【現代異世界編】いや、嫁ではない。1
不思議な飛行艇のような乗り物で連れてこられた先は、物凄く大きな屋敷だった。
屋敷、というより、もはや施設である。
敷地は小学校より広い。
門から母屋までが遠い。
庭は手入れされすぎていて、どこかの観光名所のようだった。
千尋がこれまでに見たことのある大豪邸といえば、アニメか漫画か映画の中だけである。
だが、目の前には現物があった。
しかも、お出迎えがすごい。
すごい、というか、怖い。
玄関前には、数十人の使用人がずらりと並んでいた。
その中央に立っているのは、おそらく源吾の両親と思われる男女である。
二人とも、どこか源吾に似ていた。
つまり、顔がいい。
腹が立つ。
源吾が一歩前に出て、深く頭を下げた。
「ただいま戻りもした」
すると、源吾の父と思われる男が、満面の笑みを浮かべた。
「源吾、オヤットサーじゃ。もぜかおなごも連れてきて、さすが、よかにせじゃ」
源吾の母と思われる女性も、うんうんとうなずく。
「ほんのこて、もぜかお嬢さんじゃ。よう来やったなあ」
その口から放たれるのは、当然のような鹿児島弁だった。
千尋は、しばらく黙った。
異世界に来た。
箒が飛んでいる。
犬耳の軍人がいる。
魔力があるらしい。
そして、目の前の大豪邸で、源吾の両親らしき人たちが鹿児島弁で嫁扱いしてくる。
情報量が多い。
多すぎる。
千尋は、ひとまず一番大事なところだけ訂正することにした。
「いや、嫁ではない」
源吾の母が、にこにこと笑った。
「あらまあ、まだ、でごわすか」
「“まだ”でもありません」
父の方も豪快に笑った。
「よかよか。源吾が連れてきたおなごじゃ。家の者として大事にせにゃならん」
「家の者でもありません」
「遠慮せんでよか」
「遠慮ではなく、事実確認です」
源吾が横で、少し困ったように笑っていた。
千尋は、その顔を見て思った。
まずこの男を締めよう。




