷吉之助の帝国と音速の魔女  作者: のなしげ


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91/112

【明治編】還ってきた西郷11

ここは、仙巌園、吉野の島津邸


西郷と大久保が二人で20年ぶりの会話をしているころ


大山がとんでもないことを口走る

「なあ、ミケどんを撫でてみてもよいかの」


「おい!」「ダメじゃ」「「おいやめろ」」

川路、吉野の若、勝、別府が一斉に叫ぶ。


「何を、いっちょる、吉之助さあの従者じゃぞ」

川路が大山を睨みながら言う。


「いや、猫じゃ」




応接室の障子が開く


「おい、別府、東郷、ちょっとこい、入れ」


大久保が二人を呼んだ


「「はっ」」


*


「二人とも座れ」


大久保は別府と東郷を座らせる。


「別府、吉之助さあについて行け」


「…は、はい?」


「吉之助さあの国がどんなものか、その目で見てこい、そして報告しろ」


「はっ。」


「別府どん、おじゃったもんせ、おいどんの国へ」


「……承知しもした」


*


「それから東郷」


「はっ」


「英国へ行け」


「おまえ、英国留学を願い出ておったな。嘆願書は受け取った」


大久保は淡々と言った。


「海軍に、私から口を挟むつもりはなかった。じゃっどん、事情が変わった」


「事情、でありますか」


「留学しろ。表向きは、海軍と造船技術の勉強じゃ」


「ありがたいお言葉です。ですが……表向きは、と申しますと」


「平八郎どんには、この手紙を届けてほしか」


西郷は懐から手紙を取り出す。


「宛先は」


「トマス・グレイどんの弟じゃ。英国におる」


「英国政府、英国海軍、在日公使、新聞。どこにも知られてはならん」


大久保が続ける


「極秘任務、ということでありますか」


「そうじゃ」


「この任務ができるのは、おはんしかおらん」


*


「ふう」


応接室から出てきた別府と東郷は、同時に息を吐いた。


「東郷どん、念願の英国留学、おめでとうございもす」


「いやいや、別府どのこそ。異国の大使ではありませんか」


二人は顔を見合わせ、思わず笑った。


大山が、川路に声をかける。


「川路どん、ミケどんは良い猫じゃ」


「「ダメじゃ」」


勝と、吉野の若が叫ぶ。


「いや、まだ何も言うちょらん」


「「「「ダメじゃ!」」」」


東郷と別府は大笑いしながら、加わる。


「ミケどんに斬られもすぞ」


「猫に斬られるか」


「斬られそうな猫でごわす」


*



「次は川路どんじゃ」


その時、応接室の中から声がした。


「川路」


大久保の声だった。


川路はすぐに表情を戻した。


「はっ」


「入れ」


川路が応接室へ入る。


*


「川路そこに座れ」


「はっ」


「明治政府に不満を持つ不平士族の名簿を作れ」

「どの程度まで、でございもすか」


「火を噴きそうな者。西郷の名で動きそうな者。鹿児島だけでなく、全国じゃ」


「……承知しもした」


「同時に聞け」


「南米へ、家族ごと移れる道があるなら行くか。土地があり、役目があり、刀を抜かずに生きられる場所があるなら、どうするか」


「まさか」


西郷が、静かにうなずいた。


「察しがよか。さすがじゃ、川路どん」


「吉之助どんの国へ、送るおつもりでごわすか」


「送るのではなか」


西郷は言った。


「迎える」


「日本では、もう士族が暴れられる時代ではなか。じゃっどん、役目を失った者を、そのまま捨て置け

ば血が流れる

おいの国には、人手が要る。兵を鍛える者、教える者。役目はいくらでもある」


「危険でございもす」


「不平を抱えた士族をまとめて異国へ送れば、そのまま火種を運ぶことになりもす」


「分かっちょる」


「じゃっどん、日本で燃えるよりはよか


川路。これは表には出せん」


大久保が言う


「承知しておりもす」


「まずは名簿じゃ。誰が本当に危ういか。誰が家族を連れてでも新天地へ行く覚悟があるか。それを見極めろ」


川路は深く頭を下げた。


「承知しもした」


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