【現代異世界編】たいげい型潜水艦なんげい4
千尋は、なんげいの甲板から周囲を見渡した。
箒に乗り、刀を二本差した人間が、こちらへ手を振っている。
千尋は思わず手を振り返した。
さらに上空には、旅客機と思われる大型機が、飛行機雲を引きながら飛んでいる。
箒。
刀。
犬耳の軍人。
旅客機らしき大型機。
鹿児島に似た、しかし鹿児島ではない港町。
情報量が多い。
多すぎる。
だが、千尋の頭の中は、すでに箒で空を飛ぶことでいっぱいだった。
なんげいは、これから秘密ドックへ入港するらしい。
表向きには、千尋と源吾は台湾には行けないため、錦江湾の海上で降りた、という扱いになるそうだ。
設定、雑ではないだろうか。
そんなことを考えていると、艦長が甲板へ上がってきた。
大山元帥と呼ばれた男が、艦長へ向き直る。
「では、客人をよろしく頼む。迎えは半年後じゃ」
「え? 半年?」
思わず千尋が口を挟んだ。
大山元帥が、こちらを見る。
「おっと。もっと早く帰りたいかね?」
「いえ」
千尋は、箒を指さした。
「あの箒と」
次に、湾に近づいてくる飛行艇のような乗り物を指さした。
「あの飛行艇と」
最後に、上空の旅客機らしき大型機を指さした。
「あの飛行機も操縦するまで、帰れません」
大山元帥は、少しだけ目を丸くしたあと、豪快に笑った。
「それなら大丈夫じゃろう。報告書を見る限り、君ならあっという間に覚えるでごわす」
千尋の頭の中では、すでにイメージトレーニングが始まっていた。
箒の重心。
飛行艇の推進方式。
大型機の操縦系統。
「そうですか。大山元帥、私の訓練へのご協力、感謝いたします」
「いや、感謝するのはこちらじゃ」
大山元帥は笑った。
「こちらの飛行魔法使いたちに、潜水艦の狩り方を教えてもらいたくてね」
「え? 私が先生です?」
その時、湾の向こうから、不思議な乗り物が近づいてきた。
飛行艇のような形をしている。
だが、翼の形も、推進音も、千尋の知っている航空機とは違った。
水面を滑るように降下し、白い飛沫を上げて着水する。
そして、なんげいのすぐ近くまで接近してきた。
飛行艇から、小太りの眼鏡の男が、なんげいの甲板へ乗り移ってくる。
スーツ姿。
年齢は五十代、いや六十代くらいだろうか。
妙な角刈り。
一般的には、親しみやすそうなおじさんである。
テレビ局でローカルタレントをやっていそうな雰囲気だった。
「やあ、吉野千尋三佐」
小太りの眼鏡の男が、軽く敬礼した。
「この世界にいる、たった二人の日本人――いや、鹿児島出身者と言うべきかな。これから色々とサポートするよ」
男は、にこりと笑った。
「防衛省、特別武官の玉利だ。よろしく頼む」
標準語だが、鹿児島訛りがあった。
千尋は反射的に敬礼を返した。
だが、視線はすでに別のところを向いている。
不思議な飛行艇。
いや、飛行艇のような何か。
千尋の興味は、完全にそちらへ移っていた。
「「これも、私が操縦できますか?」
千尋は、操縦席にいるパイロットへ真顔で尋ねた。 パイロットは笑った。
「はは。魔力があれば、問題ないでごわす」
魔力。
千尋は、その単語を聞いた瞬間、固まった。
つまり。 魔力がなければ、乗れない。 箒も。 この飛行艇も。 自分には飛ばせない可能性がある。 千尋は、異世界に来てから初めて、本気で絶望した。
「……魔力がないと、飛べないんですか」 源吾が、横で楽しそうに笑った。
「ははは。心配はいりもはん」
「何がですか」
「千尋の魔力なら、簡単でごわす」
千尋は、ゆっくりと源吾を見た。
「私に、魔力があるんですか」
「ありもす」
「どのくらい」
源吾は、少しだけ間を置いた。 そして、実に楽しそうに言った。
「初代皇帝レベルには。」
「ん…。西郷吉之助? 例えが分からないわ」
謎の乗り物のパイロットが驚愕している。 玉利が答える、
「核爆発級の魔法を放てますよ、潜水艦の重量も、5隻は空に浮かべれるかと」
「ちょっと待って私、モンスターみたいな化物じゃないか」
「魚雷でラプターを落とした時点で、少しは自覚を持ってください」
「それはシミュレーターのバグです」
「普通の人間は、バグを見つけても魚雷でラプターを落としません」
「……」
「それに、あの時に観測されたのは、戦術眼だけではありません」
玉利は、また眼鏡をくいっと上げた。
「魔力適性です」
ムカつく。
眼鏡の上げ方が、特にムカつく。
「つまり、私は箒に乗れる?」
「多分乗れます」
玉利が答えた。
「飛行艇は?」
「訓練を受ければ」
「武装は?」
「まだ早いです」
「まだ、ということは、いずれは?」
「吉野三佐」
玉利は、にこりともせずに言った。
「まずは、箒で飛べるようになってから考えてください」
ムカつく。
正論なのが、さらにムカつく。




