【異世界編】タンデム水中空母実習2
実習2日目。
ここは東シナ海の遥か海の底、サツマ帝国から1200キロ離れた海中である。
漆黒の海中に潜むのは、サツマ帝国の主力潜水空母であり、羽白丸型1番艦――『羽白丸』。
全長140メートル、幅16メートル、排水量4千5百トン。
空母という名を冠してはいるが、その巨大な船体が運用するのは航空機ではない。この世界の戦闘の主役である「空飛ぶ鋼鉄の箒」だ。
武装は前方に魚雷発射管8門、後方に2門。さらに垂直方向にミサイルを発射できるVLSランチャー24門を備える。
そして艦体の中央に鎮座するのが、箒を垂直に収納する直径2500ミリの「航空機収納筒」4基。
その狭い筒の内部で、千尋と、魔法大学校対潜哨戒科の4年生になったクリオは、ゴーグルとマスクを深く被り、縦に固定された鋼鉄の箒にタンデム(前後二人乗り)で跨がっていた。
現在、羽白丸は海面近くの浅い潜望鏡深度を維持している。
二人がいる航空機収納筒の中には、凄まじい勢いで圧縮空気が送り込まれ、海中からのコールドローンチの瞬間を今か今かと待っていた。
『現在、収納筒内、2.5気圧に向けて加圧中。射出まであと3分』
発射指揮所からスピーカーを通じて無機質なアナウンスが流れる。鼓膜がツンと張り、密閉された空間特有の圧迫感が二人を包む。
「クリオ、何度も言うけれど、発射の瞬間は絶対に肺の空気を全部吐き出しなさい。急激な減圧で肺をやられるわよ」
「吉野教官、わかってます……わかってますけど、緊張で頭が真っ白になって、忘れそうで……っ」
前を向いたままの千尋に、後ろのクリオが悲壮感の漂う声で返す。
「どうする? 怖いなら今すぐ中止する?」
「いいえ! いいえ、大丈夫です! 絶対に忘れません!」
縦になった箒の足場を踏ん張りながら、クリオは震える手で小さく敬礼を作った。その必死な教え子の様子に、千尋はフッと口元を緩める。
「よろしい。箒の三次元制御はすべて私がやるから、あなたは『息を吐き出すこと』だけを考えていなさい」
『発射まで30秒。吉野教官、問題なければサインを』
千尋はグッと背筋を伸ばし、後ろに跨がるクリオへと顔を半分振り向けた。
親指と人差し指を立てて『発射問題ないか?』とハンドサインを送る。
クリオは一瞬遅れて、左手でピストルのような形を作って返した。『問題なし、オールグリーン』の意味だ。
確かな返答を確認した千尋は、正面を見据える。収納筒の上部に設けられた耐圧球体窓の向こう、こちらを凝視している管制官へ向けて、左手で真上を指差すピストルのサインを突き出した。
――問題なし、オールグリーン! 撃て!
千尋とクリオは、鋼鉄の箒のグリップを肉が白くなるほど強く握りしめる。
発射指揮所からのカウントダウンが、容赦なく鼓膜を叩いた。
『発射まで、5、4、3、2、1――ローンチ!』
羽白丸の上面にある円形のハッチが、凄まじい油圧の音と共に勢いよく開放された。同時に、箒をがっちりと固定していた拘束金具が跳ね上がる。
「――っ!」
千尋は瞬時に魔力を解放し、箒の進行方向である真上へとフルスラスト(最大推力)を掛けた。
ドォン!! と押し寄せる空気圧の暴力。
圧縮空気の爆発的な推力と魔導エンジンの出力が完全に同期し、二騎を乗せた鉄の箒が海中へと弾け飛ぶ。
水中を切り裂く巨大な破裂音が深海に鳴り響いた。遠く離れた敵国の潜水艦のパッシブソーナーでさえ、確実に検知できるほどの強烈な音響エネルギーだ。
視界が一瞬で激しい白い泡に包まれる。世界が激しく振動する中、千尋とクリオは本能的な恐怖をねじ伏せ、思いっきり肺の中の空気を外へと吐き出した。
「ふーーーーーーっっっ!!!」
マスクの排気弁から激しく気泡が噴き出す。
肺が潰れるような錯覚を覚えながら、すべての空気を吐き出し切ったその刹那。
ドバァッッ!!!
衝撃と共に視界がパッと開けた。
泡だらけの海面を突き破った時には、すでに高度は20メートルに達している。鋼鉄の箒は猛烈な加速を維持したまま重力を振り切り、千尋の正確無比なコントロールによって、灰色の雲の絨毯の中へと吸い込まれるように消えていった。
完全にSLBM、発想がアホですw




