【維新RTA編】超高速大政奉還4
ここは洛外(京都郊外)の深い山林。
周囲には誰もいない山林で、乾いた銃声がこだまする。
バンッ!! バンッ!! バンッ!!
そこにいる長州藩士の集団が握るのは、仙巌園で作られた「イギリス製エンフィールド銃」
銃に刻まれた王冠のマークが勇気を授けてくれる。
彼らは、銃の傷を見て勝手に想像する。
遠いアメリカの南北戦争。
煙と泥にまみれた戦場。
そこで生き残った名も知らぬ兵士。
その兵士の勇気が、この銃には宿っているのだと。
「……凄い。凄いぜ、桂! 初速も射程も、幕府のゲベール銃とは比べ物にならん! さすがはグラバーの手にかかった大英帝国の最新兵器だ!」
高杉は興奮で顔を紅潮させ、愛銃の引金を何度も引く。
「ああ。これだけの火力があれば、御所を固める会津や幕府方も、簡単には我らを止められまい」
長州藩士たちは、口々に「ありがたや英国製!」「これで勝てる!」と歓声を上げ、熱心に銃を構え直す。
長州兵たちが気勢を上げるその場所から、数十メートル離れた巨木の梢。
木の陰と同化するように身を潜める、二人の男がいた。
特製の迷彩蓑――後世でいうところのギリースーツ――に身を包み、そしてその手には、薩英戦争の折、大破させた英国艦隊から分捕った最高級の双眼鏡が握られていた。
二人はレンズを覗き込み、長州藩士の正確な数と、主要メンバーの顔ぶれを冷徹に記録していく。
長州藩士 五十六。
見張り 八。
エンフィールド 四十二丁
指揮役、桂小五郎。
高杉晋作、確認。
そのうちの一人。レンズから目を離し、不敵な笑みを浮かべた男こそ――大久保一蔵の「影」として京の闇に遣わされた、有馬新七であった。
史実であれば、文久2年の「寺田屋騒動」において、尊王の過激派として島津久光の命を受けた奈良原喜左衛門たちに斬られ、凄惨な死を遂げていたはずの男。
だが、すべての始まりである「月照の生還と西郷行方不明」というバタフライエフェクトが、彼の運命を根底から変えていた。
月照という朝廷の大物が鹿児島に留まったことで、寺田屋に集う大義名分を失った有馬たちは暴発を免れた。その後の謹慎処分を経て、大久保はその有り余る尊王の情熱と命知らずの度胸を高く買い、自らの手駒としてこの京都工作の最前線へ投入したのだ。
「……よぉおっ、喜んじょるぞ喜左衛門」
有馬新七は、双眼鏡の向こうで銃を掲げる長州藩士たちを見て、薄く笑った。
かつての自分も、あの側にいた。
正義と攘夷と尊王の言葉に酔い、今すぐ世を動かせると信じていた。
「かつてのおはんも、あげな目をしちょった」
あの晩、海水をかぶった奈良原喜左衛門が、メモを取りながら笑う。




