【現代編】自称ミネアポリスから来た男5
ここは高見橋、甲突川左岸。
現実世界であれば、大久保利通像が建っている場所である。
しかし、この世界では違う。
そこに建っているのは、大久保利通が建立したとされる、西郷吉之助像だった。
怪しい。
とても怪しい。
自称ミネアポリスから来た、たぶんCIAの男は、その西郷吉之助像の前で、深々と頭を下げていた。
しかも、なにやら小声で語りかけている。
「ひいひい爺様……」
「初代皇帝陛下……」
などと、意味不明な隠語まで混ざっていた。
千尋は、少し離れた場所からそれを見ていた。
西郷吉之助は、三十歳で亡くなった。
その時点で、確かに一度結婚はしていたが、子供はいなかったはずである。
鹿児島市の小学校で教育を受け、自身の先祖をたどれば維新に関わる家にも行き着く千尋は、維新の歴史にはそれなりに詳しいつもりだった。
だからこそ、目の前で行われている光景が、どうにもおかしかった。
これは、なんだ。
二次創作か。
CIAの設定にしては、あまりにも雑ではないか。
千尋はそう思った。
源吾は、完全に自分の世界に入っている。
西郷像の前で、真剣な顔をして、何かを報告している。
あまりにも没入していたので、千尋はそれ以上、触れないことにした。
下手に話しかけたら、もっと面倒な設定が出てきそうだったからである。
続いて二人は、西郷生誕地へ向かった。
そこでも源吾は、地面に額をこすりつけんばかりに頭を下げ、感動に打ち震えていた。
ここまで来ると、さすがに千尋も考えを改めざるを得なかった。
CIAが、こんな雑なことをするだろうか。
しない。
たぶん、しない。
では、何なのか。
千尋は、一つの仮説にたどり着いた。
――こいつ、時代劇で日本語を覚えたタイプだ。
しかも、よりによって鹿児島弁である。
おそらく、幕末薩摩ものの時代劇を見すぎた結果、言語だけでなく精神まで汚染されてしまったのだ。
なるほど。
それなら、この言動にも説明がつく。
つかない気もするが、CIAよりはまだマシだった。
千尋の中では源吾のカテゴリーがCIAから幕末時代劇大好き外国人(?)へ移動した




