【維新RTA編】島津驚異のテクノロジー4
カンカンカン、と小気味よい金属音が、潮の香りと混ざり合って仙巌園の第二ドライドックに響き渡る。
砂浜を掘り割って築かれた堅牢な石造りのドック。その中央には、帆を持たない黒鉄の怪物「西郷丸」が、まるで出番を待つ鯨のように鎮座していた。
「おい、もっとボイラーの圧力を上げろ! 砲身が重すぎてクレーンのロープが鳴いてるぞ! 石炭をケチるな、チェストじゃ!!」
若の怒声に、クレーン小屋の裏で、煤まみれになってボイラーに石炭をくべていた小僧が「ハイッ!」と悲鳴のような声を上げる。
小さな小屋から突き出た巨大な木造トラスの腕が、ギチギチと音を立て、無数の滑車とロープをきしませながら、先日試射に成功したばかりの「二里西郷砲」の砲身を吊り上げていく。
その巨大な蒸気クレーンのレバーを、新婚の初々しさなど微塵も感じさせない手つきでコントロールしているのが、若の最愛の妻、お鶴であった。
「もう少し、ゆっくり」
若がお鶴に、大声と手振りで指示を出す。
砲身が、西郷丸の砲座へ、ゆっくりと降ろされる。
「よし、作業かかれ!!」
エンジニア集団が、砲塔の周りに集まり、砲塔をマウントしていく。
ついに薩摩の怪物西郷丸が完成した。
「お鶴、見てみい。これがわしらの長男じゃ」
お鶴は、油で汚れた手を腰に当て、黒い船体を見上げた。
「ずいぶん手のかかる子でございますね」
「じゃっどん、強か子じゃ」
「ええ。音は悪くありませぬ」
*
完成イベントが開かれた。
ここは仙巌園造船所岸壁
幕府には極秘の建造なので、ひっそりとしたイベントである。
「この船の名を――」
大久保は、一度だけ言葉を詰まらせた。
「西郷丸とする」
その声は震えていた。
「わしは反対したんだがな、大久保がどうしてもと言って聞かんかった、おはんらの長男だろ、すまんかった」
島津久光が吉野の若に耳打ちする。
「いや、とても良い名前であります、叔父上どの、
私も小さい頃西郷に沢山世話になった、遊び相手として尽くしてくれた。
いまの私らがあるのは西郷のおかげであります。」
「そうか…」
久光は、煙を上げ始めた西郷丸を見つめた。
大久保も。
小松も。
吉野の若も。
そして自分自身も。薩摩藩も。
もはや、引き返せぬところまで来た。
関ヶ原以来、島津の胸の奥で燻り続けたもの。
その怨念を、いまこそ徳川へ返す時が来たのだと、久光は静かに心に刻んだ。




