【維新RTA編】超高速大政奉還8 全艦隊四日後浦賀沖へ
元治元年7月19日の大炎上から数時間後。7月20日の夜明け。
大久保一蔵は、隠れ家で一本の錦の帯を受け取った。
まだ旗ではない。
だが、これを掲げれば、敵はただの敵ではなくなる。
朝敵になる。
後に「錦の御旗」と呼ばれるものの、原型であった。
大久保は激走し、淀川の船に飛び乗った。川を濁流のように下り、大坂湾に出たところで、待機していた薩摩の高速蒸気船『羽白丸』へと滑り込むように移乗する。
羽白丸は白煙を上げ、淡路島の海峡を爆速で踏破。目指すは四国・阿南沖、和歌山湾の境界海域――。
海霧の向こうから、その姿が現れた。
陽光を浴びてなお、光を一切反射しないほど不気味に、船体を真っ黒に染め上げた巨躯。
仙巌園のベッセマー鋼と最新の造船技術、そして密貿易の莫大な資本が生んだ、旗艦『太平次丸』。その後ろには、同じく漆黒に塗られた蒸気船が、波間に合計11隻、一糸乱れぬ陣形でひしめき合っていた。
幕府の目を盗み、洋上に構築された、世界最強の秘密海軍組織の「薩摩海軍」合計12隻の大艦隊だ。
*
大久保が羽白丸から旗艦『太平次丸』の甲板へと移乗すると、そこにはすでに、薩摩藩の国父・島津久光、そして家老の小松帯刀が、外套に身を包んで待っていた。
「大久保、うまくいったか?」
久光が問う
大久保は一礼し報告する。
「壬生狼が長州藩邸に食いついた、もう京は新選組と一橋と会津に任せて大丈夫だ。」
有馬らには、混乱を大きくするように、伝えている。
「いま頃、京都所司代の放った幕府の飛脚は……鈴鹿の山脈を越えたあたりでしょうな。江戸城へ絶望が届くまで、あと2日」
「さあ、五代頼む、全艦隊四日後江戸浦賀沖へ」
旗艦・太平次丸の巨大な煙突から、空を覆い尽くすほどの黒煙が吹き上がる。
京都が血の海に沈み、幕府の飛脚が必死に東海道を走っているその瞬間、太平洋を迂回する「漆黒の艦隊」が、徳川の息の根を止めるために静かに錨を上げた。
次元の向こうで西郷が泣きながら叫んだ「止めてくいやんせ」の鏡の破片は、もうこの海のどこにも残っていなかった――。




