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異世界の貴族に嫁入りした海自パイロット、魔法大学で潜水艦狩りを教えています なお旦那は初代皇帝西郷隆盛の玄孫です。  作者: なたろう


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【明治編】還ってきた西郷3

島津玉里邸。


「海軍練習艦春日丸と接触した、海坊主のような不審船より男が現れました」


鹿児島鎮台からの使者が、膝をついて報告する。


「男は、異国の王、西郷吉之助を名乗っております」


部屋の空気が、わずかに揺れた。


「さらに、内務卿大久保利通殿との面会を要求しているとのこと」


島津久光は、しばし黙っていた。


そして、喉の奥で笑った。


「ふははは」


使者が顔を上げる。


「京で大久保が聞いた声は、幽霊ではなかったか」


久光は、愉快そうに扇を閉じた。


「面会なされますか」


側近が問う。


久光は、鼻で笑った。


「なぜワシから出向かねばならん」


「は」


「その異国の王とやらは、大久保に会いたいと言うたのであろう。ワシへの面会要求はない」


久光は、庭の方へ目を向けた。


「異国の王が会いたいと言うなら、会うてやってもよい」


そして、ゆっくりと言った。


「ただし、玉里へ来たらの話じゃ」




仙巌園。


島津重工業、タグボート船着き場。


「海軍練習艦春日丸と接触した、海坊主のような不審船より、男が現れました」


鹿児島鎮台からの使者が、息を整えながら報告する。


「男は、異国の王、西郷吉之助を名乗っております」


「さらに、内務卿大久保利通殿との面会を要求しているとのこと」


吉野の若は、その報告を聞きながら、タグボートのボイラーに火を入れていた。


石炭をくべる音がする。


蒸気圧計の針が、ゆっくりと上がっていく。


「報告ご苦労」


若は、あまりにも軽く言った。


「ちょっと、今から会ってくる」


使者が目を見開いた。


「は?」


「海坊主の中を、見せてもらってくる」


「若様、それは……」


「異国の王じゃろうが、西郷吉之助じゃろうが、金属製の海坊主が錦江湾に浮かんだんじゃ」


若は、楽しそうに笑った。


「見に行かん理由がなか」


「あなた」


お鶴が声をかけた。


止めても無駄だと、分かっていながらの声だった。


「大久保卿を待たれた方が」


「大久保が来る頃には、誰かが先に中を見ちょる」


「そういう問題ではありません」


「そういう問題じゃ」


若は、タグボートの舫い綱を外しながら言った。


「お鶴、子供たちを頼んだ」


お鶴は、小さくため息をついた。


「はいはい。西郷様より先に、海坊主に惚れ込まないでくださいませ」


「それは約束できんな」


タグボートの煙突から、黒い煙が立ち上がった。


船には、朝から叩き起こされた写真技師。


数名の島津重工の技師。


測量器具。


帳面。


工具箱。

そして、料理人に作らせた大量のカステラが積まれていた。


「若様、なぜカステラまで」


技師が尋ねる。


吉野の若は、舵輪を握ったまま答えた。


「吉之助さあは、甘かもんが好きじゃった」


「それで、カステラでございますか」


「知らん。昔から好きだったかは分からん」


若は、錦江湾に浮かぶ黒い海坊主を見た。


「じゃっどん、二十年ぶりに薩摩へ帰ってきた男に、まず出すもんが説教と尋問だけでは、あまりにも味気なか」



「若様、これは外交でございますか」


技師の一人が、不安そうに尋ねた。


若は、錦江湾に浮かぶ黒い海坊主を見ながら答えた。


「外交でもある」


「では、軍事でございますか」


「軍事でもある」


「では、何でございますか」


若は、にやりと笑った。


「見学じゃ」


タグボートは、朝の錦江湾を白く割って進んでいく。


これより、異国の王との第二接触が始まる。

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