【維新RTA編】超高速大政奉還12
太平次丸から降りた勝海舟は、横須賀へ向かった。
だが、町の様子がおかしい。
妙に人が多い。
漁師、町人、幕府役人。
それに、横浜からやって来たと思われる外国人の姿まである。
勝は近くの町人を捕まえた。
「……おい」
「へえ」
「何でこんなに人がいやがる」
町人が答える。
「へえ。何でも、明日、黒船が二里飛ぶ大砲を撃つとかで」
勝は黙った。
「あいつら……」
そして舌打ちした。
*
二日前、横浜の居留地では、グラバー商会の手の者が、酒場で何気なく話していた。
「三日後の正午、横須賀沖で面白いものが見られるらしい」
「何だ」
「サツマの黒船が、横須賀沖から金沢八景沖へ大砲を撃つそうだ、ジブラルタル、シンガポール、マカオに今度設置されると噂のな」
「金沢八景沖? 横須賀沖?から前に、先週新聞で見たやつか?」
「そうだ。二里飛ぶらしい」
「二里、だいたい9000ヤードか」
外国商人たちは笑った。
笑ったが、見に行くことにした。
商人という生き物は、嘘か本当か分からない儲け話と、嘘か本当か分からない大砲の話が大好きだからである。
*
江戸に噂を流していたのは、薩摩藩士・益満休之助を中心とする別働隊であった。
益満休之助。史実ならば、江戸市中を騒がせ、薩摩藩邸焼討事件の火種となる男である。
だがこの世界で、益満が撒いたのは火ではない。
噂であった。
「三日後、浦賀から金沢八景沖へ、薩摩の黒船が二里飛ぶ大砲を撃つらしい」
その一言は、江戸の町を火よりも早く走った。
その他沢山の薩摩藩士、薩摩の息がかかったものが
関東全体へと噂を流しまくった、
発射当日。
黒船の噂を知らぬ者など、江戸にも横浜にもいなかった。
大久保一蔵は、砲弾を一発しか撃つつもりがなかった。
だが、その一発を、できるだけ多くの目に見せるつもりだった。




