【維新RTA編】超高速大政奉還10 海の手下
勝海舟は浦賀沖沖の太平次丸へ向かった。
「異国の艦隊は、交渉相手に軍艦奉行・勝海舟を指名している」
江戸城からの厳命を受け、勝海舟は小さな小舟で浦賀沖へと漕ぎ出していた。
この段階に至り、幕府の最高層も「あの真っ黒い艦隊は、どうやら異国ではなく薩摩の海軍ではないか」と目星をつけ始めていた。
勝海舟には、その船に見覚えがあった。
かつて見学したことがある。
英国艦隊の旗艦、『ユーライアラス』。
薩摩が英国との戦に勝ったという報告は受けていた。
だが、正直なところ信じてはいなかった。
しかし、目の前に浮かぶこの黒い巨艦を見た瞬間、勝は認めざるを得なかった。
薩摩は本当に、英国の旗艦を奪ったのだ。
「信じられねえ……。あの島国の芋ども、イギリスの化け物(旗艦)を本当に分捕って、自分たちの玩具(手駒)にしやがったのか……!」
勝が太平次丸のはしごを登り切ると
そこには、頭もじゃもじゃの見知った人物が、テーブルに腰掛けている。
「――龍馬。てめえ、いつの間に薩摩の手下になりやがった?」
「先生、そりゃあちくと違います。わしは薩摩の手下になったわけじゃなうて……『海の手下』になったがです」
「海の手下だと?」
「海はいいぞ、と。これからは日本人が世界中の海へ出て、貿易せねばいかんと……そがなことを教えてくれたがは、勝先生じゃき」
「その海の方から、将軍様に大砲を突きつけるのも、海から学んだのか?」
「先生。わしが薩摩に使われちゅうことは、分かっちょります」
龍馬は笑った。
「けんど、船を動かすには、港が要る。金が要る。大砲が要る。国が要る」
勝は黙った。
「先生がわしに海を見せた。けんど、その海へ日本を押し出す船を、本当に作ったのは薩摩やったがです」
「……先生、薩摩の作ったこの大砲、本当にすごかとです。……ちくと、見学されていきますか?
あの船をご覧ください。
薩摩製の軍艦、西郷丸です。大砲は一門だけですが仰角をつけて、射程は2里(7.8キロ)です。
幕府の役人に薩摩側から予告をする、横須賀沖から八景島沖へと大砲を打つというのだ。
横須賀沖と八景島沖から船を明日の正午までにどけろというのだ。
勝海舟は、ようやく理解した。
この艦隊は、江戸を焼きに来たのではない。
江戸を焼けることを、徳川に理解させに来たのだ。




