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異世界の貴族に嫁入りした海自パイロット、魔法大学で潜水艦狩りを教えています なお旦那は初代皇帝西郷隆盛の玄孫です。  作者: なたろう


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【異世界編】タンデム水中空母実習5

千尋とクリオは、貨物船『ボストーク・プログレス』の甲板上で、意識を失ったガルド機関長を箒に展開された「緊急人員輸送セット」へと迅速に固定した。

万が一デバガメ(オケアン)が釣れなかった場合、クリオを下ろし千尋はガルドを乗せたまま800キロ彼方の北連本土までノンストップで飛ばす覚悟をしていた。重量を極限まで減らすため、その時はクリオは貨物船で一時お留守番である。


『対潜哨戒班より吉野教官へ。デバガメ釣りは極めて順調です。磁気探知、超大型艦の艦影を確認、おそらくヴェリーキー・オケアン級』


鹿屋かのやの基地から応援に来ていた、帝国海軍の陸上対潜箒からの無線が耳に飛び込む。千尋はニヤリと冷酷に口元を歪めると、手元の無線機の出力を最大に跳ね上げた。


『こちら吉野。これより負傷者を確認。――負傷者はガルド・バルトス、年齢は見たところ50前後。瞳孔不同あり、急性硬膜下血腫の疑い。……デバガメの軍医、急がないと手遅れになるわよ』


千尋はボストーク・プログレスの船上から、あえて北連側本国の通信傍受網にも拾える大出力で、有無を言わせぬトーンの通信を飛ばした。

そして、クリオを載せて、意識のない巨漢の機関長を吊るした鉄の箒を限界出力で発艦させた。



数分後。

荒れる海面を割り、ヴェリーキー・オケアンが静かに潜望鏡を突き上げた。

レンズの先、荒天の空に映っていたのは――不気味なほど安定したホバリングで、自国の重傷者を吊るしたまま見下ろしている、あの「異世界の魔女」の姿だった。


『――北方人民連邦所属、ヴェリーキー・オケアン級潜水艦。こちらサツマ帝国立魔法大学校、吉野千尋』


潜望鏡のレンズを射抜くような声が、北連の全受信機に響き渡る。


『貴艦に最新鋭の緊急医療設備があることは、把握している。現在、貴国籍貨物船の民間人が頭を強打し、一刻を争う状態にある。緊急の医療受け入れを要請する』


応答はない。千尋は平然と同じトーンで繰り返した。


『繰り返す。北方人民連邦籍貨物船の民間人が頭を強打、緊急の医療が必要だ。……受け入れを要請する』


その頃、オケアンの暗い発令所の中では、艦長のエレーナが美貌を怒りに歪ませ、奥歯が軋むほどの音を立てて歯ぎしりをしていた。

ハメられた。最初から、自分たちのスクープ精神も、隠密性も、すべてこの女の掌の上だったのだ。だが――、


「……断れるわけがないだろうッ! 自国の同胞が死にかけているのを見捨てたとあっては、連邦の不名誉だ!」


エレーナは拳を卓に叩きつけ、忌々しげに吠えた。


「緊急浮上! 民間人の受け入れを行う! サツマ帝国機の着艦を許可。医官はただちにオペの準備を!」


浮上を開始するオケアンの巨体。しかし、千尋の非情な追撃(無線)は止まらない。


『なお、周囲には救助活動の安全確保のため、サツマ帝国軍の対潜・制空箒隊が展開している。貴艦の不用意な潜航、急速離脱、あるいは兵装の起動は、すべて『人道的な救助活動への敵対行為』とみなし、即座に撃沈処分とする。以上よ』


「な、なにい……っ!?」


脅迫にもほどがある。しかし、空を見上げれば完璧な布陣でこちらをロックオンしているサツマの航空戦力。エレーナは血が滲むほど唇を噛み締めながら、マイクをひったくった。


『……こちら艦長エレーナ。サツマ帝国機、着艦を許可する。負傷者を受け入れる!』

「医官、最優先で処置しろ。敵国の罠にかかったことと、同胞を救うことは別問題だ」

ザバァッ!! と黒鉄の巨体を海面に晒したヴェリーキー・オケアンの飛行甲板へ、千尋の箒が静かに滑り込む。


ハッチから、担架を持った複数の北連水兵が慌ただしく駆け寄り、ガルド機関長を手際よく箒から下ろして船内へと収容していった。


一仕事終えた千尋の前に、艦長のエレーナが甲板へ出てくる。鋭い敬礼の後、氷のように冷たい挨拶を交わした。


「私はヴェリーキー・オケアン艦長、エレーナ・ヴォストーク大佐。……我が国の同志の救助、感謝する」


千尋は箒から降り、クリオを横に並べ、凛とした声で返した。


「私はサツマ帝国立魔法大学校教官、吉野千尋」

「同じく、サツマ帝国立魔法大学校4年生、ユジュヌィ・オストロフ・ヤク・クリオです……!」


エレーナはその名前を聞いた瞬間、うっすらと目を見開いた。


「異世界からの、菊池西郷家の嫁……。それと、北方貴族のお嬢様クリオか……」

「あら、ずいぶん詳しいのね。さすが、毎年恒例のローンチを隠れて覗き見しにくる、優秀なデバガメさんだわ」

「――くっ!」


千尋の痛烈な皮肉に、エレーナが言葉を詰まらせたその時。

オケアンの艦内スピーカーから、パッと明るい音声が響き渡った。


『――医務室より報告! 傷病者ガルド機関長、バイタル安定! 意識反応あり! ただちに処置を継続する!』


その放送を聞いた瞬間、千尋は満足そうに微笑み、パンッと小気味よく手を叩いた。


「よし、完璧ね! 今日はうまく釣れてくれてありがとう、エレーナ艦長。おかげでガルド機関長も助かったわよ」

「貴様……最初からこれを見越して……!」

「ヴォストーク… ところであなた、この前紀伊島で私が泣かせた……じゃなくて、お世話した『紫の魔女』さんに顔がそっくりね。ええと、お姉さんかしら? 妹さんと私との、最高にキュートなツーショット写真がスマホにあるんだけど、見る?」


千尋がニヤニヤしながら、自身のポケットから怪しい端末を取り出そうとした、その時。


「教官。帰りましょう」


後ろで凍りついていたクリオが、千尋の肩をガシッと掴んだ。その目は「これ以上国際問題をこじらせるな」という必死の訴えと、これまでにない強固な意志で満ちていた。


「あら、クリオ? まだお姉さんとお話の途中――」

「帰り。ま。しょう。羽白丸が待っています!!」


クリオは千尋の身ぐるみを剥がすような勢いで強引に箒へと押し込むと、北連の兵士たちが呆然と見守る中、脱兎のごとくサツマの海へと帰還の途につくのだった。

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