【維新RTA編】島津驚異のテクノロジー3
ここは仙巌園、後世でいうところの、軍事研究所。
吉野の若と、お鶴と、砲塔を開発した大勢のエンジニアと職人たちが作業をする中、
久光や龍馬など、維新のキーパーソンに加え、イギリスから、フランスから招かれた商人が見学に訪れている。
巨大な砲塔の陸上動作試験をしている。
「方位60度!」
若とが叫ぶ。
「方位60度、ブレーキ解除、蒸気弁解放、圧力異常無し」
お鶴が、指指し確認をしながら、テキパキと地上に置かれた砲塔の動作試験を行っている。
小さな蒸気機関が歯車を回す、砲塔がゆっくりと旋回する。
「方位60度、今、蒸気弁閉鎖、ブレーキ ーーー今、ヨシ!」
ジャスト60度で砲塔を止める、周囲のエンジニアから、「お見事!」と声が届く。
「俯角 マイナス4度、ブレーキ解除、蒸気弁解放、閉鎖 ブレーキーー!
装填角度」
「お鶴、お鶴見事じゃ」
若が叫ぶ。
十数人の男たちが、前から装填を行う。装薬を先に込め長い棒で押込み
玉を装填し押し込む。
ライフリングは無い
前装式の滑腔カノン砲、後世では二里西郷砲と呼ばれる超長射程秘密兵器。
吉野の若とが、お鶴に合図を送ると、
「仰角、30度、ブレーキ解除、蒸気弁解放、ヨシ!」
小さい仰角用の蒸気機関が、ギアを駆動する。
「蒸気弁閉鎖、ブレーキ、仰角30度、ヨシ!仰角固定ヨシ!
発射角度です。」
若が叫ぶ。「退避、退避じゃ」
着火を担当する大山巌以外、石で作られた、避難壕へ走る。
「発射!」叫びながら旗を振る
大山が導火線に火を点け、避難壕へ体を滑り込ませる。
約20秒後、「ドゴーン」轟音と共に「ガシャン」砲身が動く、
水圧式の駐退機が反動を吸収する。
復座機などは無い、下がりっぱなした。速射はできない。
30秒後、桜島の白浜沖に、水柱が立った。
さらに十秒後、遅れて大きな爆発音が届く。
桜島側で観測していた藩士たちは、「おお、本当に二里飛んだぞ」と言いながら目を丸くした。
じゃ、距離を測ると、手旗信号で仙巌園、へ飛距離情報を送る。
一度、桜島藤野で中継を受けると十分後仙巌園、へ飛距離の報告が届く。
「飛距離、2.1里(8.3㎞)」
「おおおーーーっ!!」
避難壕から飛び出し、喜びを分かち合っている。
「皆、よくやった、後は西郷丸に据付工事をするだけじゃ」
久光が言う先にはドライドックに新型艦が鎮座していた。
「しかしな、もっと上を向けて撃てば、もっと飛ぶのでは?」
「試験をしましたが、それでは船がへし折れてしまいます。
着弾先もわかりませぬ。」
この時代、艦に載せて実戦運用できる砲としては、世界最長の攻撃距離を持つ怪物であった。
周囲が歓声を上げる中、お鶴だけは砲塔へ駆け戻った。
「左の歯車が鳴いちょります。次に撃つ前に、噛み合わせを直さんと危なかです」
歓声が止まった。
吉野の若は、にやりと笑った。
「聞こえたか」
「はい。嬉しそうな音ではなかです」
*
*
こうして、西郷砲の試験機は完成した。
なお、西郷砲は艦載砲としてはあまりにも扱いづらかった。
撃てば船体が軋む。
復座には時間がかかる。
装填にも人手がいる。
命中精度も褒められたものではない。
だが、沿岸要塞砲としては話が別である。
頑丈な砲台に据え、港や海峡を睨ませるだけで、敵艦は容易に近づけなくなる。
西郷砲の試射成功は、すぐに海外へ伝わった。
長崎。
上海。
香港。
シンガポール。
ボンベイ。
外国商人たちの手紙と新聞記事は、薩摩の新兵器を面白おかしく書き立てた。
“東洋の小藩が、二里を撃つ怪物砲を作った”
もちろん、五代は止めなかった。
売るためである。
世界は知っていた。
幕府の翻訳方が、その記事を江戸城へ上げるまで、四か月。
幕府だけが、知らなかった。
その後、西郷砲は複数の海外勢力から受注を受けることになる。
薩摩で生まれた二里砲は、沿岸要塞砲の定番として、西郷の名と共に世界へ羽ばたいていくのであった。




