【維新RTA編】英国捕虜返還交渉2リハーサル編
大久保らが京で工作活動を進めていたころ。
文久三年七月二十日。
二日後に英国艦隊捕虜返還交渉を控えたこの日
薩摩、南林寺の巨大墓地。
見渡す限り、墓、墓、墓。
苔むした古い墓石。
風化して文字の読めなくなった墓。
倒れかけた無縁墓。
島津家ゆかりの家臣の墓。
町人の墓。
その数は、十一万とも十二万基言われている。
その中の一角だけに、真新しい花と線香、白い布を巻いた墓標、そして新しく削られた墓石が並んでいた。薩摩藩が急造して並べた、偽の墓である。
白木の卒塔婆。
新しい花。
真新しい線香の匂い。
そして、石工たちが刻み続ける新しい名。
「カン! カン! カン!」
翌日に英国艦隊捕虜返還交渉を控えたこの日、墓地の一角では、極めて不謹慎かつ極めて真剣な稽古が行われていた。
「はい、カットー!」
なぜか紙の束を丸めた。
五代友厚の声が、墓地に響いた。
偽石工たちが一斉に手を止める。
その中には、まだ少年の面影を残す東郷平八郎も混じっていた。
「東郷どん、金槌の音が軽い、音が軽い!」
「音、ですか!?」
「そうです。もっと恨みを込めて叩いてください。英国人が聞いた時に、“ああ、これは砲撃で死んだ民の名を刻んでいる音だ”と思うような、重い音です」
石工姿の男は困った顔をした。
「五代様。おいは本職の石工ではなかです。ただの足軽です」
「だから何ですか。明後日は石工です。石工になりきりなさい」
「無茶でごわす」
「無茶を通すための外交です」
五代は言い切った。
その場の全員が、カットとは何だろうと、心の中疑問を持っていたが、五代の気迫に口に出せないでいた。
「はい!!15分休憩!!次場面2から行きます」
五代が大声で叫んだ。
*
休憩中に小松帯刀は、疑問に思ったことを五代に聞く。
「ところで五代どん、あの白い板は何じゃ」
「卒塔婆です」
「薩摩であげなもの、見たことがなか」
「私もありません」
「なら、なぜ立てた」
「英国人には、あの方が“東洋の墓地らしく”見えるかと思いまして」
「薩摩の風習ではなかろう」
「はい。ですが英国人は知りません」
「……なるほど」
卒塔婆は九州では一般的ではないが、横浜の墓地をみた英国人ならば、知っていると思った五代の演出だった。
*
シーン2
墓地中央の通路には、札を首から下げた若手藩士たちが立っていた。
『キューパー提督』
『ニール代理公使』
『アーネスト・サトウ』
アーネスト・サトウ役は、なぜか堀次郎である。
小松帯刀
薩摩側 の通訳 市来 四郎
護衛役の若き島津藩士4名
9名は新しい墓の中央の通路を歩く
そして少し離れた墓の陰には、喪服姿の女が包丁を握って待機していた。
その横では 助監督の西郷吉之助の弟、西郷信吾。のちの西郷従道である。
西郷は小さな声で「始め」と声を掛ける。
「返せ、うちの人を返せえええ!」
ニール代理公使役の若い島津藩士に切りかかる。
護衛役の島津藩士が女を止める。
カットーーー!! 早い! おい信吾、2秒早い!!
「申し訳ございません」
女は笑いながら頭を下げた。
だが、護衛役の藩士――つまり女の本物の夫は、顔を青くして右手の血糊を見ていた。
「お前、今、本気で来たじゃろ」
「芝居です」
「目が芝居ではなかった」
「未亡人役ですから」
「わしはまだ死んじょらん」
「今だけ死んでくださいませ」
「夫婦喧嘩は後にしてください!」
どうやら遺族がニール代理公使を襲い、護衛がケガをするシナリオらしい。
五代監督の演技指導は厳しかった。
「場面2 もう一度、完璧行うまでやるぞ!!」
五代監督の演技指導は厳しい。
実際にキューパー提督とニール代理公使と通訳アーネストサトウが来るのは明後日だ、
リハーサルは日が落ちる時間まで続く。
返還交渉と言いながら、
英国捕虜返還を口実にした薩摩式総合恐喝パッケージです。
あと卒塔婆は九州では使いません。




